Up 熊猟 作成: 2016-11-22
更新: 2016-11-22


    熊猟は,「アイヌの狩猟採集生活とは,実際どんなものなのか?」のよい素材である。
    実際,「熊猟」のことばは,頭の中にすんなり入る。
    それで収まってしまう。
    しかし,「実際どんな?」と自問するや,「???」になる。

    先ず,アイヌの熊猟は,猟具が弓矢である。鉄砲ではない。
    実際,松前藩は,アイヌに銃火器を流通させないようにした。
    そこで現代人は,「弓矢でヒグマをとれるの?」で詰まってしまう。

    先ず,毒矢が用いられる。
    毒矢を射られたヒグマは,1〜2時間で死ぬ。

    つぎに,猟期は,冬である。
    冬以外の時期だと,ヤブの中を移動することになるし,見通しが利かない。

    実際,冬以外の時期は,罠で熊をとる。
    その罠は,アマッポと呼ばれる仕掛け弓である。
    これに掛かると,毒矢が放たれる。
    罠を仕掛けた者は,罠を巡回し,ヒグマが掛かったことがわかると,そこからヒグマの跡を追い,回収する。


    冬期の狩りは,冬眠で巣穴にいるヒグマの狩りである。
    ヒグマの巣穴は,雪に埋もれている。
    この巣穴を,雪の変色を目印にして見つける。

    巣穴を見つけてからのやり方は,文献によりまちまちで一定しない。
    ただ,一定しているのは,つぎのヒグマの癖を利用するということである:
      「専ら pull で,push をしない」

    「専ら pull で,push をしない」なので,巣穴の入口の雪を払い巣穴にもぐりこんでも,襲われない。
    引き込まれないことだけに注意して,仕留めの段に進む。
    あるいは,巣穴の入口の雪を払い,木を突っ()いのように立てかける。
    ヒグマはこれを巣穴の中に pull しようとして,悪戦苦闘する。
    これで弱らせて(?),仕留めの段に進む。
    仕留めは,毒矢を射るとか,槍を突くとかである。

    アイヌはこの狩りを,基本,男が独りでする。
    すごいもんである。


    以下は,つぎの書からの引用である:
      砂沢クラ, 『ク スクップ オルシペ 私の一代の話』, 北海道新聞社, 1983.
    時は昭和で銃を使用した猟であるが,猟の雰囲気がよく伝わってくる:

     
    pp.256-258
    芦別はアイヌ話でアッス (立つ) ベツ (川)。 切り立った川という意味で川が急流なので沢からは登れず、奈井江から山に登り、美唄の山に入ってテッペンを越え、芦別の山の奥に出るしかないのです。
     川の中を歩いたり、木を切り倒して作った一本橋を渡って沢をいくつも越え、途中で泊まって二日がかりで歩かなくてはならず、行き着くまではたいへんなのですが、山にはクマ、テン、ムジナなどけものがたくさんいて、必ず猟に恵まれました。
     芦別には、まだ、長男がおなかにいるころから何度も行きましたが、確か、昭和四年か五年に、一度にクマ三頭を捕る大猟をした時のことは、いまも目に映り、忘れられません。
     美唄の山を越え、芦別のテッペンに向かう途中、三抱えも、四抱えもある大きなナラの木のそばを通りかかりました。 あまり大きいので、私が「この木は一本の木か」と聞くと、夫は「バカもの。この木のウロにクマがおってマカナックルアザボは犬三匹殺され、去年は三浦 (四郎) さんが死ぬ目に遭ったんだぞ」と言って「おるかな」と、穴口をキムンクワ (山のつえ) で突きました。
     突いた、と思った途端、夫は背の荷を投げ「おった。木を切ってこい」と大声で怒鳴りました。 私がウロウロしていると「おまえはここに立っとれ」と言って、細い木のある山の上へどんどん登って行きます。 おそろしいので夫の後を追ってゆき、直径五寸 (約十五センチ) ほどの木を、二人で四、五本かついで降りてきました。
     夫は切ってきた木を穴口の前の雪の中に深く刺し込み、キムンタラ (山の綱) でしっかり縛り付けると、穴口を覆っていた雪をあっという間にはね、穴口をすっかり開けてしまいました。 穴が深く、クマは奥にいるので、穴口までおびき出そうと棒の先に犬をつないで穴の中に押し込みました。 細びき三本でしっかり縛ったのに、あっという間にクマに引きちぎられ、犬は「キャン、キャン」鳴きながら飛び出してきました。
     犬がダメだったので、こんどは私が棒の先にガンピを巻いて火をつけ、差し込みました。 クマは、一撃で火をたたき消し、棒も折って、棒を穴の中に引き込もうとします。 夫は「放すなよ、放すなよ」と言いますが、クマとの引っ張り合いで横腹が痛くなりました。
     鼻が見えたところで一発撃ったのですが「ウェー」という声が死んだような声ではないのです。 暗くなってきたので、その日は谷に降り、テントを張って泊まりました。
     翌朝早く「こーい」と夫が呼ぶので穴口へ行くと、夫はクマを殺していました。 長い棒の手前に鉄砲を縛りつけ、棒の先を穴の中に入れてクマの体に触ったところで撃ったのです。 首にキムンタラを巻いて引き出すと乳が出ています。
     「子がおるぞ」と夫が穴に入ったので、私も「子を養える」とうれしくはねながらついてゆくと、夫が急にあとずさりしたので引っくり返りました。 雄と雌の二歳子二頭が抱き会って寝ていたのです。 殺して引き出してみると、雄は親より大きかったのです。 ほんとうに驚きました。