Up 相続 作成: 2016-11-24
更新: 2018-12-24


    名取武光 (1943), p.176
    • 妻が長男の嫁の場合に夫が死亡したときは、寡婦は再婚せず遺産を相続して子供を育て、父系の宝物をその長男に伝え家系を絶やさない義務があった。
    • しかし強いて再婚を望む場合には、夫の遺産に対する権利一切を捨でなければならないものときれた。
    • また長男以外の妻が寡婦となったときは、夫の結納品の出所である父系宝物の相続者である、長兄との結婚が優先的であった。
    • もしそれに相当する者がない場合には、適当な親戚の中から寡婦の相続者を選ぶのである。
    • けれどもこの寡婦の相続者を選定するのはその夫で、夫が自己の臨終を予感すると、自分の長兄のあるときはその長兄夫婦、長兄のいない場合は適当な意中の人を親戚の中からあげて、その夫婦を臨終の枕辺に呼ぶ。
    • むかしコタンでは重病人がその長兄夫婦を、または寡婦の相続者と目される夫婦が、その家に呼んだということを聞くと、もはやその家の主人が臨終の近いことを知って眉をひそめたものという。
    • かくて臨終の枕元で夫は寡婦となるべき自分の妻の後事を、妻の相続者たる男子夫婦に托して心置なく逝去する。
    • したがって長兄或は親戚中の扶養力のある男子は一夫多妻となるのである。

    原田信男他 (1996)
    • 子供が成長して結婚した場合、長男から順次、家を去って新居に住むが、だいたい長男は隣に別居する。
    • 男には父系の刀・狩猟具や宝物および祭具が、女には母系の宝器が、それぞれ継承されるが、代わりにそれらを継いだ者が、父や母を養う義務を負う。
      つまり原則として、寡夫は長男の家で、寡婦は長女のもとで、それぞれ老後を送ることになる。
    • 基本的には長子相続制が採られているが、結婚によって年長の者から順に外に出た場合、最後の子供が父の家に留まることもあり、かつては末子相続制が存在した可能性も考えられている。

      高倉新一郎 (1974), pp.145,146
    家長が死ぬと、その座は息子の誰かが継いだ。
    必ずしも長男というわけではなく、長男がすでに他に家を構えて独立している場合は同じ家または付近にいる二・三男、時には末子がその跡を継いだ。
    その時はあくまでも物としての家を継承するだけで、一族の祭祀は特別の事情のない限り長男が継いだ。
    酋長の後などは、長男がその器でないと、長老が寄り集まって相談して決めた。
    大事なことは部落の総寄り合いで決められたようである。
    主婦が老いると、成長した息子夫婦にその席をゆずり隠居することがあった。
    その時は老夫婦が小さな家に別居し、後を継いだ者の扶養を受けるのであった。
    家長主婦のいずれか一方が死亡した場合も同様だった。


    引用文献
    • 名取武光 (1943) :「沙流川筋アイヌの家紋と婚姻」, 民族學研究 新1(1), pp.1-11, 1943.
      • 河野本道・渡辺茂 編『平取町史』, 北海道出版企画センター, 1974
    • 原田信男他 (1996) : 『小シーボルト蝦夷見聞記』の訳注
      • 原田信男他[訳注]『小シーボルト蝦夷見聞記』, 平凡社〈東洋文庫597〉, 1996
    • 高倉新一郎 (1974) :『日本の民俗 1北海道』, 第一法規出版社, 1974