Up 「生業・真面目・堕落」 作成: 2016-11-18
更新: 2016-11-18


    幼稚な論争は,互いに相手を悪者/愚者と定め,やり合うというものである。
    「アイヌ利権」批判は,相手の「真面目」を閑却するとき,ただの悪者論,幼稚な論になる。

    生業は,どんな生業でも,真面目なものである。
    ギャングの員は,ギャングを真面目に務める。
    生業は,矜恃を持ててこそのものである。

    一方,矜恃は,<小児>の(わざ)である。
    <小児>は,<大人>に成長する。
    <大人>とは,<小児>のときに抱いた矜恃・理念のうさんくささが見えてくる位相のことである。
    こうして,生業は,矜恃を欠き,惰性で行うものになる。
    生業のこの位相を,「堕落」という。

    「大人になる」とは「堕落する」ということである。
    この「堕落」に,よい・わるいの意味はない。
    「堕落」は,科学の概念である。


    "アイヌ" は,生業である。
    「アイヌ予算」を資金とし,「施される・見世物に出る」を業態とする,生業である。
    この生業は,"アイヌ" が矜恃になる。
    "アイヌ" を自分の矜恃にできる者が,この生業に就く者である。

    "アイヌ" を矜恃にするのは,<小児>の(わざ)である。
    <小児>は<大人>に成長する。
    "アイヌ" が,矜恃として保てないものになる。
    "アイヌ" の生業が,惰性で行うものになる。
    「堕落」である。

    《"アイヌ" である》には,「真面目」と「堕落」の二つの位相がある。
    「アイヌ利権」批判は,この二つの位相を押さえた者ができることである。


    "アイヌ" の「真面目」──その小児性──は,つぎの論考でよく描かれている:
      佐々木昌雄 「映画「アイヌの結婚式」にふれた朝日新聞と太田竜」(1971)
      (『幻視する<アイヌ>』, 草風館, 2008, pp.105-123)

     
     この映画は、「この春突然、アイヌ式の結婚式をやりたいといい出した」「ヒロイン」に動かされた人々が、「明治生れのアイヌの古老さえ」「見たことがない」ので、「アイヌ人のアイヌ研究家」「の見聞と、ユーカラ、ウェぺケレなどの伝承をもとにして、徐々に」「再現」したものだという。 実際の式を撮影したもので、従来よくあった記録のための復元、撮影のための演出ではないらしい。 このような撮影事情から考えると、記者が抱いた「さわやかさ」はともあれ、「さわやかさ」の源泉と思ったところで、私は首をかしげる。
     ヒロインのいさぎよい決意‥‥‥!? 何が「いさぎよい」というのか。 「アイヌの文化を主体的に継承しようという」「決意」が、である。 「ヒロイン」が「アイヌ式の結婚式」を挙げたいと「決意」したのは事実なのだろう。 だが、それがどうして「アイヌの文化を主体的に継承」することになるのか。 この短絡は、記者の恣意による文飾か、あるいは誰か関係者 (式とかこの映両とかの) のアジテーションの受け売りか、さもなくば、「ヒロイン」が実際そう考えたのか? いや、それはどうでもよい。 問題は、「アイヌ式の結婚式」を行なうことは「アイヌの文化を主体的に継承」することだ、という論理である。 この論理が正しいとされ、記者によって「いさぎよい決意」と書かれていることが、私には否定的「!」なのである。
     そもそも「文化」とは何ぞや、などと大上段に構えたくはない。 だが、「ヒロイン」が「アイヌ式の結婚式」の挙行において「継承」したのは「アイヌの文化」ではない、と言わねぱならない。 語弊を恐れずに敢えて言えば,「継承」したのはせいぜい,「文化」の形骸である、とまでしかしか言えない。
    (中略)
     しかし、彼女は「アイヌの文化」を遂に「継示」できないだろう。 何故なら、根づきとなるべき基盤を喪失した「文化」は枯れねばならないからだ。 「アイヌの文化」が現在枯れているのは、そうなるべくしてなったのだ。
    (『幻視する<アイヌ>』, pp.111-113.) 


    "アイヌ" の「堕落」──その大人性──は,つぎの論考でよく描かれている:
      砂澤陣『北海道が危ない!』, 育鵬社, 2016

     
    協会幹部
    我々に (国からの) 資金援助をお願いしたい。
    国連でもそのように言っておりますから。
    踊りとか唄の保存会とか、アイヌ協会本部への助成も考えると、2億円ぐらい必要じゃないか」
    政府の総合政策室に協会事務局長を入れてほしい。
    国では、国家公務員でないと入れないなどと訳の分からないことを言っているが、だったら (事務局長を) 国家公務員にすればいい」
    札幌市埋蔵文化財センターの遺跡研究や調査活動にアイヌ民族を採用していただきますようお願いします」
    札幌市職員にアイヌ民族の特別雇用枠を制度化するよう要望いたします」
    札幌アイヌ文化交流センターの施設管理ですが、全面的な事業委託の実現を要望したい」
    ピリカコタンの隣にアパート方式で30世帯ほど住めるようなマンションを建てて住まわせてください」
    (国側は当初、審議会のメンバーを) 9人でやりたいと、3人はアイヌ、3人は官房長官ら行政職、あと3人は有識者だと、こういう驚くことを言っていたんですが、そんなことでは私たちはもう納得できません」
    (望ましいメンバー構成は) アイヌ民族5人と、私たちが推薦する有識者5人。
    あと5人は国が推薦する有識者でもどうぞ入れてくださいと、この15人でお願いしますというのが、アイヌ民族の要望でございます」

    鈴木宗男
    (望ましいメンバー構成については) みなさんが言った5人、5人、5人。その説明は分かりやすいと思いますからやっていきたい」
    (遺跡研究などへのアイヌ採用については) 歴史的な意昧があるんだから、ここはすごくアピールしていい話」
    (市職員への特別雇用枠については) 最初から職員だと試験とか何とかあるから、アイヌの専門家ということで、嘱託でまず入らせる。
    入ってしまったら、逆に相手の急所をつかまえる」
    (事業委託の要望については) 市側は財源の持ち出しがあるものですから躊躇していると思いますけど、それは特別交付税で面倒みるとか何とか、知恵の出し方があると思います」
    (活動費については) いろんな会合なり出張で、みなさんが自前で行くっていうのも大変ですね。
    そういった活動費については、国は国で役割があるし、北海道もそれなりに負担してもらわないと困りますね」
    (『北海道が危ない!』, pp.136-139 から抜粋)