Up 「アイヌ」の時代区分 : 要旨 作成: 2018-11-19
更新: 2018-11-19


    アイヌとは,アイヌ文化を生きた者のことである。
    「アイヌ文化を生きた者」が,「アイヌ」の意味である。

    「アイヌ文化」は,一様ではない。
    親族の系統や地域によって違ってくる。
    そして時代の流れによって変化する。

    かくしてつぎのようになる:
      「アイヌ」は,親族の系統や地域によって違い,
       そして時代の流れによって変化する。


    <系統や地域による違い>の方は,ほとんどわからない。
    アイヌは文字をもたなかったので,己の記録というものがない。
    遺物がいろいろあっても,遺物から生活形態を演繹することはできない。
    手掛かりは,和人や外国人が書いたアイヌレポートである。
    しかしそのうちで学術的な見地から本格的と言えるものは,John Batchelor の著作くらいである。
    しかもこれは,地域限定のものである。

    そして,Batchelor の時期が,アイヌ調査研究のラストチャンスであった。
    Batchelor と同時期に Batchelor のようにアイヌを研究しようとする学者は,いなかった。 学者が現れたのは,アイヌが終焉し,時既に遅しとなったときである。
    アイヌ終焉後の「アイヌ研究」は,考古学──遺物調べ──になるのみである。
    文化人類学・民俗学──フィールドワーク──は,したくてもできない。


    一方,<時代の流れによる変化>の方は,対象の存在レベルを<部族・地域の多様性>の上に設けることができ,実際「アイヌ統治史」──これについては文献が揃っている──の枠組が使えるので,今日でも主題にすることができる。

    このとき,時代の流れによって変化するものは,共同体の形と,生業の形である。
    そして,つぎが時代区分になってくる:
        1. 松前藩統治前
    2. 場所制度 (アイヌ隔離政策) 期
    3. 場所請負制 (商品経済政策) 期

    「1. 松前藩統治前」は,和人が進出してくる前の時代である。
    部落の長の上位者に,部族長があった。
    部族長の存在理由は,部族間対立の安定化と,狩猟採集物と日用品の物々交換を内容とする渉外の安定化である。

    「2. 場所制度 (アイヌ隔離政策) 期」は,部落の長の上位者が松前藩になる時代である。
    狩猟採集物と日用品の物々交換も,松前藩に限られ,制度化される (「場所制度」)。

    「3. 場所請負制 (商品経済政策) 期」は,松前藩のアイヌ隔離政策が,商品経済の進出によって壊れていく時代である。
    場所制度が場所請負制になって,「場所」は場所請負人によるアイヌ差配の場所になる。
    アイヌの生業に<出稼ぎ>が加わり,自分を労働力商品にするアイヌが出てくる。