「アイヌ利権」は,内容が大きく含蓄が深い主題である。
これを論じようとするときは,方法論を立てることから始めることになる。
あたりまえだが,「利権」の意味を理解していないことには,話にならない。
ひとは「利権=けしからん」にするが,これは「利権」の意味を理解していない体である。
人は,商品経済のなかで生きる。
商品経済のなかでしか生きられない。
商品経済は,人の「自然」である。
「利権」は,この商品経済の含意 (implication, 必要条件) である。
「利権」の否定は,商品経済の否定であり,自分の「自然」の否定である。
実際,ひとは個々になにがしかの利権に与して生きている。
また,"アイヌ" がどのように進化してきたかを理解していないことには,話にならない。
「アイヌ利権」は,"アイヌ" 運動変遷史の中に位置づく。
その歴史は,「"アイヌ" 進化史」である。
念のため:
アイヌは終焉した存在である。
本論考は,<アイヌ終焉後に「わたしはアイヌ」を外にデモンストレーションする者>をアイヌと区別するために,これを "アイヌ" と言い表している。
ここで謂う「進化」は,生物学の謂う「進化」である。
その内容は,<分化・絶滅>の構造力学である。
"アイヌ" 進化は,同化"アイヌ",文学"アイヌ",政治"アイヌ" の順次降板を経て,経済"アイヌ" を現生種にしている。
そして,「アイヌ振興事業」の「アイヌ」が,"アイヌ" の現在形である。
"アイヌ" は,「アイヌ振興事業」の「アイヌ」を務める者のことになった。
政治"アイヌ" は,"アイヌ" の権利獲得を運動した。
得ようとしたものは,"アイヌ"権益である。
そこで,これの根拠法となる「アイヌ法」獲得を運動し,ついにこれを果たす。
しかし,結果は「こんなはずではなかった」になる。
これ以前は,"アイヌ"権益を<丼勘定>と<馴れ合い>でやってきた。
例えば,つぎのような:
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asahi.com 2006-08-12
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アイヌの遺産「金成マツノート」の翻訳打ち切りへ
アイヌ民族の英雄叙事詩・ユーカラが大量に書き残され、貴重な遺産とされる「金成(かんなり)マツノート」の翻訳が打ち切りの危機にある。言語学者の故・金田一京助氏と5月に亡くなった萱野茂氏が約40年間に33話を訳した。さらに49話が残っているが、事業を続けてきた北海道は「一定の成果が出た」として、文化庁などに07年度で終了する意思を伝えている。
ユーカラは、アイヌ民族の間で口頭で語り継がれてきた。英雄ポンヤウンぺが神様と闘ったり、死んだ恋人を生き返らせたりする物語。
昭和初期、キリスト教伝道学校で英語教育を受けた登別市の金成マツさん(1875〜1961)が、文字を持たないアイヌの言葉をローマ字表記で約100冊のノートに書きつづった。92の話(10話は行方不明)のうち、金田一氏が9話を訳し、萱野氏は79年から道教委の委託で翻訳作業を続けてきた。その成果は「ユーカラ集」として刊行され、大学や図書館に配布された。アイヌ語は明治政府以降の同化政策の中で失われ、最近は保存の重要性が見直されつつあるが、自由に使えるのは萱野氏ら数人に限られていた。
文化庁は「金成マツノート」の翻訳に民俗文化財調査費から28年間、年に数百万円を支出してきた。今年度予算は1500万円のうち、半額を翻訳に助成。同予算は各地の文化財の調査にも使われる。
これまでのペースでは、全訳するのに50年程度かかりかねない。文化庁は、「一つの事業がこれだけ続いてきたことは異例」であり、特定の地域だけ特別扱いはできないという。これをうけ、北海道は30年目を迎える07年度で終了する方針を関係団体に伝えた。
道教委は「全訳しないといけないとは思うが、一度、区切りを付け、何らかの別の展開を考えたい」としている。
樺太アイヌ語学研究者の村崎恭子・元横浜国立大学教授は「金成マツノートは、日本語でいえば大和朝廷の古事記にあたる物語で、大切な遺産。アイヌ民族の歴史認識が伝えられており、全訳されることで資料としての価値が高まる」と話している。
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「 |
28年間、年に数百万円を支出してきた。今年度予算は1500万円のうち、半額を翻訳に助成。‥‥‥ これまでのペースでは、全訳するのに50年程度かかりかねない。」
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「 |
92の話(10話は行方不明)のうち、金田一氏が9話を訳し」
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であるから,つぎのペースの翻訳作業である:
( 92 − 9 ) ÷ ( 28 + 50 ) = 1.06 話/年
よって,つぎのようになる:
しかし「アイヌ法」が立てられれば,"アイヌ"権益は法治になる。
<丼勘定>と<馴れ合い>は,法治に馴染まない。
法治は,手当を受ける者の定義と,該当者の登録から始めねばならない。
しかし,これは成ることではない。
そこで,「アイヌ振興事業」の計画書を提出させ,それを査定し,交付金を出すというやり方になる。
計画書は,短期成果回収がこれのフォーマットである (「中期目標」)。
かくして,《28年間,年に数百万円,1年に1話》の時代は終わる。
<丼勘定>と<馴れ合い>を重宝してきた者は,「こんなはずではなかった」になるわけである。
「アイヌ利権」は,「アイヌ交付金」利権である。
今日「アイヌ交付金」は,「アイヌ振興事業交付金」になった。
「アイヌ振興事業」は,即ちアイヌ観光事業である。
このとき,「アイヌ利権」は,<"アイヌ" が得するシステム>からずれていく。
実際,「アイヌ利権」は,<"アイヌ" 使役システム>──「アイヌ使役」の今日版──である。
「アイヌ利権」を批判する者は,だいたいが,これを<"アイヌ" が得するシステム>と定めて批判している。
このタイプの批判は,ミスリーディングになる。
そして,"アイヌ" イデオロギーを無用に元気にさせてしまう。
「アイヌ利権」は,批判するものではなく,定位するものである。
「アイヌ利権」は,商品経済のダイナミクスである。
それは,<浮沈>を運動し,変容する。
「アイヌ利権」研究として行うことは,この構造とダイナミクスの捉えである。
この研究の方法論は,「生態学」「進化学」である。
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