Up サビ 作成: 2016-12-25
更新: 2017-01-01


    ユーカラの(かた)をつくっているもののうちに,<サビ>がある。
    つぎは,鍋沢元蔵筆録の Kutune Sirka のサビの部分を,赤色で示したものである:

I ラッコ退治

1
トミサンベツの
シヌタプカに
この大きな城の
ふところ深く
われ育てられた。
育ての兄
育ての姉の
養育したさまを
われ詳説する。
この宝壇が
低い崖の如く
つらなって
その上に
首領の太刀の
数々の飾り房が
相重なり
互いに房の影が
ゆれている。
宝の前に
20
こがねの寝台
仕切った寝台
寝台の上に
われ育つ。
左座には
白木づくりの一間
光り輝くー間の
立っているさま
おごそかで美しい。
いかなる人の
育てられる一間
であるのか
われ知らず,
毎日毎日
育ての姉は
よい料理をするのに
忙しく廻り
働いている,
うす作りのお謄に
うす作りのお椀
をのせて
われへささげつつ,
白木の部屋
のそこへも
44
運ぶようす
いかなる人に
運んでいる
ものなのか
われ知らず。
こがねの寝台
寝台の上に
平常の彫刻
宝の彫刻
ひとところ
わきめもふらず
していたこと
われ語る。
ある日のこと
風の便りに
まわりきて
耳にしたはなしは
イシカリの川尻に
こがねのラッコが
出没して
いるからと
イシカリ彦の
語ることは
こうあった
『こがねのラッコを
70
水くぐりして
手捕りにした人
そうでなければ
わが妹を
わが宝と
われ一緒にして
おひざもとへ
授けるであろう』
と,かように
言って,
近くの部落
遠くの部落へ
ふれまわり,
それゆえ
近郷の首領
遠村の首領が
イシカリの川尻に
舟を上げて
多数の仮小屋
立ちならぷ,
と言うことが
風のうわさに
われに聞えて
育ての姉
ひどく怒り
顔のうえ
赤すじたてて
そのうえに
97
もの言うことは
こうあった
『さてさて
わが養い給う神の
みことたち
よくお聞きなさい
もしも
かようなうわさの
そのそばに
心をとどめては
なりませぬぞ』
とこう
育ての姉は
言う。
しかしながら
いまいましい心を
われ抱きながら
こがねの寝台
寝台の上に
宝の彫刻j
鞘の彫刻
すること
変りなく
している
云々。
ある日のこと
夕食を
食べて
125
終って
してしまい
わが寝床
寝床の上に
臥したことを
物語る。
どういうものか
眠ることさえ
われ嫌になり
寝床の底に
いる神が
われを上へ
突くが如く
天井に
いる神が
われを下へ
突くが如く
思われて,
そのため
寝床の上に
寝返りして
眠ることさえ
われ嫌になる。
深夜の時で
149
あるけれども
養兄と
養姉の
寝床を
われ眺め
見渡せば
もろいびきを
かいて
いるのである。
ここで
寝床の上に
われ起きあがり
宝の上
かきわけで
立派な箱を
われとりおろし
結びひもを
ときほぐし
箱の蓋を
はねおとす。
箱のなかへ
われ手を入れて
神の小袖
こがねのかぎ帯
173
うす作りの笠
神の剣を
とり出す。
そこで
神の小袖を
わがからだの上へ
拡げかけ,
こがねのかぎ帯を
ただひとむすびに
われまとい,
こがねの小笠を
頭にしっかり押しつけて
笠ひもを
われ自ら締めて,
神の剣は
わが帯の下に差し
われ未だ知らぬもの
であるけれども
戦のまね
われ肩をはって
ぐるりと身をまわす。
それから
戸外へ
われ出てゆく,
今こそ始めて
われを育てた山城を
199
庭先で
われ自ら眺める,
古く立つ柵は
柵がゆがみ
曲っている,
新しく立つ棚は
棚が真直に
なっている,
それで
古い柵は
黒雲の如く
新しい柵は
白雲の如く
山城の上
黒雲の如く
白雲の如く
互いに入り混って
輝いている。
上の横木は
柵にしめて
下の横木は
柵にしめて
深く土べりに
沈んでみえる,
223
上の槍穴は
別にみえ
下の槍穴は
別にみえる,
上の槍穴は
小鳥の巣のように
下の槍穴は
ねずみの巣のように
間をおいてところどころ
黒いかげをおいて

面白く
われ思う。
山城の外へ
われ廻りゆき
眺めれば
山のみちは
別に
浜のみちは
数々の道の肘
曲りくねり,
鍬で掘った道は
243
くろぐろとし
鎌で刈った道は
明るくみえる。
浜のみちを
われ自ら下へ
下って行くと
浜の港
港のほとり近く
われ出る。
海の上は
のどかななぎが
うちひらけていて,
海の上は
沼の如く
海の鳥は
みな互いに尾の下から
首を出して
鳴きかわす声が
ひびきわたり
にぎわしく聞え
面白く
われ思う。
さて, それから
何の神が
268
われについているのか
大神風が
吹き降りてくる音
ひびきわたり
神風の上に
われ浮かされて
飛びあがる。
神風の先端に
われ軽く
ゆれている,
近い岬なら
ひとまたぎ,
遠い岬なら
数えるほどの歩数で
ゆくほどに

イシカリの部落
部落の近く
われかけさせられる。
イシカリの山城の
立っさまは
荘厳でいかめしい。
浜のみち
みちの途中に
浜やぐらが
そこに立っている,
293
やぐらの上
竿梯子に
はるかに登って
よく見ると
嘘であるかと
われ思っていたが
多数の仮小屋が
建っている。
折れ波の下に
こがねのラッコが
太刀ふりまわす
さながらにしている,
かと思えば
沖の折れ波
折れ波の上に
太刀ふりまわす
さながらにするのを
われ見たのである。
すでに
夜あけの星は
見えなくなる
頃になり
山城の中から
音がする,
このとき
318
うすく土の下に
われ自らかぶって
(かくれて)いたところ
山城の中から
誰かが
外へ出て来る,
よく見ると
こう, あった
今年あたり
襦袢の小紐を
とりかえる
ほどの年頃の
若い娘,
赤い髪の毛
真直ぐな毛を
下あごの途中で
切り揃えた
醜い女が
着ている着物や
装飾品で
多少美しく
みえる女,
あわれに思う気持
われ持たせられる
こうしたものを
343
あちこちの部落に
伝えさせて
いた話を
われ思うと
あわれに思う気持
われ持たせられる。
醜い女が
出て来て
竿梯子に
梯子の上へ
たかくたかく
やぐらの上に
腰かけて
いたのである。
そのとさ
仮小屋の上手から
音がして
人が出て来るので
よく見ると
その人物は
みるからに
神の小袖
小袖のうえに
三日月の形
満月の形を
そのあたり一面に
369
染めつけている,
こがねの小笠
笠のうえ
にも同様にあり,
器量のうえでも
本当に立派な人物,
われ未だ見知ぬ人物
であるけれども
ポン・チュプカ彦に
ちがいない。
歩いて来て
やぐらの上へ
手を高々とささげる。
醜い女
打ち笑い
あごを傾ける。
それから
着物を脱ぎ
きりっとしてから
波うちぎわへ
出ていく。
こがねのラッコが
折れ波の下に
太刀を振り廻す
さながらに
入った渦穴のうえへ
395
ボン・チュプカ彦は
自ら飛び込んで
折れ波の下に
こがねのラッコを
手捕りそこねる,
そののちに
仮死状態の骸が
岸へ打ちあげられる。

更にまた
仮小屋の中から
音がして
人が出て来る, ので
われ見ると
立派な勇士
であること,
よろい仕度からみて
なかなかの人物
われ未だ見知らぬ人物
であるけれども
レブンシリ彦に
ちがいない。
歩いて来て
やぐらの上へ
諸手を高く
さしあげる,
420
醜い女は
あざけ笑い
首を傾ける。
それから
レブンシリ彦は
着物を脱ぎ
きりっとして
波うちぎわへ
出ていく,
こがねのラッコが
折れ波の下に
太刀ふりまわす
さながらの
そのうえヘ
レブンシリ彦は
自ら飛び込む。
沖へ二回
岸へ二回
手捕りそこね,
そののちに
仮死状態の骸
岸へ打ちあげられる,

全く情けない奴と
われ思う。
それから
また新たに
仮小屋の中から
音がして
448
人が出て来る,
よく見ると
人かこれ (と思うほどの〉
そこにいる者は,
金のよろいで
体のうえを
なめらかにして
われ未だ見知らぬ人で
あるけれども
ポンモシリ彦に
ちがいない。
歩いて来て
やぐらのうえへ
諸手を高く
さしあげる,
醜い女
あざけ笑い
首を傾ける。
それから
ポシモシリ彦は
着物を脱ぎ
きりっとして
こがねのラッコが
折れ波の下に
太刀ふりまわす
さながらに
474
入った渦穴のうえヘ
ボンモシリ彦は
自ら飛び込む。
沖へ二回
岸へ二回
こがねのラッコを
手捕りそこね,
そののちは
仮死状態の骸
岸へ打ちあげられる。

かの勇子の
動きぶりに
感嘆する心を
われ抱く,
けれども
不甲斐なき奴と
われ思う。
それから
人の見ないように
すきをみて
こがねのラッコを
折れ波の下に
出てくるところを
われじっとにらみ
つけて
いたところ,
こがねのラッコが
折れ波の下に
502
太刀をふりまわす
さまをなす,
ここにおいて
われ眺びこみ
こがねのラッコの
そのうえに
槍の如く
折れ波の下に
われ手でつかみかかる
けれども
手捕りそこね,
沖の折れ波
折れ波の穂の上に
手捕りそこね
引っ返してまた
潜るように
見えたところ
そのゆく先へ
われの片足を
ちょっとおっつけ
したところ
人の影に
眼に見てとり
引っ返してまた
わが両腕の間へ
眺び込ませる,
ここで
こがねのラッコの
530
その首を
つかまえる。
それから
天空の上へ
引き去り
真直ぐに
わが山城へ
疾走する。
いつもながら
シヌタプカのわが山城は
大盃の立つ
如くに
その半ばまで
そこにもやが
たなびいて
その美しさ
われ物語る。
山城のそば
われ落ち
下ったのである,
山城の中へ
われ入り
垂らした入口を
静かにあけ
入ってみれば
もはや
556
山城の中は
明るくなり
養兄
養姉
もろいびきを
かいて
いるのである。
こがねのラッコを
宝の上に
投げすてて
わがよろいを
自らといて
宝の上に
われ置く。
そして
こがねの寝台
寝台の上へ
身をなげて
もとのすがたで
よく眠っている
ふりをして
前のすがたに
していたら,
養姉は
起き上ったように
思われて,
あかあかと火を
燃やし立て
584
義姉
炉ぶちから
宝の上を
見渡し
こがねのラッコを
見つけては
遠くあごを突き出し
あごをそむけ
首をまげる。
その時に
育ての兄
起きた如く
思われる,
育ての姉は
育ての兄へ
頭をまわし
低い言葉で
互いに話し
宝の上へ
あご指し
すると
育ての兄
宝の上を
見渡して
こがねのラッコを
見つけては
その憤り
顔のおもてに
612
燃えたって
真直な炉ぶちを
足でふみにじる,
かばかりの美男子で
あったけれども
怒る顔のみにくさは
かくもあるものか
われ知らぬ。
その時に
左座の
白木の部屋の
中に音がして
人が出て来る,
見れば
立派な人物
なのである,
育ての兄
育ての姉の
有する美貌を
われ探して
みたのだが,
何のその
美しいことは
いま始めてで
立派な神の如き
姿である,
638
あごひげの黒みは
未だ生えず
髪の形は
ちぢれていて
唐草模様のように
金色の水が
したたる如くである。
そのように
彼の若き人
美しい姿
われより少し
年上のように
思われる。
前へ出て来て
炉ぱたへ
膝を
折り坐る
そうしたら
育ての兄
宝の上へ
日くぱせをする,
すると
カムイオトプシ
若きわが兄君は
宝の上を
向いてみて
こがねのラッコを
見たところ
666
その憤り
顔のおもてに
燃えたって
そのうえ
語ることは
こうあった
『われら養育する君よ
悪弟よ
ほかでもない
こがねのラッコを
退治してしまった,
こうなっては
その昔あったこと
また新たに
起ってくる,
そうなれば
われらの部落みな
無事にあること
よもやないであろうぞ
しかしながら
われら養育した君を
前にして
戦すること
みんなで
しなければならぬぞ
691
われらの悪弟の
所業ゆえに
戦が始まる』
こう
言っている。
けれども
わが兄
兄君達は
われを尊敬して
いるらしく
数々の言葉の睡を
のみ込んでいる,
腹の中では笑って
われ面白く思って
いたこと
われ語る。
II ラッコ泥棒

707
このたびは
静かにして
宝の彫刻
力鞘の彫刻
それのみ
仕事にして
いたら,
ある日のこと
ただ風の便りで
聞いた話は
こうあった
『イシカリ姫は
数々の食事もしないで
さきの御飯も
あとの御飯も
その手前で
あごをそむけて言うのは
こうあった
「どんな勇士が
こがねのラッコを
退治したと
728
しでも,
神の仕業であれば
私は死んでも
神の許へ参って
嫁しづきます,
もし人間で、あるなら
島の果てまでも
探しまわって
嫁しづきたいものよ
こう言って
いる話を
風の便りで聞き,
あの悪い奴めと
われ思う。
それから
やや久しく
暮していると,
ある日のこと
海岸べりへ
戦の物音が
聞えて来る。
軍の先駆に
事の由をふれる者の
やって来る声が
響きわたる。
ここにおいて
育ての姉は
様子をみるに
756
外へ出て行くと,
浜道の途中
少なからざる人達が
あるものの如く
聞えてくる。
ややしばらくして
育ての姉が
戸口に
もどり来るすがたは
こうあった,
男子のように肘を
われに伸して
そのうえに
話すのには
こうあった
『もしもの事を
心配していましたが
こがねのラッコを
養育した弟君が
退治した為に
戦になってしまった,
イシカリ彦が
自分の妹を
かばって
二つの部落
三つの部落を
頼み廻わり
全滅させる大軍が
384
押し寄せて来たのです,
陸軍も
別に
海軍も
別に
押し寄せて来た声
なのです』
と, こう
育ての姉は
語り続けるので,
育ての兄
カムイオトプシ
小兄君の
方々は
いっしょに声を
合わせて語り
『かようなことを
われら心配していたが
金のラッコの為に
戦がはじまる。
しかしながら
平和に治めてきた
われらの城
なのであるから
もし破壊することは
我々として忍びない。
育ての君の
そのみ前に
812
三人して
この戦争を
引き受けて
戦ってみても
敗れる様な事は
なかろうぞ
兄上らは
肩をあげ
いからせて
語っている。
育ての兄
育ての姉
カムイオトプシ
三人して
武装した様子を
われ語る,
( 三人は)外へ
出て
行ったのである。
今はすでに
浜辺の近くへ
着いた
らしく
われ思われ,
その時に
悪い戦の物音の
鳴りひびく音を
われ聞く。
840
それは全く
育ての兄
育ての姉
カムイオトプシの
激しい白刃の音が
聞えて,
絶え間なしに
軍勢の斬られる音が
続いている。
その時に
われは飛び起き
われの装束を
脱ぎ捨て
神の小袖
こがねのかぎ帯
金の小さい陣笠
神のつるぎを
宝の山へ
投げ置いて,
それから
左側の
衣類の棚から
下人の衣を
引きはずし
われ肩にかけ
着る。
そして
左側から
868
炉ばたに
炉のまわりへ
わが脚を伸し
下人のする股火を
下人の目つきに
われ目玉をキョロキョロ
下人のすがたを
われ真似て
いたところ
空窓から
何者なるかな
星の光の如く
上梁の上へ
飛び降りて
そのあとに
梁木の上へ
飛び降りる。
たちまち
金のラッコへ
手を掛ける音が
響きわたる。
ここおいて
われ逃して
891
なるものかと
われ思って
飛び起き
下人の着物を
板間のおもてへ
脱ぎすてて,
そして
わが鎧を
われ装束したこと
われ語る。
すぐさま
彼奴を
梁木の上に
われ手捕りそこね
上梁の上にも
手捕りそこね
空窓の上に
金のラッコを
われ取りかえす。
そのあとに
わが太刀の切先を
一撃に斬り下げる。
あの憎い奴
チュプカ彦の
打斬られた屍が
板の間に
崩れ落ちる。

それから
919
金のラッコを
宝壇の上へ
静かに置き,
わが鎧を
解いて
宝壇の上へ
静かに置く。
それから
下人の着物を
肩にかけて
着る。
そして
炉ぱたで
下人の様を
われ真似して
いたところ
また新しく
空窓から
上梁の上に
星の光の如く
飛び下りた。
たちまち
金のラッコへ
手を掛ける音が
響きわたり
ここにおいて
われ飛びおき
下人の着物を
947
われ自らはぎ
板間のおもてヘ
われ脱ぎすて,
そして
わが装束を
宝壇の上から
つかみとり
武装したこと
われ語る。
彼奴を
とり逃して
なるものかと
われ思って
梁木の上
太刀でとり逃し
上梁の上に
わが太刀の切先を
一撃に斬り下げ
こがねのラッコを
うしろから引張ると
あの憎い奴
レプンシリ彦の
打斬られた屍が
崩れ落ちる。

それから
わが鎧を
こがねのラッコと
いっしょにして
975
宝壇の上に
静かに置く。
それから
炉ばたで
下人の様を
われ真似して
いた有様を
われ語る。
その時に
耳に入ってきたのは
育ての兄が
皆一族にて
激しい戦の物音
二神の死ぬ音
三神の死ぬ音が
絶え間なく
続けておこり
半死する者
即死する者
戦場の上に
互い音を
響かせて
地の底に
響きわたる
感嘆の情を
1000
われ抱く。
その時に
またしても
何者なるか
空窓ヘ
星の光の如く
落ちてくる,
間もなく
金のラッコへ
手を掛ける音が
鳴りひびく。
われ飛びおきて
下人の着物を
板間のおもてへ
投げ捨て
われの鎧を
宝壇の上から
とりあげて
武装したことを
われ語る。
それから
われ飛びあがり
上梁の上に
手捕りそこね
空窓の上に
手捕りそこね
高柵の先にも
手捕りそこね

1028
天空の上に
引きこんで
いくらやっても,
太刀をふりまわし
手をふりまわし
したけれども
太刀にかかる音
手にかかる音は
全くない。
左手の方は
にぎりこぶしの手を
二つの魚かぎの如く
三つの魚かぎの如く
われほのほを
おしてゆくように
右手は
下ゆく太刀影
燃え立つ焔の如く
上ゆく太刀影
燃え伏す焔の如く
われ焔を
燃やして追う。

しかれども
わが太刀の間を
1052
わが手の間を
風の如くに,
太刀の先
手の先を
かわして
捕えることさえ
できなくて
天空の上に
手の生えた鳥のように
する様を
われさながらして
天空の上に
われとり逃がす。
今は堪えかねた奴は
後に戻って
陸地の上に
矢の如く降り
わが里川の
川尻へ

走って
逃神となり
川に沿うて下へ
下るさまは
けむりを立てて走り去り
さてもさても
どこの国の者か
飛立つ様子
どなたか知らぬ
1080
何処までも
金のラッコを
手捕りそこねる。
もはや
わが里川の
川尻へ

出させられる。
思いもよらず
かかるもの見るとは
思わなかったが
われらの港
港の口に
大きないくさ船が
沖へ張る綱
陸へ張る綱
錨で止めて
大いくさ船が
止っている,
後からわれ追った奴
その船の上へ
指して走る。
艫の先に
太刀でとり逃し
舳の先に
1104
太万でとり逃す。
今は堪えかねた奴は
船窓から
飛び入る様子
その上に
われもつづいて
船内へ
われ飛込む。
見れば
武装した軍勢が
互に跳り立っている
しかれども
何処でも
後からわれ追う奴を
手捕りそこなえば
面白に
かかわる
跳上る上に
まわるところ
われ太刀の先で
斬りはらう。
半死する者
東の空へ
音たてて蘇生し
即死する者
西の空へ
低く音が
おさまって消える,

1132
いくさ船の上へ
音の霊魂が
入り乱れて
響きわたっている。
どこまでも
ラッコ持って逃げる奴
後をわれ追う
今は堪えかねた彼
船窓から
外へ飛び出し
艫の板間に
太刀でとり逃し
舳の上で
確かに
金のラッコを
われ取り返す。
そのあとに
わが太刀先で
斬りはらい
よく見れば
あの憎い奴
ポンモシリ彦
である。
この勇士だもの
こがねのラッコを
退治した動作が
勇ましい奴
であって
1160
勇ましい姿に
感嘆の情を
われ抱く。
その間に
大きないくさ船は
錨をとりあげ
しぱりあげ,
帆の腹は
どんどんふくれ
われらの国土へ
尾を遠く
向けていて
外国へ
翼を高く
伸ばし,
大きないくさ船は
海の上
すべっていて
船の胸板は
白波分けている。
それから
船内で
魔態の暴れるよう
われさながらに,
われ近寄る者は
1185
両腕の中に
斬り倒し,
遠く斬るものは
両腕をさしのべて
斬り倒し
戦などは
遊びの踊りのよう
わが胸のうちは
うきうきとしている。
即死するものは
西の方へ
低く音が低く
おさまって消え
半死するものは
東の方へ
音を高らかに
聞えてくる,
その為に
互いに音が
びひいている。
その時に
大きな神風が
海の上に
降る音のさま
とどろきわたる,

それ故に
上の波は
沈めさせられ
1213
底の波は
浮かばせられる
そのように
大きな波濤が
岩山の如く
肩を並べて
たび重なる。
それで
海の上は
渦を巻き
飛び立つ雫は
虹のように
海原へ
飛びまわる,
かえり雫が
雨の降る如く
落ちる音の
そのさまは
ザーザーと鳴る。
大きないくさ船
波間に浮き沈み
させられる。
飛び走りながら
われらの陸地を
みてみると,
もはや
岸に立つ山は
炉ぶちのように
1241
奥地に立つ山は
飯盛りのように
見えている。
もはや
大海のまんなかに
われ出てきた
らしく
思われる。
大きな神風は
烈しく吹いて
大きないくさ船の
帆柱のてっぺんは
キッキッと鳴っている。
何処でも
われ通り過ぎるところ
人々敷くが如く
遠く連なり,
若い気合を
心の中に
かけながら,
われ振る太刀で
人間の首は
血煙とともに
われ太刀で、飛ばし
わが上に
散っている。
そのために
絶え間なしに
1269
二神死ぬ音
三神死ぬ音が
戦場の上に
互に音が
響きわたる。

よくみると
もはや
われらの国土
国土のすがたは
みえなくなり
外国の陸地
陸地のすがたが
わが方へ高く
たち上っている如く
見えてくる。
いづこにあっても
勇気のあるものは
細い群になって
われの前へ
進み出されると
幸にして
野草を切る如く
斬り倒したこと
われ語る。
臆病者は
遠巻きに
束をなしてくると
遠く太刀を振い
1297
近く太刀を振い,
遠くに斬るものは
われ両院をさしのべて
斬り倒し,
近くに斬るものは
われ両腕の中に
斬り殺す。

もはや
多数の軍勢が
少数になって
人々のひとかたまりに
なってしまう。
見てみれば
どなたの国か
知らないが
港の近く
出ている,
よくみると
こう, あった
大きな岬が
大海のただ中
沖へさし出ているのが
よく見える。
崎の尖端は
1321
互に向き合う山になり
先が高くなって
さし出たのが
さやかに見える。
長い崎の岸辺は
狭い砂浜が
長くのびていて
港の入江は
大きな岩と
小さな岩が
立ち並んでいる
のが見える。
ここで
船の中から
われ飛上り
大きな軍船の
帆柱の中央を
宝剣で一撃する。
大帆柱は
海上に
倒れ
大きないくさ船は
神風のために
横に吹かれて
海中の岩の上
全く乾魚の如くになり,
少しばかりの人々は
1348
ともに犬の頭を
並べた如くに
われ見えたのである。
そして
船の上から
われ飛び上り
浜の砂原の上に
下り着く。
III オマンペシカの戦

1366
それから
さて,眺めると
崎の丘の上
多数の部落が
建ち並んでいる。
部落の前に
物見の櫓の
立っているさま
いかめしい。
櫓の上から
大声高らかに
カッコー鳥の如く
声がひびいてくるのは
こうあった
『昔あったこと
今の世にまた
もちあがって
しまったのだ。
そのむかし
カネサンタ姫は
つがいのラッコを
守り神とした女性
1378
であった。
雌のラッコを
石狩の河口に
潜って餌を求めさせ
そのため起ったいくさ
このオマンベシに
あがって来たのだ
その時に
わが先祖の
申した事は
こうなのだ
「何の原因もないのに
少数の首領に
味方して
戦うことを
われは好まぬ。
それ故に
シヌタプカ彦に
味方して
立ちあがり
この戦いを
共に助けあい
辛酸を分ち合うぞ」
それで
お札のしるし
として
シヌタプカ姫が
わがオマシベシへ
1406
嫁いで来たのである。
その為に
こうしている
妹といっしょに
われ居るのである,
その次に
わが妹ほどの
巫女は
いないのである,
雲の中にかくれるものは
巫術で下し
土の中に埋れるものは
巫術で浮かばし,
するのであるから
わが妹の
巫術でみたことは
「昔あったことが
また起きてきました,
それは
カネサンタ姫の
守りラッコを
イシカリの川口に
出没させ
悪イシカル姫の
仕業のために
この戦を
わがオマンベシへ
あがらせた様に
1434
思います」
と語ったのだ,
わが妹の
語ったことが
本当であった。
わがオマンベシへ
上陸した
けれども
わが弟君の
この戦
戦に相並び
部落の仲間も
味方になって
立上って
やらねば
ならんのだ。
わが仲間よ
みなよく聞けよ
もしも
われの言うことに
そむくものがあれば
わが剣の刃を
日ら受けることを
汝等するで
あろうぞ』
といって
誰やら知らぬ人が
部下の者達へ
1462
教へ諭している
大声が
カッコー鳥の声の如く
ひびきわたる。
そのとき,
犬の頭を並ベた者どもが
狭い砂浜へ
泳ぎつく。
ちょうど, その時
オマンベシの上から
鎧武者の群が
下りて来る,
あれ程までも
部落の首領が
部下の者共へ
教へ諭したもの
何を聞いたものか
一人も居らず,
それで
部落の首領が
大声で叱る声が
ひびき聞える。
『何度も悪口を
はき出すこと
よくもするものだな
悪い部下の
やりかたの
不思議なことよ
1490
汝等そうする故に
わが太刀の
鋭刃の上
自ら横たへること
汝らするで
あろうぞ』
と言っている。
村の首領が
言っている
けれども
誰も聞くものは
一人も居ない。
浜道の上から
鎧武者の群は
押しあい飛びはね
洪水のみなぎる
如くにして
やって来ると,
その群の上をぱ
われ太刀を抜いはらい
われ通りすぎるところ
人々敷くが如く
遠く連なり,
近く斬るもの
われの両腕の間に
屍を斬り,
遠く斬るものは
両腕をさしのべて
1518
斬り倒す。

その為に
わが腕の上は
悪い血汐が
下にしみとおる,
いかなる時も
左手には
金のラッコを
にぎりしめ
右手には
太刀を鋭くまわし
多数の武者の群を
草を刈る
如くである。
その時に
大きな神風が
国土の上へ
降り下りる音
とどろきわたる。
樹木の (神〕
折れようとするものは
幹の真中より,
上の木の技は
折れ砕け,
折れ難いものは
根元より
掘りおこされ,
1545
青草の根は
神風に吹きとび
その為に
戦いの真上
枝の折れ屑
汚れた土ほこりが
神風の尖端へ
小鳥の群の如くに
飛びより
後戻りして
戦いの上をば,
技の折れ屑は
投げ木のように
投槍の如くに
降り落ちるさまは
シユーシユーと鳴る。
その為に
この武者の群の
木で死ぬ者は
別にあり,
汚い土ほこりは
神風の尖端へ
飛び立って,
その為に
戦いの上をば
1570
ふさいでいる。
鎧武者の群は
何に当るべきものか
虫の群の
上方に飛ぶ如くである。
槍を持つ群は
別にあり,
槍を持つ群は
高い技の林の如く
立ち並んでいる。
弓を持つ群は
別にあり
弓を持つ群は
短い技の林の如く
立ち並んでいる。
うしろの武者の群は
遊びの踊りを
肩を並べて
とびはねる。
前の武者の群は
荒々しい踊り
互いに前に手を
伸ばしている
勇気のある者は
細い群のように
われの前に
出てくる。
槍の武者は
1598
腕をしごき
槍の先を
真直に
われの胸元を
突いてくる。
わが上に突刺してくると
当らねものは
味方向志で
互いに槍を眉間にうけ
仲間同志のけんかで
騒いでいる。
弓を持つ群は
弓の上をば
シューシューと射ると
われに当らぬものは
味方同志で
互いに矢は眉間に
仲間同志のけんかで
騒いでいる。
近く飛ぶ矢は
あられの如く
すばやく
飛んでくる。
遠く飛ぶ矢は
わた雪の如く
ゆっくりと
飛んでくる。
しかれども
1626
槍の間, 弓の間
吹く風の如く
飛びまわる。
いつまでも
若い気合を
われ心の中に
かけている。

あれ程われ殺したもの
いつまでも
減るようすが
全くない。
そのとき
オマンベシカ彦が
やって来たのである
それは
立派な方
であることか
カムイオトプシの
容貌を
この世の上に
われ見探して
いたけれども
立派な人物で
勇者の容貌
容貌をあらわしていて
別にみえる
驚嘆すべき人,
ほんとうに
1654
本島人の
顔つきを
している。
歩いてきて
わが身の方へ
刀をそらせ
そして
戦場の上へ
刀を抜く,
われ何を斬った
のかと
わからぬほど
この神の如き人の
動きぶり
をしているのに
感嘆の情を
われ抱く。
その時に
何ものかが
金のラッコを
ひっぱって
そのうえ
語るには
こう,あった
『私は
オマンベシカ姫
なのです。
シヌタプカ彦
1682
本島人の兄君よ
金のラッコを
われに渡して
下さい
この戦いは
大変なことに
なるゆえに
利腕自由にして
戦って下さい
このオマンベシを
過ぎて行くと
互に向き合う山になり,
先高の突出た山に
なっており,
そこの部落の首領が
ウカムペシカ彦
なのです。
その勇名は
わが国のうちに
及ぶものがいないのです。
そればかりでなく
下僕の強いのを
持っているのです。
下僕ニツネヒの
もつ勇気に
勝る者は
1708
いないのです。
金のラッコを
放して
利腕自由に
戦って下さい』
われ声を聞いて
肩越しに
それを振りむいて
みると

憎き憎ま
悪イシカリ姫が
われに嘘を
言っている,
かんしゃくを起して
思イシカリ姫の
その上に
刀を打ちふるう。
驚きの叫びと共に
身をかわす途上に
ちぎれる屍を
われ斬り散らす。
それから
戦場の上へ
われ太刀を打ちふるう。
そうすると
突然
何者かが
われをうしろに
1736
引っぱり
ながら
語ることは
こう, あった
『本島人の兄君よ
金のラッコを
われに放して
下さい
この戦は
たやすいものでは
ないのです。
ウカムペシカの
部落の首領と
悪下僕ニツネヒが
この戦に
来て手伝いを
するならば
危いものと
私は思います
利腕白出に
戦いなさい』
と語る声があったので
われ肩越しに
ふりむいて
みれば

チュプカ姫
である。
われかんしゃくを
1764
起して
(彼女〕の上へ
わが太刀をふるい
身をかわす途上に
ちぎれる屍を
われ斬り散らす。
またしても
戦場の上
太刀をふりまわす,
あれ程斬ったものが
いつまでも
虫の群が
上方に飛び
オマシベシカ彦と
二人して
若い気合を
われ心の底から
かけながら
草の如く斬る。
それ故に
勇気のある者は
細い群をなし
われの前に
出て来ると
われ槍をたたき斬り,
弓を持つ武者は
われ弓をたたさ斬り,
臆病者は
1792
槍を横に
して
列をくみ
群がっている。
われ遠く追いかけ
近く追いかけ
絶え間なく
二神の死ぬ音
三神の死ぬ音が
戦場の上に
互いに音たてて
ひびきわたる。
半死する者は
東の方へ
音を高くして
それていく。
即死する者は
日の沈む方へ
音を低くして
おさまっていく。

その時に
何者かは
知らぬが
金のラッコを
われより引っぱる,
肩越しに
ふり返って
みると,

1820
今度こそ, まことの
オマシベシカ姫
外人の妹
にちがいなく
本島人の顔立を
われにじっとすえている。
今年あたり
女衣の紐を
胸高にしめた
くらいの
どこの部落に
育ったのか
評判がないかと思うほどの
美人である。
巫術使いのように
巫術をぱ
その顔色に
隠している。
姿をかくした守り神は
星の光の如く
その頭の上
光って見える。
姿を呪わした守り神は
1873
こうもりの群の如く
まわりに
影の如く黒々とする。
今始めて
金のラッコを
われ渡して
今こそ
利腕白由に
なったゆえ,
戦をするのに
遊ぶ気持のように
われの心のさまは
うきうきとする。
雄々しく振う太刀は
人間の首や胴を
血煙りと共に
わが太刀でとばし,
オマンベシカ彦の
働きに
われ負けたら
面目にかかわると
われ思い,
左手で
われ上げるさま
シューシューと
軽くたたくもの
魚のはたはたとする
そのようにして
1871
強くたたくもの
死魚の崩れる
そのようにし,
われ強く蹴るもの
死魚の崩れる
そのようにし
われ軽く蹴るもの
魚のはたはたする
そのさまをしている。
今はすでに
多数の軍勢は
少数になり
ひとかたまりに
なっている。
その時に
わが守り神は
戦場の上へ
落ちてきて
胴体のさま
ぐねりまわし,
うろこを高く
立てている,
そのために
火炎のひらめき
飛び散って
そのために
戦場の上
耕した畑ぐらい
1899
耕した畑よりも
燃えてゆき,
部落の中をも
畑地は荒れはてる
かと思えば
夏の雨が
澱しく降り
下に落ちてきて
燃え広がるところを
消してゆく。
そのとき
ウカムペシ部落に
物すごい音がして
大神の
やってくる音が
ひびきわたる。
地底にまでも
音がひびきわたり
天空も
裂ける如くになり
遠く来るもの
その通りになって
先の雲足は
二つの玉雲になり
三つの玉雲になり
互に飛びちらす。
1925
雲足の先は
大粒のひょう
大粒の雨の
落ちる音の
なすものは
ザアーザアーと鳴る。
この神風は
戦場のうえに
かぶさってきて,
たちまち
来るものと思っていたが
そんな事とは
われ思いもよらず,
不意に上から
神の剣の光が
虹の如くうねり
わが上に落ちてくる,
彼の刃の下をくぐり
わが太刀で払って
打ってゆくと,
わが太刀の先に
手ごたえがあり
ウカムベシカ彦の
死霊の
飛去る音が
東の方へ
生き還る人の如く
音をたてて
1953
それていく,
怖れられていた
ウカムベシカ彦が
であったが
一太刀のもとに
斬り殺しかと
われ思っている。
その時に
また新しく
ウカムベシカに
轟然として
神の来る音
のさまが
ひびきわたり,
戦場の上へ
雲のーむらが
やってくる。
すると
オマンベシカ彦が
不意に空から
刃の光を
虹の如くうねらせて
彼の上に落して
見えるところ
刃の下をくぐれ
オマンベシ彦は
太刀で斬り込む,
悪下僕ニツネヒの
1981
死霊の
飛び会る音が
ひびきわたり,
生き返る人の如く
東の方へ
音を立てて
それてゆく。
それから
すでに
鎧武者の群は
少なくなり,
しばらくして
犬や虫けらを
全滅させて
今は
われらの戦いを
終って
さっと打晴れる。
それから
外人の兄と
妹と共に
勝どきを
あげたいのである。
そして
オマンペシ彦
外人の兄の
語るには
『戦いをこれ以上
2009
続けることは
よくありません。
それ故
本島人の弟よ
あなたの城へ
われら帰って
戦のあいだに
息やすめを
われらしようぞ
と語り,
それで
三人して
神風の尖端に
軽く
ゆられながら
帰国したわけである。
トミサンペツの
シヌタブカの
われの域へ
われら着くと
外人の兄と
外人の妹が
二人して
語ることは
こう, あった
『いかにも
評判の高い
シヌタプカの
2037
神の居城
であるカミら
山城の神の
半ばまで
かすみを
ひきまとっている』
と, かように
互いにこそこそと
語っている。
山城のかたわら
下に飛び
降りたいのである。
われら入って
家の中を
見廻すと
育ての兄と
育ての姉と
カムイオトプシと
三人して
炉端で
高枕をして
いる。
突かれた跡
斬られた跡
傷だらけで
いたのである。
われらが来たのを
見ると
2065
起き上って
床の上に
凱歌の声を
あげたのである。
IV 先に入る者, 後に入る者

2069
いつもかわりなく
わが兄たち
傷の手当を
していたら,
ある日のこと
養兄は
こう語った
『われら育てたおかた
みなの者たちよ
話をするゆえ
よくお聞きなされ
われらともに
戦のみに
せわしい日を
送っているゆえ
そのために
先祖の祭壇も
寂れあせた。
であるゆえ
お酒をつくり
われらの神を
祭ることに
しようぞ』と
2092
語って
外の召使いに
いいつける。
そのために
六つの俵を
倉から取り出し
六つの行器を
横座に並べ
お酒を作る。
二日三日に
なったら
神の飲みたいもの
となって
酒の香りが
城のうちに
みちあふれる。
それから
召使いども
酒をこす者は
互にザルを
走らせる。
幣をけず、る者は
2114
互に小刀を
走らせる。
酒をこす音
幣をけずる音
互に起る音
おもしろく
楽しい。
それから
養兄が
客を招く声が
聞えてくる,
ヨイチ彦を
妹とともに
招く声がし,
ルベットム彦を
招く芦がし
サンプト彦を
招く声がし
ルエサニ彦を
招く声がし
使いの召使い
外へ出てゆく。
まもなくして
人々の来る音が
2138
ひびきわたり
城の近く
人の跳びおりる物音が
鳴りわたる,
首領が連れだって
入ってくる。
一番先に
ルペットム彦が
入ってくる,
サンプト彦も
入ってくる,
ルエサニ彦も
入ってくる,
一番あとから
ヨイチ彦が
妹とともに
入ってくる。
互いに会釈の言葉
聞えてくるが
どの首領も
みな同じく
立派な挨拶だが
そのなかでも
ヨイチ彦の
言葉づかいが
聞えてきて
勇壮な者と
われ思う。
2166
勇士たちのなみいる
そのなかで
ヨイチ彦は
妹とともに
勇壮さにおいて
美貌さにおいて
感嘆するほどの者,
別な烏の如く
思っていた。
まもなく
オマンペシカ彦は
行器のうしろに
座らせられ,
養兄に
相対座し,
行器の傍に
ヨイチ彦が
座らせられ,
カムイオトフシ
わが小兄君と
相対座する。
サシプト彦は
ノレエサニ彦と
相対座し,
ルベット彦は
召使いの勇士と
相対座し
あとは
2194
召使いのみで
互に対座する。
われのみは
酒宴の上座に
一人して
薄づくりの膳と
向って座る。
オマンベシカ姫
外人の妹が
銚子を
小脇に
かかえて
酒筵の間を
酌をして歩き
この上なき酒宴が
相ともにひらかれる。
そのうちに
わが耳に響くことは,
沖の方から
音をかくして上る神が
寄せくるらしく
音がしてくる。
酒筵の上を
われよく調べ
見渡せば
2219
男のなかにも
女のなかにも
悟る者は
更にない,
女のなかに
オマンベシカ姫
一人のみ
悟った如く
われ思う,
心の巫術を
使ったらしく
われ思う。
銚子をば
酒筵の間に
立ておいて
戸外へ
出てゆき
まもなくするほどに
入ってくる。
音をかくして上る神は
後戻りして,
神の音が
消えうせてしまった
らしく
われ思う。
今すでに
酒宴のなかばに
なったころ,
2247
山手の方から
静かに下る神が
おりてくる如く
われ思われ
音の中味をば
よく調べ
聞いてみれば
全く二人のみ
であるが
如何なる勇士の
下りてくる音で
あるのか,
地の底も
揺れ動き
わが山城も
神の風に
棟の頂が
ギシギシと鳴る。
その時に
男のうえを
われ調べ眺めると
どの首領も
悟った様子は
さらにない。
女のうえを
2272
われ調べ眺め
見渡せば
オマンベシカ姫が
ただ一人のみ
悟ったものの如く
思われる。
銚子をば
酒筵の間に
立ておいて
戸外へ
出てしまう。
間もなくして
中へ入り来て
悲鳴をあげ
そのうえに
語ることは
こうあった
『首領の方々
よく聞いておくれ
沖の方から
静かに上る神の
上って来るらしい
音がして
それゆえに
わが息を吹きかけ
すると,
四方の海のうなかみへ
われ吹き戻した,
2300
けれども
また新たに
山手の方より
神の下りて来る如く
われ思われ,
それゆえに
息吹きの術を
かけたのだが
息のひっかかる音は
全くない。
このために
われ巫術を使い
みてみると
二人の勇士
であるけれど
どのようにして
殺すことができるか
わからない,
巫術を激しく
出して
戦の運命を
占いかけて
われしてみれば
本島人の太刀と
外国人の太刀が
からみ合い
2326
大きくゆれて
全く打ち負けて
わが兄たちの
佩く太刀
日の入る真西へ
見えなくなり
一番あとから
シヌタプカに
評判の高い
小兄君の
佩き給う太刀と
外国人の太刀が
からみ合い
大きくゆれて
血まみれに
互にさせられて,
そして
いっしょに
日の入る西へ
見えなくなる
と思ったら
われ巫術を激しく
出してみると
小兄君の
佩く太刀が
東の方に
柄がしらの銀鋲が
光って見える,
2354
わが限の先が
消えてしまったので
あるからには
生き給うことは
ないであろうと
思うのです』
こう言って
オマンベシカ姫は
泣き叫び
ながら
語ったので,
カムイオトプシ
わが小兄君は
太刀の
さやを打ちはらい
刃わたりを
すかし見て
いたところ,
おのが頭上を
打ちたたき
そのうえ
語ることは
こうあった
『このむくろが
勇土だと
2379
白ら思って
いたのだが,
わが守り神も
はや亡び失せようと
するのか?』
このように
カムイオトプシは
荒々しい言葉で
言っている。
そうしたら
座席の勇土たち
こう語る
『われら大勢で
いるのに
二勇士が
来たところで
負けることは
ないであろうぞ
こう
勇土たちが
語って
互いに腕で突くやら
互いに膝を突くやらする。
その時に
域のそばに
人の躍りくる音
2405
鍔の音が
鳴りわたる。
無礼も甚しい者で
あるものが
なんの畏るところなく
垂れた戸を
ひっつかみ
中の土間の上へ
ぽっと入ってくる。
無礼も甚しい者
うす笑いをうかベ
入ってくる。
われ見ることも
いやなので
多数のかすみを濃く
自ら引きかぶる。
先に入って来る者を
われ見ると
こうあった。
岩の鎧の
鎧のおもてに
毒液の岩とげ
2427
いがいがと立ち
太刀で穴あけること
槍で穴あけることも
できない
この上なき勇士
である。
あとから入って来る者
われ見ると
欽の鎧の
鎧のおもて
みずかねのとげ
いがいがと立ち
鎧のおもて
毒液の光が
ピカピカと光り
如何なる太刀の通るものか
わからぬほどの
この上なさ勇士
である。
無礼も甚しき者ども
うす笑ひをうかベ
入って来て,
垂らした自在鍵を
一緒にひっつかみ
ゆすりながら
先に入った者の
2453
語ることは
こうあった
『われらの嫌いなのは
白分の村を
隠すことなのだ,
われこそは
シララペッ彦
である,
連れたる首領は
カネペツ彦
なのである。
このシヌタプカに
うわさに聞える者は
誰なのか?
下司どもばかり
下僕ぱかり
居るではないか
なに戦を
もってわれらの勇を
競べるにしても
その前に
腕力の戦いを
もってわれらの勇を
競べ見よう
ではないか』
と言って
2479
帯のあたりを
鳴りひびかせる。
わが兄たち
互いに気合いを入れて
いたものが
答えるべき人を
互いに心の中へ
待ち合せている。
そうしていると
養兄の
語ることは
こうあった
『われこそは
シヌタプカIこ
うわさに高い者
であるのだ』
と言いつつ
起き上がる。
養兄は
シララベツ彦と
床の上に
相いつかみ合いの戦を
始めた有様は
こうあった。
シヲラベッ彦が
わざと
することは,
義兄を
2507
自分の胸に
しめつつ緩めつつする。
そのため
胸の上に
数々の岩とげが
背にも突さぬける,
けれども
養兄は
下座の方へ
六たび
上座の方へ
六たび,
梁木の上に
打ちつけるのに
やわらかな輪の如く
自らまわって
梁木の上に
とり逃す。
そのあとは
養兄
しおれた草の如く
倒れ伏す。

わが兄たちは
憤然と
している。
ルエサニ彦が
立ち上り
シララペッ彦と
2535
相いつかみ合う戦を
始めたさまは
上座へ一回
下座へ一回
そのあとは
余りの弱き
ルエサニ彦は
しおれた草の如くになる。
ルベットム彦が
立ち上り
上座に二回
下座に二回
相からみ合い
そのあとは
しおれた草の如く
倒れ伏す。

サンプト彦が
立ち上り
下座に三回
上座に三回
相からみ合い
そのあとは
しおれた草の如く
倒れ伏す。

それから
カムイオトプシ
わが小兄君は
心の底からの憤りを
2563
顔のおもてに
めらめらと燃やし
立ち上って
することは
下座へ六回
上座へ六回
シララペッ彦を
梁木の上に
取り逃し
そのあとは
しおれた草の如く
倒れ伏す。

無念の情
われ抱く
しかれども
辛うじて
わが心を
押し鎮める。
ヨイチ彦の
口のほとりは
さっと怒りにしまり
立ち上ったさまは
こうあった,
上座へ二十回
下座へ二十回
梁木の上に
悪人奴を
打ちつけるのに
2591
やわらかい輸の如く
自らまわって
梁木の上に
取り逃し,
そのあとは
しおれた草の如く
倒れ伏す。

今こそ始めて
オマンベシカ彦が
立ち上り
相つかみ合いの斗いを
始めたさま,
驚くべき
外国の兄の
働きぶり
であろうか
二十回も
三十回も
シララベッ彦を
梁木の上に
打ちつけても
やわらかい輸の如く
手の上へ
へばりつく
けれども
ほとんど二回
ほとんど三間
シララベッ彦に
3619
梁木の上へ
追いやられ,
そのあとは
オマンベシカ彦は
しおれた草の如く
倒れ伏す。

それから
気も狂うばかりに
われ思っている
けれども
たった今眼を覚した
様子をば
よそおって
静かに
あくびをする。
そのとき始めて
シララベッ彦と
カネベッ彦は
一斉に
われに振りかえり
顔のおもて
共にさっと青ざめて
何神かと
目を向けている
ふりをして
その顔のおもて
震い出している。
仇討すべき
2647
われである故
シララベッ彦へ
力強き足踏を
われ踏みしめる。
無礼きわまるものと
みえて
あざ笑いを
うかベうかベする。
床の上に
相つかみ合いの戦い
われ始めた音は
こうあった。
息の孔も
共にふさがり
わが細い肋骨は
折れくだけ
わが太い肋骨は
折れまがる.
そのために
悪人めが
わざと
することは,
胸の上に
自分の胸を
しめつ緩めつする
ために
岩とげの
長いところが
2675
われの背へ通りぬけ
短いとげ
とげの先は
数多の血の泡が
にじみつく。

何とかして
われ殺してやるべく
あれこれと心を
めぐらせる。
ここにおいて
シララベッ彦に
われ白身を下の方へ
させて
わが背の上へ
背負いあげ
宝剣「クトネシリカ」の
鞘の尻を
われ高々とあげ
太刀の柄は
床の上へ
下げ, 下げし
かけつつ
見てみると
太万の柄の上に
狼神が
身をくねらし
2701
突き刺すように,
牙の尖を
むき出して
いるのである。
鍔の峰には
電神の
雄神が
角を高々と
立てている。
雷神の
雌神は
鞘のおもて
いっぱにからみつき
鞘の口に
えり首をまげて
かまえている。
鞘の尻には
夏狐の
化物が
耳の先端に
少しばかりの毛を
っき立てている,
尾の先端には
少しがかりの毛が
つき立っている,
口の中から
黒いかすみを
パフパフと出して
2729
いるのである。
雷神の
雌神の
怒った神は
鞘の口に
かま首を高く
上にあげ,
うろこを高く
立てている。

シララペッ彦
のもつ鎧
鎧の合わせ目を
輪を解いて
突き刺す槍の如く
上を突く槍の音は
岩を斬る太刀の音の如く
人間の背骨を
尻尾で刺す音が
ゴキッと鳴る。
シララペッ彦の
神霊が
飛び立つ音
そのものが
鳴りわたる。

カネペッ彦の
2753
額のうえが
さっと青ざめる。
けれども
なまいきなるもの
ながら
烈しく足踏みを
わが方へ踏みのばす,
もはや
堪えがたき心を
持たしめられる。
けれども
若き雄叫びを
心底から
はき出して
相つかみ合ったのは
こうあった,
シララベッ彦を
力持ちと
思っていたが
何のそので
ある。
わが息の孔を
ふさがれて
わざとに
するゆえ
胸の上に
われを抱きしめて
しめつ緩めつする
1782
そのために
鉄のとげが
胸の上に
つきかかる音で
わが心の末は
泣きたくなる

そのとき
先にした手を
われまたまねて
カネベッ彦は
われ自身を下の方へ
背負い, 背負い
わが背の上に
宝剣「クトネシリカ」の
柄の端を
下の方へ
わざとことさらに
するゆえ
首領の腹に
鎧の間に
向き当てる。
鞘の上に
雷神の
怒れる神は
かま首を高く
上にあげ
うろこを高く
立てている,

2810
鞘の上から
輪を解いて
先の太刀の音は
鉄の太刀の音の如く,
中の太万の音は
人の背骨を
尻尾で刺す音で
コキッと鳴り
カネベッ彦の
神霊の
飛び立つ音が
鳴りわたる。

それから
岩とげ
かねとげ
毒とげ
共に折れ刺ったもの
であるゆえ,
毒が烈しく
効いてきたゆえ
床の上に
魚のそり返る
さながらにしていた。
ヨイチ姫は
わが片方の足に
ぶらさがり,
オマンペシカ姫は
わが片方の足に
2838
ぶらさがり,
養姉は
わが胴の上に
ぶらさがり
養姉が
言葉のあいだを
止め止めして
こう言う
『育ての君よ
しばし落着き
給え
毒のとげを
抜いて
あげようぞ』
と言って
言葉を止め止めする
けれども
われ聞えるもの
更にない。
時には
首長の鳴き声の
さながらにして
ひょろひょろと
していたら
突然に
ヨイチ姫の
さらわれた音が
聞えてくる。
2866
ヨイチ姫の
悲鳴
悲鳴をあげて
言う声は
こうあった。
『わたしの片足に
足りない者に
犬でもさらう如くに
させられる
神なる君よ
斬りすてて
下さい
と声がしたとき
われどこのところが
痛むのかを
忘れて
女泥棒を
取り逃しては
面目に
かかわると思い,
われ飛びおき
梁木の上に
太刀で取り逃し
上梁の上に
太刀で取り逃し
空窓のよにも
われ取り逃す。
高柵の頂きにも
2894
われ取り逃す,
女泥棒は
ただひたすらに
わが里川の
川の源

東方へ飛びゆき
跡をわれ追う。
本当に
逃足の早い
ものなるか
われ知らぬ。
われ烈しく振う太刀は
虹の如く
下ゆく太刀影は
燃え伏す焔の如く
上ゆく太刀影は
燃えたつ焔の如く,
われ焔を
燃やして追う,

けれども
太刀にかかる手ごたえが
全くない。
もはや
わが里川
川の源の

神の峯に
われ追いかけ,
峯の上に
2922
善神の
楽園が
別にあり,
魔神の
楽園が
別にある。
善神の
楽園
楽園の上に
われ太刀で取り逃す。
魔神の
楽園の上に
ヨイチ姫の
どこかしこを
ひっぱって,
そのあとは
わが太刀の先で
斬りはらう,
われ見れば
憎むべき
ポンモシリ彦
である。
神の魂の
飛び上る音,
半死した神の如く
東の方へ
2948
音たてて
のぼってゆく。
そのとき
突然に
かくれた伏兵の
ときの芦
ひびきくる。
ヨイチ姫を
わが城の
近くの方へ
投げつける。
それから
よく見れば
ケサウの少年
六人の少年
ケサウの少女
六人の少女
メヨイの少年
六人の少年
メヨイの少女
六人の少女
が居る。
2970
その上を
われ太刀を振りまわし
斬り払えば,
ケサウの歌
メヨイの歌
共に歌いつつ
われの太刀の跡は
太刀傷のよ
太刀傷の下
手にあて
口にあて
われの太刀の跡は
よくなって
傷が治ってゆく。
いつも
ないことに
わが小袖は
切り
落されて,
如何にしたら
勝ち得るかと
あれこれと心を
めぐらしている。
林の中へ
われ走り
木の神(技) を
えらぴ出し
太刀で切る,
2998
長い枝は
長く切り
短い枝は
短く切り
われつかむところは
けづりなおし,
そして
わが手のふるさまは
ピューピュとさせ
間をおいては
一人殺し
二人殺し
夜も
昼も
魔神の戦を
われして
みな退治し
わが山城,
山城の近くへ
飛び走る。
V ニサブタスム姫

2918
下っては
空窓から
床の上に
おりて
来たのである。
毒液のもつ
効めがきいて
魚のはねまわる
さまをし
熊の声を
出している,
ヨイチ姫と
オマンペシ姫は
わが足から
ぶらさがり,
養姉は
わが胴の上へ
ぶらさがり
『育ての君よ
静かにして
下さい
毒のとげを
抜いて
3041
あげましょう』
と言って
言葉のあいだを
止め止めしている
しぱしのあいだ
われ気を失ったり
気がついたり
している。
その時に
沖の方から
神のあがる音が
鳴りひびく。
どんな人の
来る音
なのであろうか
わが気持は
淋しくなる。
わが里の港
港の入口へ
一直線に向って
来る音が
ひびきわたる。
たちまち
大きな叫びの
して来る声が
どどろいてくる
叫びのうちに
語る声は
3069
こうあった
『その村へとどかぬ事が
あったなら
ウカムベシカ姫の
わが若き姉も
生きるものでは
ないのです
しかるに
わが若き姉の
使いして
シヌタプカに
神の勇土が
こがねのラッコを
放さぬとした故
戦が起って
オマンベシ村に
上陸したとき,
ウカムベシカ姫は
本島人の首領へ
向って
太刀を向けるのが
嫌になり,
それゆえ
急病
虚病を
使って
(兄) ウカムベシカ彦
悪者ニッネヒと
3097
二人連れ立って
戦さに参ること
おくれてしまい
オマンベシの村の
戦場の端に
到着し
われ斬られたけれど
よみがえり
神から生かされて
カネサンタへ
帰ったのです。
そのとき
カネサンタ彦は
酒を造り
ポンチュプカ彦を
仲間とともに
レプンシリ彦を
仲間とともに
招待したのです。
そのときに
ポンチュプカ姫と
ラッコの憑いた女性の
カネサンタ姫は
本当に凄い巫女
であるゆえ,
ウカムベシカ姫は
いつわりの病を
もって欺いて
3125
いたものが
露見してしまいました。
それゆえに
縄でからめられ
梁木の上に
しばりつけられて
熱湯のせめくを
受けて
いるのです。
ウカムベシ姫の
下女が
私なのです
シヌタプカの
ポイヤウンベへ
注進に
やって来た
のです
こう言う
叫びの上に
語る声が
聞えてくれば,
他人であっても
憐んで
くれる人が,
いじめられた話を
われ聞くと
どこのところが
痛むので
3153
あるのか
わからない。
われをつかんでいる者
養姉と
外国人の妹
ヨイチ姫を
座敷のすみへ
投げつけて
寝床の上に
立ち上り
戸外へ
われ出てゆく。
浜の道
道のうえを
われ下に
下る,
浜の港
港のかたわらに
われ出る。
よく見れば
海のおもてに
何者かが
立つ如く
思われる。
それから
地面の上から
3179
吹き立つ風が
われを高く
吹き上げた。
神風の先に
飛び走り
わが港
港の入口へ
われ立ち上る

海のおもてに
若き乙女が
立っている
美人で
あるけれども
かすかに
その鼻すじに
奴稗の色が
沈んでみえる。
海の上に
立って
いたので
わしづかみにして
海の鳥の
もぐるかのような
さまをなし,
海の底に
数多の砂の渦巻を
あとに残しながら
はやくゆく魚の群の
3207
群の真先に
われ駈けてゆく。
こがねの小さい陣笠
陣笠のふちへ
潮の流れる音が
ぶつかりきて
ゴーゴーと鳴る。
われ泳ぎ行くと
今はすでに
わが短い息は
つまってきて
長い息は
のび切っている。

そして
海の上へ
われ浮かび上り
よく見ると
若き乙女
白い目玉を
むき出して
目玉の上
血の筋が出て,
全く死んだ屍
わが腕の間に
うなじを後に
垂れている。
疲れ果てた
われゆえに
3235
泳いで波を
かきわける。
みて見れば
外国人の海と
木島人の海の
海の間に
われ浮かんだ
ものの如く
思われる。
そしてまた
新たに
われもぐり
海の底を
駈け走る,
行けども
今はすでに
わが短い息は
つまってきて
長い息は
のび切っている

と思うころ
突然に
浜の砂地の上に
つき上る,
われ抱いたるもの
若き乙女の
目玉の上に
赤い血筋が
3263
縦横に張っていて,
砂地の上に
投げすてた。
そして
よく眺めれば
大きな沖の崎は
大海の真中に
突出ていて,
神の崎のそばに
大きな入江が
入り込んで
輝いている。
入江のそばに
多数の部落
ぎっしりとつまり,
われ未だ知らぬもの
ではあるけれど
カネサシタネ村に
ちがいない。
部落の上を
われ調べ
見渡してみれば
多数の勇士
首領のつき神が
部落の上空に
雲とともに
たなびいている,
おびえ騒ぐ者たち
3291
部落の上に
互いにそうぞうしい音を
鳴りひびかせる。
それから
われ天を高く
仰ぎながら
『わが守り神よ
いま始めて
自ら毒とげを
抜こうとするゆえ
わが蔭を
御守護下さり
給え
と言って
われ片足を
あとにして,
片方の足を
前にして
細く長く
わが気持を
おし鎮め
鉄のとげ
岩のとげ
毒のとげ
自ら抜く,
あやうくも気絶
するようになる。
それから
3319
また新たに
われ天を高く
仰ぎながら
『わが守り神よ
騒ぐ音を静かに
なし給え,
首領の住家を
視察して
みたいゆえに』
と語ると,
人間でも
そう聞くもので
あろうか,
わが守り神は
四方の雲のかなたへ
音たてて去る。

そのあとで
部落のほとりに
ぬき足,さし足
静かにまわし
歩いてゆくと
多数の部落の
立っている煙は
低いもやの如く
部落の上に
たなびいている。
この大きな城
域のなかほどに
3347
酒盛りの物音が
高まり起っている,
城のそばに
音の立つもの
多数のあいだを
歩み出た。
横座の窓の下に
われたたずみ
窓のすだれの
すき間をひろげ
すき間のあいだを
のぞき見して
みれば
どの限つきも
わが見知らぬ者
互に膝の上に
手をのばしている,
首領たちの酒宴場は
ずっと延びていて
わが憎き奴
チュプカ彦
レブンシリ彦
ポンモシリ彦
ウカムベシカ彦
悪者下男ニッネヒ
が居るのである。
酒宴場には
われ以外の者
3375
についての話は
ないのである。
その時に
酒宴場の間を
酌さし歩く者を
われ見れば
わが見知らぬ者
であるけれど
カネサンタ姫と
思われ,
酒宴場の間を
酌さしをしている。
そのときに
大城の
梁桁の上が
ギシギシと鳴る,
これは不思議と
われ思っていると,
突然に
何物なのか
力なげない言葉,
言葉のはじめは
急に大声で,
言葉の末は
消え入るように
いう声は
こうあった
『死を嫌がる
3403
私ではないのです。
早く殺して
下さるよう
ねがいます。
おそかれ, はやかれ
いづれにしても
シヌタプカの
神なる勇土が
私の死んだあとに
太刀を立てるならば
汝等のいづれの者も
生きるものは
ないでしょうぞ! 』
と声がするゆえ
見てみると
梁木の上に
結びつけられた者
われ見れば
おどろくべき
若き乙女が
いるではないか。
養姉や
ヨイチ姫や
オマペシカ姫を
この世界で
その容貌を
この上ないものと
思っていたが
3431
何のその
かくの如く
ニサプタスム姫の
美しいこと,
縄目の間に
うなじを後へ
垂れている,
けれども
神々しい顔,
さし出る陽の如く
まぶしい光を
さし出して
愛憐の情を
われ感ずる。
他人であっても
われに応援して
くれるものをと
思ったゆえ
あと戻りして
われ退き
城の側に
今始めて来た者の
如くふりをし
硬い土を
柔い土の如く
3456
足の下に
踏みこなし,
入口のすだれの
上縁の糸のそばを
むしり切り
背後へ
投げすてて,
炉の左座へ
烈しい足踏みを
踏みのばす。
われ通るあとは
驚きあわてる悲鳴が
続いておこる,
われよく踏みつけた者は
死魚のころぷ
如くさまをなし,
踏みそこなった者は
魚のはえまわる
如くさまをなし,

介抱しようとするもの
右往左往する。
炉の上座に
われどっかりと
あぐらをかく,
そうすると
酒宴場
静まり返る。
男子ども
3484
婦女子ども
わが上を
見守って
居るのである。
われ言うことは
こうあった
『如何に敵たりとも
互に御馳走するものだ
われに飲ませてくれ
こう言うと
カネサンタ姫
ラッコの憑く女性が
多淫な情を
われによせて
大盃を
選び出し
われに酌する。
われ飲むほどに
酒のうまさの
何とよいことか,
体の中に
しみわたる,
二杯三杯
われ重ね
そして
語ることは
こうあった
『いづこの村の者か
3512
梁木の上に
しばりつけたのは
何のことか?
相戦うものでも
罪人で、あっても
酒の神は
敬うもの
互に御馳走するものだ
あわれにも, なぜ
このようなことを
するものぞ?』
われ語ると
恐れ入るものか
酒宴場に
物言うもの
互いに心のうちに
待ち合わせている。
それで
わざと
われするゆえに
静かに
起きより
若き乙女の
縄目の中を
おもむろに
切ったけれども
どの首領も
立ち上る者は
3540
一人もいない。
美しい乙女を
われ膝の上に
おいて
数々の神のもとに
われ祈願する。
ようやく
間をおいて
眼をひらき,
しばらくして
本当に今こそ
わが顔をまともに
眼をひらいて
見たように
思われる。
そのまなじりに
涙をはらはらとさせ
わが傍に
自ら起きて座る。
われ酒を飲むたびに
どの飲みほしの盃も
われ欠かすことを
しないで
彼女に飲ませると
頬のあたり
元気づいてくる。
かのニサプタスム姫
このような神は
5768
向うにして
何を敬っているものか
わがそばに
日を伏せて
いるのである。
そのとき
酒宴の席から
どの首領か
知らぬが
言葉を発する
声も美しく
言うことは
「シヌタプカ彦と
ウカムペシカ姫の
新しい夫婦の
見参である,
この酒宴
酒宴の席で
首領たちみな
酒興のために
何か余興を
して下され
と声がしたので
何をば
したらよいかと
いろいろと心に
馳せる,
われ起き上り
3596
刀をば
後の方へ
まわし
刀をぱ
尾のようにして
手と脚を
四つばいに
揃えて
酒席の間を
爪でかきかきする,
夏狐の
さながらに
パウパウという声を
出しながら
軽り跳び上り
しながら
踊っている。
そのために
クトネシリカの
鞘の端に
夏狐の
化物が
耳の先のところに
少しばかりの毛が
突き立っており
3621
尾の先のところに
少しばかりの毛が
突き立っている,
鞘の末に
身をひねって
わだかまり
ロから
黒いもやを
パフパフと出し
鍔の縁には
雷神の
雄神が
角を高々と
おこし立て,
生神のま如く
うろこを高く
立てている。
雷神の
雌神は
鞘の上に
いっぱいにからみ
生き神の如く
うろこを高く
立てている,
太刀の柄の上には
狼神が
身をくねらして
わだかまり,
3649
白い尾をぱ
立てている,
口からは
白いもやを
バフバフさせている。
もうすでに
酒宴場の上は
黒いもやが
いっぱいになる。
炉の焚火は
かすかに光を
出している。

ニサプタスム姫
外国人の妹は
われを見て
逃げだすように
している。
眺めれば
首領たちはみな
逃げようとして
飛び散るかっこうで
われを見て
いるのである。
どうしてかと
われ不思議に
思ったゆえ,
自分の身体を
ふり返り眺めて
3677
みると
こうあった。
ゆめゆめ
われ見ようとは
思わなかったのに
クトネシリカの
鞘の末に
おります神
夏狐の
化物の神の
姿にまで
変化して
われの口から
黒いもやが
バフバフと出て
わが耳の先に
少しばかりの毛が
突き立っている。
わが尾の先に
少しばかりの毛が
突き立っている
この大きな声を
出していては
軽く飛び立って
われして
いたので
3703
ある。
ここにおいて
軽く飛びはね
われして
強いと思う者
勇士ぱかり,
のどぷえを
わが爪で切り
左座へ
右座へ
のどぷえを切り

われしていたら,
突然に
カネサンタ姫が
驚きの叫びを
あげながら
『わが兄たちよ
もしや
本当の心の神を
をなくしたのでは?
危なくなって
しまったように
思うのです,
はやく
勇気を出しておくれ
と言って
ラッコの憑き女の
悪女は
3731
叫びつつ
言っている。
床の上に
われ飛び起き
酒宴場の上へ
太刀を抜きはらい
近くに斬る者は
わが両腕の間に
斬り殺し
遠くに斬る者は
われ腰を
ひねって斬る。

ニサップタスム姫の
外国人の妹の
太刀の振るさまは
通りすぎるころ
野草を敷くごとく
遠くのび,
われと共に助け合うこと
絶え間なく
二神の死ぬ音
三神の死ぬ音
互に音をたて
ひびきわたり,
半死するもの
東の空へ
音たてて蘇生し,
即死するもの
3759
西の空へ
音を低く
おさまって消える。

城の上に
絶え間なく音が
ひびきわたる,
われ右座の方へ
ふりむいて
大ぎな火の燃えさし
小さな火の燃えさし
足の先で蹴散し
左座の方へ
ふりむいて
大きな火の燃えさし
小さな火の燃えさし
足の先で蹴散し
時には
首領の宝壇を
われ下に
飛び散らす。

そのために
宝壇の神は
悲しい神になり
城の上に
音たててゆく。
その時に
大きな神風が
窓から
3787
戸口から
互いに中をたたき
床にした敷物
敷物の上縁を
神風がはぎ
帆のように
床の上に
飛び散らす。
そのために
床の上は
うすい焔が
飛び散らされ,
火を消す者が
焔のそばへ
赴くと
われ焔へ斬って出る。
この大城の
上の肝
下の軒は
焔に燃え上り
その燃える音が
ひびきわたる,

燃え落ちるべき
その前に
みな戸外へ
駈け出る。
3813
みわたせば
こうあった,
何者に差向けるのか
鎧武者の群が
虫の湧くよう
上方に飛び,
前の群は
別(の列) に
後の群は
別(の列)に
槍を持つ群は
高い林の如く,
弓を持つ群は
低い林の如く
連なり延びている。
後の群は
遊びの踊りを
互いに肩をよせ
とびまわる。
前の群は
荒々しい踊り
互いに胸をば張り
奮い起っている。
あれ程にわれ斬ったのに
減るようす
少しもなし、。
勇気のある者は
細く進み出て
3841
わが前へ
出てくる,
槍を持つ群
槍の軍勢は
腕をしごき
わが胸元を
突いてくれば
われ槍とともに斬る,
弓を持つ群は
弓たぱのうえ
ピュンピュンと鳴らし
卑怯者は
槍を横に
持って
遠巻きに
はなれている,
近く飛びくる矢は
大粒のあられの如く
われへすばやく
落ちてくる,
遠く飛びくる矢は
大雪の如くに
われへ静かに
落ちてくる,
弓矢の間
槍の間
吹く風の如く
われ飛びまわる。
3869
いつまでも
若い気合を
われ胸に張り
勇気を奮い起す。

人間の首に
血煙りとともに
太刀のみねで
わが背の上に
散らす。
ニサプタイム姫
外国人の妹の
驚くほどの
働きぶり
ただ太刀の影だけが
ぐるぐるまわし,
そのうえに
語る声は
こうあった
『シヌタプカに
神なるお方
神よりも
うわさに高い方
であるけれども,
部下のない勇士を
かばって
太刀を向けるのは
好みません,
それがため
3897
虚病を
起して
発覚したのです,
けれども
神なるお方は
危いところを助けて
くれたもの,
このことは
断崖の山城
の中に
入った
ような
ものなのです,
多数の外国の悪人が
わたしを欲しいとして
心をゆすぶったもの
であるゆえに
土の上に斬った
如くみえる。』
と言って
ニサプスタム姫は
ひとり言を
言う,
3920
愛憐の情を
われは持つ。
いつまでも
鎧武者の群
互いに上に飛び,
弓を持つ群
弓束の上に
ピュンピュンと鳴り
われに当たらん矢は
ただ居て
射る矢の束を
互いに立て合い
仲間同志の悲鳴で
騒いでいる。
その時に
わが守り神は
戦場の上に
落雷して
多数の部落
部落のなかは
大火になる,
大きな神風が
国土の上に
音をとどろかす。
森林は
上の枝が
折れてしまい,
折れがたい枝は
3948
国土の上に
数々のよもぎの如く
まわされて
校の先は
激しい口笛の如く
ピューピューと鳴る。
草の根は
神の風にはがされて
悪い土ぼこりや
枝の折れくずが
戦場の上に
飛ばされ
舞いもどり
戦場の上に
投げ木の如くに
落ちる音のさま
シュウシュウと鳴る。
そのために
木で死ぬ者
別にあり

多数の者ども
今はすでに
少数になり
人々の一団のみ
となる。
われ遠く追い
近く追いして
斬り倒し
3976
ただ下人ども
斬り終る。
それから
者どもの中へ
われ戦ったのは
憎きやつ
ウカムベシカ彦
悪下僕のニッネヒ
カネサンタ彦
チュプカ彦
レプンシリ彦の
五人の勇土へ
いっせいに
われ太刀を激しく
振りまわし,
虹のうねる如くする。
左手の方に
こぶしの手は
かぎの群の如く
一緒になり,

若きチュプカ彦は
わが太刀の先に
さらりと音がして,
神の魂の
飛び立つ音が
鳴りわたる。

と同時に
レブンシリ彦も
4004
わが太刀の先に
さらりと音がして
神の魂の
飛び立つ音が
鳴りわたる。

その時
ラッコの憑き女
チュプカ姫
ポンモシリ姫
ニサプタスム姫の
かが妹が
一緒になり
天空の上へ
女同志の戦に
上りあがる。
如何ほどか
ニサプタスム姫
わが妹が
よく戦ったのか
わからぬほど
亙術使いの女性
女どもは
しりぞいて
息吹きで降され
した如く
思われる。
その時
首領たちはみな
4032
口惜しそうに
して,
一緒に雄叫びを
かけ合いながら,
われした通り
われに仕返しにくる。
戦のさなかに
ポンモシリ彦が
自ら蘇生して
来たのである。
ウカムベシカ彦,
悪下僕ニッネヒ
カネサンタ彦の
四人の者どもが
天空の上に
一緒になって
者どもの振る太刀が
ほとんど二回
ほとんど三回,
者どもの振る太刀に
われ危うく殺されるところ
天空の上に
われとり逃し,
地上に
われとり逃し
人間の戦で
なくして
神の戦を
4060
われ見たならば,
その如く,
それで
神の音の中に
わが守り神と
他人の守り神は
互に音をひびかせ,
わが守り神は
本島の国へ
引き返しを
させられた
かと思えば,
同時に
わが守り神は
音を高らかに
ひびかせており
他人の守り神は
外国人の国へ
引き返しを
させられたらしく
思われる。
木当に
神の戦で
あるように
思われる。
その時に
大地の上に
ポンモシリ彦が
4088
先に
こう言う
『いつまでも
太刀の戦を
われらしても
果てしのつく
ものでは
ないゆえに,
組み討ちの戦をして
武勇を
決しようぞ』
と, こう
ポシモシリ彦が
申し出た。
われはこれに応じて
わが太刀を
背後に
まわし,
ポンモシリ彦も
太刀を
背後に
まわし,
荒々しい足踏みを
踏みのばす。
ともに格闘を
われする音の
息の孔
ふさがる,
4116
けれども
若き気合を
わが胸の中に
かけている。
この上なき勇士を
われ自らその下に
背負わしておいて,
わが背の土に
(彼) を背負い
足のつま先
土煙りを
ついて
地べたに
投げつけ
上体をぱ
手でおしつける。
わが佩く太刀は
良き槍に
われ自ら持ち
彼の胸をぱ
突き刺して
全のくさり
糸のくさり
神鎧
その神鎧の紐の
4146
切れる音が
カンと鳴る。
この上なき勇士の
鼻から出る血は
玉をなして流れ落ち,
口から出る血は
ぱっとはき出し,
この上なき勇士の
鎧も
われ斬りすてる。

そうしたら
ポンモシリ彦は
こう, いう
『本当に
汝の仕方は
これまでに
わが鎧を
破壊する者が
居なかったのに』
かように
言っている。
魚を背割りする如く
われしたので
苦痛にたえざる者
4165
槍の影
わが上に来たので
前にかがみ
身を伏せると,
黄金の小笠
笠のおもてに
槍すベる。
鍔の縁で
われなぐられて
気持も
泣きたくなる。
いつまでも
魚の背割りする如く
わが手元を
忙しくして
また新しく
槍の影が
わが上に来たとま,
槍の先に
わが身をかわせば
手のそばに
槍すベる。

それから
われは
避けるのも
も面倒くさくなり,
わが胸を斬らせ
突かせる
4193
苦しい咳を
われ息をむせ返し
激しくする,
鼻から出る血は
どろどろに流れ
口から出る血は
ぱっと流れる,

そしてようやく
ポンモシリ彦の
死霊の
飛ぴ上る音が
鳴りひびく。
悲憤にくれる者
カネサシタ彦を
われ討つのに,
ポシモシリ彦
勇敢だと
思っていたが,
先の者は
赤子のようだ,
カネサンタ彦が
われに躍りかかる音
細い肋骨は
折れてしまい,
太い肋骨は
曲ってしまう
ようになり
息の孔が
4221
ふさがってしまう。

けれども
柔い輪のように
われして
漸くのことで
うつ伏せに
われ倒し,
上体の上を
膝で突き
笠の端に
神の髪を
手に巻きつけ
われ底力を
出して
彼の首を曲げる
この上なき勇土
首を内に
ひっこめる。
けれども
熊のうなり声を
出しては
魚の頭を折る
如くする,
神の魂の
飛び立つ音が
鳴りわたる。

また新たに
悲憤にくれる者
4249
下僕のニッネヒと
われ戦っている時
思うことは
こうあった。
何の勇気を
持つベくわれで
あるとしても
他人であっても
恐って腹のたつものを,
イシカリ彦が
その原因となり
大勢で妬まれて
いるものと
われ思へば
なおのこと
戦う気持を
われ持たせられる。
われ戦い
ょうやく
下僕ニッネヒの
死霊が
飛びたつ音
鳴りひびく。
それから
最後に
ウカムペシカ彦は
この国の上に
その勇名を
4277
見探して
恐れられて
いた
ものであるゆえ,
本当に
ポンモシリ彦や
カネサンタ彦と
戦ったのは
赤子のようで
かえりみれば
感心した気持に
われ思う。
わればしばし
黒土の上に
身を延ばし
胸の上に
手をおしつけ
足腰の上に
足でおさえつけ
わが太刀を
良き槍に
白ら持って
突き刺そうとする者は,
われ強く
たたきつけたにも
槍の先に
ひとひらの風の如く
槍の先から
4305
飛び去り
黒土の上に
われ突き刺す。
また新たに
互に飛びかかり
今はわれ
いまいましい気持を
持たせられる。
ウカムペシカ彦を
わが背の上に
背負わし
彼の勇士の
足の先は
土煙りを
立てている,
黒土の上
うつ伏せに
下に強くうちすえ
上体の上を
膝で突いて
笠の端に
神の髪を
わが手にまきつけ
後へ曲げれば
丈夫な木の如く
首を内に
ひっこめる。
けれども
4333
熊のうなり声を
出しながら
われ底力をこめて
この上なき勇士を
魚の頭を折る如く
われする。
神の魂の
飛び立つ音がして
何ほどか
残念なのか
東の方へ
音を何回も鳴らして
即死した神は
西の方へ
音が低く
静まってゆく。

戦場の上は
たちまち空が晴れ
と同時に
ニサプタスム姫の
外国人の妹は
いい気味だと歓びの
声をあげて
空から下りてきた,
あれほどの美女
どこもかしこも
おおうところは
全くない。
4361
着いた小袖は
たった上体のみで
手を掛けて
まなじりを
うるませ
そのうえ
語ることは
こうあった
『こうゆことこそ
私は望んでいた
のですから,
神のような人に
囲まれて
生き返った
のですから
戦のあいまを
休ませて
下さい』
こう
言っている。
自分の体の上に
息吹きをかけ
そのために
深い傷は
かさぶたができ,
浅い傷は
かさぶたが落ちて
彼女の体は
4389
快復する。
そして
わが体の上にも
息吹さをかけ
そのために
われの深い傷は
治ってきて
かさぶたができ,
浅い傷も
治ってきて
元の体に
つくろい直す。
それから
神風の上に
われら飛びのり
本島に
上陸する。
いつも変りなく
わが山城は
わが前に高く
高まって見える,
ニサプタスム姫は
ひとり小声に
言っていることは
こうあった
『本当に
どのお方の
住んでいるところ
4417
なのでしょう
山城の(神)の
美しいことよ
こう
ひとりごとを
言っている。
わが山城の
そばに
われら着く
垂れた戸を
われ背の上に
ぱっとあけ,
中へ入ると
目の先
目に注ぎ
よく見ると
外国の兄
外国の妹
カムイオトプシ
養兄
養姉
みな揃って
神治しして
いたのである。
われはいるのを
見ては
いっせいに
起ちあがり
4445
歓声をあげ,
座敷の上に
われ上る。
その時に
ニサプタスム姫
わが妹が
のどもとに
せきばらいを
すると,
養姉が
それを聞きつけ
外へ出て行く,
ニサプタスム姫と
養姉は
死者をいたんで泣くさまを
互いにし,
その手をとって
中へ入って来る。
オマンベシカ姫の
容貌をば
われ見探して
いたが,
ニサプタスム姫は
一層優れた美女
別な烏のような
さまをなし,
そのうえに
光り輝いて
4473
人間の姿の如く
見向いが
できない。
今こそ
よく似合う
わがものに
して
暮している。
VI チワシペツ彦

4481
いつもかわりなく
われ暮して
宝の彫刻
力鞘の彫刻を
仕事にして
いたら,
ある日のこと
突然に
山狩りしたく
なったので
養姉に
『何か身仕度するもの
われに下さい
山へ行ったら
鹿の獲物を
捕えてきて
食べさせて
あげよう
と言うと
養姉は
あごを突出し
あごをそむけ
4503
しゃくりながら
そのうえに
言うことは
こうあった
『わが育ての君の
言うことは
気に入りません,
まことの勇土が
山狩りに行って
無事にすんだことを
私は知りません,
それなのに
かように言って
よいのですか?』
と養姉は
言っている。
けれども
われ太刀の鍔を
鳴らし鳴らし
言うので
恐れたものと
みえて,
奥へ行き
祖母の入れ物を
とりだし,
4533
その中へ
子を入れて
草織の脚絆を
とり出して
われに呉れる。
われ自ら脚絆を
はいて,
荷縄のついた矢筒を
背の上に
負い,
桜皮の巻付けた弓を
われ手にとり
戸外へ
出る。
浜のみちは
別にあり
山へのみちは
ひじを曲がやたように
曲りくねっている。
鎌で刈ったみちは
明かるくみえ,
鍬で堀ったみちは
黒々とみえる。
みちの上
われ歩き
下る,
川づたいに上って
神風に
4556
飛ぱされて
われ行く。
そうすると
陸の石原を
沖へちらし,
沖の石原を
陸へちらした
ように
鹿が
沢山いる
のであるが
小鹿ばかり
いるのである。
われそこを過ぎ
川づたいに上り
神風に
飛ばされて
いくと,
わが里川
里川の源に

行かしめられる。
その時に
よもやまた
われ聞くとは
思わなかったのは
ニサプタスム姫
わが妹の
悲鳴が
4584
耳のなかへ
ひびきわたる。
まっすぐに
わが里川
里川の上に

さらわれてきた
ごとく
思われる。
どこの国の者か
われに対して
遠慮なきふるまいを
してと
思いながら
われ手をのばし
足を踏みしめて
道の先に
うすく土を
体に覆って
いてから
女泥棒を
われ見ると
赤はげ頭
であるけれど
どこひとつ
いうところは
全くない。
勇ましい顔
その顔の色が
4612
別にみえる,
ニサプタスム姫
わが妹を
小脇にかかえ
持っている,
わが妹は
悪口や
ぞう言を
『私の片足にも
足りない奴が
犬をさらうように
下人をさらうように
するのは
どうしたことか?』
と語りながら
額をなぐり
後頭をなぐる
しかし
怒って
するけれども
怒る様子は
全くない
この上なき勇士
こう言う
『ニサプタスム姫
神なる姫よ,
ポイヤウシペに
はるかに超えた
4640
チワシペツ彦で
あるのだ,
われに弟が
居るのだが
汝が結婚すれば
ポイヤウンベ
よりはるかに
神より飲ましめられ
神より食わしめられ
同じ神となり
汝等暮すように
なるであろうぞ』
と言う。
フレマウポに
わが妹は
悪口や
ぞう言を
『シヌタプカに
神の如き方
より以上に
勇名高い人は
どこにいるものか
あんな嘘をいう』
と, こう
ニサプタスム姫は
4665
言っている。
もはや
わがそばへ
近寄ってくる,
その時に
魔熊の目つきを
われまねて
取逃しでもしたら
面目にかかわると
われ思い,
わが妹の
いづこやらを
ひっつかみ
しゃくり取り
わが里川,
里川のなかほどへ

われ投げとばす。
それから
チワシペツ彦の
上に
太刀を抜き
逃げ先へ
太刀をくぐらせる,
けれども
太刀にひっかかる音は
全くない。
下ゆく太刀影は
燃えたつ焔の如く
4693
上ゆく太刀影は
燃え伏す焔の如く
われ焔を
燃やしたてる,

彼の勇士を
それ曲ることの
できぬようにせしめ
天空へ
引きこみ
神の空の上に
手の生えた鳥の如く
互にはばたく
如くにして,
わが太刀の先を
引きこむ。
その時
思いもよらぬこと
われ聞くとは
思わなかったのは,
ニサプタスム姫
わが妹を,
わが里川
里川のなかほどに

われ投げすてた
その落ちる先に
戦争の
始まる音が
してくる,
4721
わが妹の
太刀を振う音がして
絶え間なく
二神の死ぬ音
二神の死ぬ音が
鳴りひびく。
なおのこと
戦をする気になり
チワシペツ彦を
太刀で追いかけ
天空に
とり逃し,
地上にも
とり逃す,
これがゆえか
彼自身の勇気を
自負して
われに挑戦を
してきたもので
あるので
自ら先に
われに折返して
チワシペツ彦は
太刀を抜く,
勇士の振う力は
虻の如く
われ焰となり
燃え上ってくる。
4749
にぎりこぶしは
かぎの群の如く
われしたのと
同様に
忙しく
している,
地の上方に
逃げまわる神の如く
われ草むらを廻り
草むらの末を
たたき切る
ほとんど二回
ほとんど三回
われ殺されそうになる,
人間の戦い
などでなくて
神の戦いを
われ見ている
如くで
いままでに
数々の外国人を
われ討ってきたが,
その勇気は
感嘆するもので
あったけれども
何のその
見るとおり
チワシペツ彦の
4777
働きぶりは,
大神風の音が
地の中に
とどろきわたり
天空の国に
鳴りひびぎわたり
驚ろくなかに
感嘆の情を
われ持たせられる。
その時に
ニサプタスム姫
わが妹の
した戦が
終った如く
思われる。
チワシペツ彦は
こう, 言う
『いつまでも
太刀の戦いを
したところで
果てしの
つくことは
ないゆえ,
片手軽く
片手は重く
肝の裂き合いをして
互いの武勇を
決しようでは
4805
ないか?』
と言う声がしたので
われはよしと
応ずる。
大地の上に
荒々しい足踏みを
われに踏みのばし,
帯びる太刀は
よき槍に
かまえてくる。
われもその如く
わが太刀を
よき槍に
かまえる,
このよなき勇土は
まず先に
われ槍の影が
かぶさってくる,
槍の下に
われ頭を
伏せると,
わが笠の上に
槍のそれる音
鳴りわたり,
槍の下に
われ槍をかわし
胸板をぐさりと
突き刺すと
4833
苦しく咳を
むせ返し
はげしく出す,
鼻から出る血が
どろどろに落ち
口から出る血が
ぱっと流れる。

また新たに
われを突刺そうとした時
槍の先を
わが身をかわせば
胸の上に
槍がそれ,
その間に
刀を持つ手を
われぐっとつかみ
つまさきの上を
ふみつけて,
上の方へ, 下の方へ
魚の背割りにする如く
われ働くことを
いそがしくする。
苦しみうめく者の
また槍の影を
わが上に
見たけれど
われ嫌になり
われの胸口を斬らせ
4861
したたか突かせると
苦しい咳を
われむせ返し
激しく出す,
先にわれした通り
仕返しに来て
わが肩を
おさえつけ,
わが足指の上を
踏みしめて
魚を背割りする如く
されたのである,

相い互いに
深く斬り
浅く斬り
人間であるもの
苦痛の様子も
更にない。
その時に
人間のみ
戦っている様子は
ない如く
われ思う。
わが守り神と
他人の守り神が
海のよに
退き
走らせられて
4889
いると思うと,
たちまち
その音も高らかに
ひびきわたり
そのために
わが守り神は
本島人の国へ
後戻りして
走らせられて
ゆるみなく
神の戦が
激しいように
われ思う。
その時
相互に
浅く斬り
深く斬り
われらして
チワシペツ彦の
ただ腰骨のみを
われ斬り残す。
われもまた
わが腰骨のみを
斬り残され
このよなき勇士も
人間ゆえに
もはや
顔の色も
4917
青ざめている,
われの上にのめって
戦の庭
庭の下手に
夢中で
たおれたおれし,
われも
庭の上手に
夢中で
わが太刀を
わがまわりに
振りまわし,
われ転ぶのも
転ばないで
われ向うもの
青草を
手にかかえるほど
むしり切ってしまう,
夢中のなかばで
正気に返る,
チワシペツ彦も
われのする如く
夢中のなかばで
気がついた
ように思われ,
またとって返し
戻ってくる。
われもまた
4945
とって返して
戻ってくる,
相い互いに
魚の背割りする如く
われらしたことを
かすかな夢のように
心にわかっていながら
どうしたのか
あとはわからず
死んだのか
眠ったのか
われして,
しぱしの間に
眼を覚して
いたのである。
よく見ると
戦の庭
庭の上手に
われ長々と
血のりの沼に
埋まって
いたのである,
見れば
われと戦った者も
戦の庭
庭のしも下に
長々と
身を延ばしている。
4973
怒りの風の如く
われ怒る
けれども
わが体は
固くなって
自ら体の上を
もみもみし
刀を横に
わが口にくわえ
手を地につき
われはって
前の方に
進みゆくと,
わがゆき先に
彼はあぐらをかいて
刀の柄を
手で握って
いたのである
すぐそばに
われあぐらをかく。
わが太刀の
柄の上を
両手に持ち
手に力をこめて
元の刀傷を
われにらみつけて
いた。
この上なき勇士の
5001
体の上に
われ太刀を振りかぶり
(敵の) 返しの太刀に
わが心の中が
ドキンとし,
わた斬りつけたが
かすかな夢の如く
覚えて
死んだのか
眠ったのか
わが心を
ゆすぶるように
していると
自らわれにかえって
いたのである。
よく見ると
われ戦った奴は
ただ血のみ
地に残していて
すがたがない,
怒りの気持を
われ持たせられる。
われ思うことは
如何なる人が
チワシペツ彦の
弟の勇士
であるのか
妻にしたいと
5029
わが心をゆすぶって
いた者,
途中まで来て
そこから帰るような
ことになるならば
世の恥辱に
なることと
思いながらも
自ら体を動かすこと
われ出来ず,
しばらくして
自ら脚を
もみ動かし動かし,
わが手の元を
もみつけ, もみつけ
起きあがる。
戦いの庭
庭の上に
鍋木の如く腰を
由げて
立ち上り,
わが手を高く
ふりあげて
『わが守り神よ
チワシペツの村へ
われを送り
給え
勇士の住むところを
5057
視察して
きたときに
斬られるゆえ
送って下さり給え
と祈願すると
大神風が
下りて来る音が
ひびきわたる。
神風の上に
われ飛びのり

峠から来る川
川のしもへ滑って
下ってゆき
海岸へ
出て来る。
大神風は
われを高々と
吹き上げて,

わが腹わたを
網のぼろの如く
ぶら下げ, ひきずる。
海の中を横ぎり
行けば
今はすでに
本島の海と
外国の海,
5083
それまで行ったところ,
見ると
外国人の国
国の影が
高くなり
見えてくる,
そこへ真直ぐさして
われ行き
外国人の国
国のそばに
われ上陸する。
よく見ると
われ知らぬもの
チワシンベツ村
であるけれども
この大河が
海おもてへ
注ぐ流れが急で
波立っている。
川のそばに
多数の部落が
建ちならび,
浜の部落は
海に沿って突出て
山手の部落は
林の方に
入り込んでいる。
多数の部落の
5111
たなびく煙は
低いもやの如く
部落の上に
立ちふさがる。
そこで
われ手を高く
捧げながら
『何神か
われに憑くとも
音を鎮めさせ
給え
如何なる勇士
われより勝る
うわさ高い勇士の
住むところを
探し下さり
給え
と祈願すると
わが守り神は
遠い国へ
音をたてて消える。
それから
抜き足, さし足して
われ忍び寄り

多数の部落
部落のそばへ
歩み寄る。
部落の中央に
5139
大きな家が
建っている,
さっそくのこと
垂れ戸を
われ頭で起し
鍋木の曲った如く
腰をまげ,
家の中へ
われ入る。
左座のそばへ
われ歩み
よく見ると
右座に
若い女が
麻糸をつむぎ
下げて
いるのである。
われを見て
顔のいろが
さっと青ざめる,
われは故意に
する故に
本当に苦しみ難いたものの
するさまを
われ真似して
6164
苦しいうなり声を
出しながら
われしていると,
その女は
横座へ行って
大枕を
取り出して来て
高枕を
われにしてくれる。
それから
外の方へ
出て行く,
しばらく
してから
例の女は
入って来る,
すぐ続いて
男の来る音が
急ぎばやに聞える,
如何なる勇士が
入って来るのか
先に
人間の光が
たいまつの如く
内にさし入る。
5189
よく見ると
フレマウポの
その容貌を
われ感嘆したが
何のその
かようなこと
われ知らぬ,
神の食事
神の飲物
ばかりしていると
われ聞いていたが
この事だと
天に上る神の如き
さまをしている
男の人が
入って来たのである。
微笑を
うかべている
立派な人,
自分以外に
何を感嘆する者
わが近くに
眼を伏せて
いる,
横座に
ひざをおって
5215
座る。
われはわざと
苦しみ弱るうなりを
はき出し,
死にそうな目つきを
装って
いたところ,
その時に
われ戦った奴
フレマウポの
来る音が
ひびきわたる。
彼の小勇土は
大鍋を
とり出してきて
炉の上に
かけ,
ぬるま湯を
わかしたのである,
わが傷の治療をして
われ胸の下から
胸の上から
気がのびのびする,
その間に
フレマウポの
やって来る音が
地の底に
音がひびき,
5243
国土の上に
鳴り裂ける。
その時に
弟の勇士は
大鍋に
山盛りにして
よい飯を
炊いた,
そのとさ
庭の上に
フレマウポの
跳び下る音
鍔の鳴る音が
ひびきわたり,
垂れ戸を
自ら肩にかけ
かかげあけて
入って来る。
入るその先へ
目を注ぎ
われを見た奴が
入口から
怒りの言葉を
発して
『わが悪き弟と
思った故に
ニサプタムス姫を
嫁しずかせたなら
5271
一緒の似た神になると
われ思い
勇土の部落へ
挑戦した,
そのうえに
いま少しのところで
殺されるばかりに
されたから
ポイヤウンベが
戦の間に
気を失った。
その時
われ逃げて
汝のところへ
帰って
来たように
思っていたら,
われが来る先に
帰ってきたのか,
それにしても
よいあんぱいに
弱っているうちに
斬ってしまったら
どうなのか?
何のために
おいておくのか
と言いつつ
右座の方に
5299
高枕を
われかわせている。
少女は
ぬるま湯を
かけて
フレマウポの
傷の先
傷の末を
洗っている,
その間
胸を苦しがっているのを
不甲斐ない奴と
われ思っていた,
あれ程までも
われと戦ったもの
あまりにも弱く
声をたてていると
われ思う。
彼の小勇士は
奥へ行って
食器をとり出し
大高盛の飯を
作り,
フレマウポに
差し出すと
気が悪くて食わない,
思った程でない奴と
われ思う。
5357
そうしたら
思いもよらぬ
ものと
思うことは,
クトネシリカの
太刀の柄がしらに
白狼の神が
生ける神となり,
牙の先を
むき出し
身をひねって
突っ立っており,
鍔の縁の上に
竜神の
雄神が
うろこを高く
立てて,
角を高々と
立てている,
鞘の上には
竜神の
雌の神が
いっぱいにからみ
鞘の口えに
かま首を高く
あげている,
鞘の端に
夏狐の
6355
化物が
耳の先に
少しばかりの毛を
突き立てて,
尾の先に
少しばかりの毛を
突き立てて
身をくねって
わだかまり
低いうなり声で
自ら吠え
叫んでいる,
一緒の
形象の神は
生き神の如く
自ら動いている。

そして
間もなく
横座にいた
弟の首領は
今までの気持が
ふっと軽くなり
フレマウポの
食べなかった食事
大きな高盛りを
われに差し出す,
そして
言うことは
5383
こう, あった
『真の勇士で
汝がそうであるなら
この高盛り飯を
上から廻し
下から廻し
したならば
汝はあごで
とってみよ』
と語りながら
その盛り飯を
高く振りまわし
低く振りまわし
われの前に
振りまわすと,
大口に飯を
小口に飯を
下人の食べるように
口のさまを
まげまげする,
弟の首領は
おかしさで
首をまげる。
その時
フレマウポは
小声にささやき
『何の為に
喰わしてやるのか?
5411
早く殺してしまえ,
わずかばかりでない奴に
されたから
来たのでは
ないのだ』
と, こう
荒々しい言葉を
発している。
その時
もはや
わが肝の上も
わが肝の末も
のびのびしてきて
今は, もう
死んでもよい気持で
心のさまは
奮い起つ,
その大盛飯を
われ食べる。
弟の勇士は
鼻をばつかみ
口をばつかみ
『どなたにしても
はらわたのものが
出ていても
そのうえに
食べることの
しかたが
5439
感嘆すべき
ものではないか』
と,かように
言っている。
その時
危険な者,
弟の首領へ
先ず先に
激しく太刀を
われ斬りつける,
われ速いこと
白い風の如く
太刀の先に
家の天井に
飛び去る,
刀の返しざまに
フレマウポの
逃げる途中に
斬った屍を
みな散らし,
少女へ
わが太刀を振れば
太刀の先に
飛び去る,
部落の間は
騒がしくなり
人々の跳び上る音が
高くさびきわたる。
5467
入口に
窓口に
入り来る群は
共に跳ね重なる,
われ来るものを斬り
魔熊の荒れ狂う
さながらにする。
その最中に
わが守り神の
荒れ狂う風は
この大きな家に
キチンキチンと
鳴っている,
跳ね上る時に
大きな燃えさし
小さな燃えさし
われ足で蹴散らし
時には
首領の宝壇を
前に
踏み散らす,
宝壇の神の
悲しむ音が
城の上に
音をたてている。

われ斬るものは
別にあり,
城の上に
5498
絶え間なしに
魂の
飛ぴたつ音,
その音が
鳴りわたる。
その時
入口から
窓から
吹き入る神風は
床の上に
互に烈しくぶつかる,
敷いた敷物
敷物のへりは
神風に剥がされ
帆の手の如く
床の上に
互いに飛び上り
焚火の
焰の上に
あおれば,
床の上に
うすい火宝が
飛んで
火消の者共が
焔の近くに
集まって来る者を
われ焔と共に斬り倒す,
この大城の
5523
上の軒も
下の軒も
焔が燃えつき
燃える音のさまは
ゴーゴーとして
燃え落ちようとする,
その前に
われ戸外へ
かけ出す。
よく見れば
こう, あった
城の内に
われ斬った者が
多数あったと
思っていたが
何を殺したのか
わからぬ程
鎧武者の群が
跳び重なり,
虫の群のかたまりは
空に舞う如く
槍を持つ群は
高い林の如く
立ちならび,
弓を持つ群は
低い林の如く
立ちならぶ,
子と手をつなぐ者は
5551
別にあり
妻と手をつなぐ者は
別にある,
うしろの群は
遊びの踊りを
共に肩をならベ
あちこち向く,
前の群は
荒々しい足踏みで
互いに前に手を
伸ばしている。

その時
チワシベワ彦は
妹と共に
者共のうしろに
自分が立ち
者共に対し
命令して
『ただの一人ゆえ
早く斬ってしまえ
早く斬ってしまえ』』
こう言って
者共へ
命令する。
その為に
勇気のある者は
細く進み出て
わが前に
5579
出て来る,
槍を持つ群は
槍の穂先を
向きあてると,
われに当らぬものは
味方向志で
互いに槍を眉間にうけ
仲間同志のけんかで
騒いでいる,
弓を持つ群は
弓の上に
ブンブン音をたてる,
近くに来る矢は
大粒のあられの如く
早く
落ちてきて,
遠く射る矢は
わた雪の如く
ゆるく
落ちて来る,
矢のあいだを
風の如くに
われ身をかわし
当らぬものは
味方同志で
互いに矢を眉間にうけ
仲間同志のけんかで
騒いでいる。
5607
その時
戦場の上に
激しい神風が
下りて来る音
鳴りわたる,
生えた青草は
神風にさらわれ
森林は
国土の上に
野草の如く
はじかれて,
木の枝先は
激しい口笛のように
ピューピュー鳴る,
折れようとする木は
幹のまん中より
打折れ,
木の小枝も
折れくだける。
その為に
戦場に
土煙りや
枝の折れ屑が
戦場の上空に
小鳥の群の如く
神風の先に
飛ばされて,
戦場の上に
5635
黒雲の如く
ふさんでいる,
枝の折れ屑は
手槍の如く
投げ木の如く
戦場のおもてに
降って来る音は
シューシューとうなる,
その為に
木で (打たれ) 死ぬ者
別にある。
その時
何時までも
若い気合を
心の底から
われかけている,
近くに斬るものは
ふところ斬りに
屍を斬り,
遠く{こ斬るものは
われ腰を
ひねって斬る,
人間の首は
血煙りとともに
われの上方に
飛び散る。
もはや
多数の者共は
5663
少数になり
わずかばかりに
なってしまい
われ太刀を激しく振り
野草のように斬る,
その為に
左手のさまは
シューシューと鳴り,
激しく叩きつけるものは
魚のはねまわるごとく
よく叩きつけた者は
死魚の転ぶ
さまをなし,
われ踏みそこなった者は
魚のはねまわる
さまをなし,
よく踏みつけた者は
死魚の転ぶ
さまをなす。

その時に
チワシペツ彦は
自分の鼻をおおい
口をおおいして
『まことにも
ボイヤウンベよ
汝の振舞いは
この世の上にも
この世の下にも
5691
神にも勝り
うわさの高い者と
そんな話を
われ聞いたが
本当である,
その腕の立つこと
全く感心した。
わが手下のかみ
わが手下のしも
みな殺された,
けれども
われは
神の戦の
仲間はするが
人間の戦は
嫌いである
それゆえ
互いに戦ったなら
汝は生きることが
ないであろうぞ』
と語っているが
われ心の底で、おかしく
笑い興じた。
『シララペッ彦や
カネベッ彦の
彼等にさえ
打ち勝った
ことであるのに
5719
どこまでも
自分を誇って
言えるものだな』
と自ら思いつつ
その勇気に
負けてなるものかと
われ思う。
もはや
彼の部下共や
犬や虫けらの
うわさの聞えぬよう
残らず斬り終る。
それから
チワシペツ彦が
言ったことゆえ
妹とともに
一緒になり
激しい太刀を
われ浴せる,
太刀の先は
飛び上り
天空の上に
翼のある鳥の如くに
飛びたち,
速く振う太刀は
虹の群の如く,
下に振う太刀は
燃え伏す焔の如く
5747
上に振う太刀は
燃え上る焔の如く
われ焔のように
追いかけ討つ,
左手は
こぶしの手を
魚かぎの如く
焔の燃えるように
追いかけ討つ。

けれども
感心したことは
わが太刀の先
わが手の先は
うすい風の如く
飛び走る,
この上なき勇士に
フムと言うことの
いとまを与えず
女の方も
悲鳴を出す
いとまを与えず,
これがために
手のある鳥の如く
全く翼を共に
閉ぢており,
5772
そうしているうちに
少女の
どこか, かしこを
われひっつかみ
国土の上へ
下に向って
おりている,
われしたことを
よく調べてみると
わが心は夢中に
なっている,
われ気がついて
みれぱ
こう,あった,
地面の上に
太い木へ
細い木へ
少女を
われ打ちつけた音が
ひびきわたり,
時には
われかがとを
踏みつけ踏みつけ
していたことを
自ら気が
ついたのである,
かの少女は
腕の間に
5800
二つに三つに
斬り散らす,
神霊の
飛び去る音が
ひびきわたる。
なにほどか
死にきれないので
あろうか,
六回も
東の方に
音を激しくさせ,
日の入る真西へ
音を低く
消え去る。
それから
チワシペツ彦の
弟の勇士は
怒りに燃えるもの
となって
こう言う
『いつまでも
力の戦いを
われらしたところで
勝負の果ての
つくものでは
ないゆえに
片方重い
片方軽い
5828
立っての一騎討,
肝の刺し合い
して互いの武勇を
比べてみよう
ではないか』
と語った,
われ, よしと
応ずる。
われ帯びる太刀は
よき槍に
手にはさむ
猛しい足踏を
われに延ばすと,
わもまた
猛しい足踏を
彼に向けて延し
まず先に
槍の影が
われにかぶさってくると,
槍の先を
われ頭を下げ
打ちすえる。
金の小笠
笠の上に
槍がそれ,
鍔の縁で
われを打つ音が
棍棒のひびきの如く
5856
わが胸に
ドキンとくる,
わが片肩のつけ根を
彼はつかみ,
われも
片肩のつけ根を
ひっつかみ,
われみぞおちを
したたか突くと
苦しい咳を
息つくひまなく
出して
鼻から出る血は
玉をなして流れ
口から出る血は
ぱっと流れて
いるのである。
また新らたに
突きかかる槍の影が
われにかぶさり,
槍の先を
われ身をかわせば
胸の上を
槍がそれる,
そのとさ
足の指の上を
踏みしめて
上の方へ
5884
下の方へ
斬り裂いて
いるのである。
更にまた
突いてくる槍の影が
われにかぶさり
身をかわすのも
嫌になり,
わがみぞおちを
したたか突き刺さす,
われもまた
苦しい咳を
息つくひまなく
はき出した,
鼻から出る血は
玉をなして流れ
口から出る血は
ぱっとはき出し
お互いに
魚を突刺すように
互角にする。

フレマウポ
兄の勇土の
持つ度胸に
われ悩まされた
けれども,
何のその
そのいきおいたるや
5912
かくのごとく
恐れられたものは
弟の勇士で
あるゆえ,
われなかぱ
感心する,
この上なき勇士の
激しい勢に
おじけ心を
われ持たせられる。
けれども
若い気合を
われ心の底に
かけていた,
戦の上に
わが守り神と
他人の守り神は
共に音が入り乱れ,
敵の守り神は
奥の山地へ
退却して
逃げ神になり
逆に退いて
行ってしまう,
わが守り神は
音を立てること
高らかに聞えてきて
戦の上に
5940
雲を破って現われ
鱗を高々と
つき立てて,
鱗の間から
氷の雨が
降り落ちる,
と思えば
その時たちまち
すさまじい火の雨が
下り落ちる,
その為に
ところどころ
国土の上に
恐しい焔の戦を
起させる,
と思えば
たちまち
夏の大雨の
降り落ちる音が
鳴りひびき,
燃えていた火を
消してゆく。
大神風は
国土の上にあるもの
森林の
木の枝を
打ちくだき,
折れ難いものは
5968
大風のまにまにして
しなやかな小枝の如く
互いに柴の如く
揺れている,
枝の先端は
激しい口笛の如く
ビューピューと鳴る。
枝の折れ屑は
神風の先端に
飛ばされる,

その時に
彼の勇士は
弱り切ったかと
思ったけれども
いつまでも
若い気合を
彼自身の心の底から
かけている,
そのうえに
語る声は
こうあった
『われとしても
死を嫌がるもの
ものではない,
われは死んでも
メナシサム村に
汝の行先に
互いに誘い合い
5996
首領たちがみんな
そこに集まり
酒を作って
戦の首途に
各自の守り神へ
祈願して
いることを
われ聞いたので,
汝の助かる
ことは
ないであろうぞ
と言って
戦の間に
われをおどかしている。
これでなおのこと
戦う腕力が
われ持たせられる,
わが太刀を鞘に納め,
彼の勇士に
つかみかかり,
遠くまで
ぐるぐる振り廻し,
太い立木へ
細い立木へ
われ打ちつけようとすると
柔い輸の如く
自らまわり
時に間をおいて
6024
地上の樹木に
打ちつける音のさま
鳴りわたる,
この勇士は
今は
顔色も
青ざめる。
彼の勇士を
うつ伏せにして
われ倒し,
胸の上に
われ膝を押しつけ
笠の端から
美しい髪の毛を
わが手に巻きつけ
後に首をまげる,
この上なき勇士は
首を中に
ちぢめて
固い木の如く
さまをなす。
けれども
身底の力を
われ出して,
熊のうなりを
吐きながら
ぐんとふんばって
魚の頭を折る
6052
如くする。
神霊の
飛び立つ音
即死する人は
真西の方へ
音を低く
沈み消える,
そのあとは
空が打ち晴れ
戦の雲は
遠い国へ
雨雲のようになり
雲の背高く
立っている。
VII メナシサム村

6066
チワシペッ彦の
弟の勇士を
われ殺して
安心した。
けれども
どこの村が
名にいう
メナシサムの村で
あるのか,
われと戦うための
首途に
酒を作って
遠くの首領や
近くの首領を
さし招き
おのおのの神に
祈願させている
とこう
チワシペッ彦が
戦いのさ中に
おどかして
いたことを
われ思えば,
6089
どんなに勇気を
持っていて
そのように
数々の外国人に
妬まれて
いたものかと
考えると,
すぐ手前のところ
より引返し,
することになれば
男の恥辱に
かかわると
われ思ったので
われ手を高く
かかげで
『わが守り神よ
いづこの村が
名にいう
メナシサムか
われをそこに送り
下さり給え
勇士のすみかを
のぞき見
したいのだ』
と語れば
人間だとて
そんなに聴いて
くれるものか,
6117
大神風が
下りて来る音
鳴りひびく。
神風の先に
われ軽く
飛ばされて
外国人の国
国に沿うてかみへ
神風に駈けせさられ
われ飛び走る。

どこの国で
あるのか
部落の上へ
飛ばされ
よく見ると
多数の部落が
うちひらける。
浜の部落は
海に泊って突出て
山手の部落は
林の方に
入り込んでいる,
たなびく煙は
低いもやの如く
部落の上に
立ちかすめて,
いかにも
部落が如何に多いか
6145
わからぬほどである。
部落のそばに
われ下されて,
眺め見れば
部落の中ほどに
大きな城の
建っているさまが
厳めしく美しい,
その上には
少なからぬ
首領の守り神が
雲とともに
並んでいる。
これがいわゆる
メナシサムの村で
あるように思われる,
首領の守り神,
恐れおののく神の
おののく音が
互いに入り乱れ
音をひく。
ここで、
われは手を高く
かかげて
『わが守り神よ
音を鎮めさせ
給え
と語れば
6173
わが守り神は
四方の雲の根へ
音を消えさせる。
それから
深夜になって
多数の部落
部落の近くへ
われしのび寄る,

酒宴の音
饗宴の音が
聞えてくる。
けれども
村のはずれに
わが心は
延び延び
われゆくと,
村のかみはしに
古めかしい家
大きな家が
建っている,
足音を静かにし
しばしばのあいだ
われ忍びより,
横座の窓下に
われかがみ
窓に垂れたものを
糸でしばり
その間から
6201
のぞいてみる。
見ると
右座に
醜い老婆
短いひたいが
前につき出て
それた顔の
醜い老婆が
麻糸をなって
下げている。
その時
窓垂れを
そよ風の如くして
われひらりと
中ヘ入る,
醜い老婆を
手でつかみ
枯木を折るように
音を立てずに
われ殺して
床のすみへ
押しこめる。
それから
床の上に
ぴょんぴょんと
眺びはね眺びはね
われすると
醜い老婆の
6229
すがたに
変化して,
短いひたいを
前にそらして
咳ばなを
自らねりつけて,
右座に
麻糸をなって
下げて
いたら,
その時
人の来る気配が
忙しそうに聞え
何者かが
中へ入ってくる。
見ると
醜い女
短いひたいが
前にそれた女が
中へ入ってきて
こう言う
『おっかさん
よく聞いて
シヌタプカの
ポイヤウンベと
戦うので
6255
その首途に
神様へ
祈願するため,
お酒を作って
首領たちみんな
招待したが,
その時
召使いたちが
山へ使わされて
行ったら
鹿をとって
帰ったのです。
先に行って
おっかさんが
礼拝する
そのために
私が探しに
来たところ
なのですから
おっかさん
一緒にいきましょう
と言っている,
ああよかったと
われ糸巻を
奥の間のすみへ
投げすてる。
そして
その老婆の
6283
すがたに
われ偽わりまねし
杖を手に
われ持ち,
咳をたてたで
しながら
歩いて行き,
酒宴をする家に
われ着く。
垂れ戸を
静かに開け
目の先へ
目を止め
よく眺めると
この酒宴の席は
酒宴の上手
酒宴の下手が
並び連なっている。
それを見てから
入口より
小手をたたき
しながら
『酒の神
ばかりでも
喜ばしい
ことであるのに
鹿の獲物まで
捕えた話・・・』
6311
と言いながら
小手をたたき
しながら
われすると,
首領たちみんな
感激して
われを迎え
『真に身分の高い婦人で
あるゆえ
饗応を喜んで
いることよ』
と声がする,
右座へ
炉のそばに
われ坐る。
よく見れば
家の主人は
短いひたい
短いあごの
しゃくし顔で
醜い首領
である。
酒宴の上を
われ調べ
見渡すと
われ見知らぬ者で
あるけれども,
6338
チンナイ彦も
居るのである,
マウカ彦も
居るのである。
タライカ彦も
居るのである,
同族ばかり
居るのである。
醜い女が
銚子を
小脇に
かかえて
進み出て
酒宴の間を
酌さし歩く。
その時に
ほんとうに
鹿の獲物を
まず先に
礼拝し,
それから
召使いどもが
肉を切って
鍋へ入れる。
6362
その時に
醜い女が
われに進み出る,
われ高くして(拝み〉
われ低くして(拝み)
われ飲めば
なにほどか
酒のおいしいこと
なのであろうか
首領の飲みさし
別に
われ飲むほどに
肝の上
肝の末は
のびのびとする。
と同時に
肉の油を
お盆のつかむところの
ないくらいに
われに運んでくる,
あれほどに
食事もしないで
死ぬほど (空腹になってと)
われ思いながら
老婆に
6387
変化して
そのまねをして
『獲物の神の
ょいところを
わたしに下さること』
と言いながら
われ高くして (拝み)
われ低くして (拝み)
食べてみると
なにほどか
味のよいこと
言うべきことも
われ知らぬ。
その時
酒宴の席から
どの首領か
知らぬが
こう雪う
『ポイヤウンベ
うわさに高い者の
化物と
いうものを
聞いたことはあるが,
見た首領が
あったら
まねして見給え
6413
と声がしたら
チンナイ彦は
こう言う
『われも
評判は
聞いたので
真似をして
酒宴の席を
にぎやかにさせて
あげようぞ』
と語りながら
起き上り
床の上に
手と足とを
一つに
揃えて
大きな声を
出しながら
眺び上ってする
物音が
とどろきわたる,
そうすると
酒宴の席から
大笑の声が
どよめきひびく。
その時に
われ語る声は
こうあった
6441
『醜い老婆で
あるけれど
私も
評判だけは
聞いたのであるが
軽く跳んで
するものと
聞いておる,
この酒宴の席を
にぎやかにさせよう
醜い老婆で
あるけれど
私も
そのまねを
したならば
首領たちみんなを
喜ばせましょう』
とわれ語り
起き上り
床の上に
手と足を
揃えて
軽く跳び
われ白身
その姿をする。
大きな声を
出しながら
わが口からは
6469
黒いもやを
パフパフと
吐き出すと,

酒宴の席から
こう, 声がする
『本当に身分の高い老婆は
評判に
聞いたとおり
よくも上手なこと』
という声がし
大笑いの声が
する。
酒宴の上座に
酒宴の下座に
軽く眺びはね
われして
大きな声を
われ出しながら
口からは
黒いもやを
パフパフとはく,
その為に
城の中は
黒いもやが
たちまとい,

そうすると
酒宴の上座から
こう, 声がする
6497
『老婆の神よ
汝の遊びは
もう止めて呉れ
と声がするけれど
われ聞く様子は
全くない,
いつまでも
酒宴の席のまわりを
軽く跳びはね
われして
大きな声を
出していると,
もはや
炉の焚火は
かすかに
光っている。
そしてこの時と
酒宴席の上に
酒宴席の下に
われはこわがる
首領どもの
のど笛を
指で切り,
いまは
勇土どもはみんな
われに殺される。

それから
床の上に
6525
起き上り
跳びはね跳びはね
すると
元の姿に
われ変化する。
そして
酒宴席の上に
われ太刀を抜き
この時, 始めて
うなり声を
立てて
野草を斬る
如くにする,
城の中は
そうぞうしくなり,
この時, 始めて
勇士どもを
一緒に
のど首を斬る者の
神霊の
飛び去る音が
ひびきわたる,
部落の中は
はげしい騒ぎになり
どうなったかと
尋ねて来る者が
入口より
窓より
6553
入って来る群を
われ斬り倒し
われ斬り散らす,
その為に
絶え間なく
二神死ぬ音
三神死ぬ音が
城の上に
互いに音が入り乱れ
ひびいている,

われわざと
するために
大きな火の燃えさし
小さな火の燃えさしを
足で蹴り散らす,
それゆえ
床の上に
うすい焔が
飛び散って,
火消しの者どもが
互いに重なり集まると
われ焔と共に斬り倒す。
時には
首領の宝壇を
われ引き出して
踏み散らし,
宝壇の神は
悲しい神の如く
6581
城の上に
互いに音が入り乱れ
ひびいている。
その時に
大神風が
入口から
窓から
入ってくる大神風が
主いに巻きあがり,
床の敷物は
神風に飛ばされ
帆の手の如く
互いに巻きあがる。

その時
この大城の
下の軒
上の軒へ
焰がつき
燃える音が
鳴りわたる,
燃え落る
その前に
全く戸外へ
われ走り出る。
みると
城の中に
われ殺したものが
多数だと
6609
思っていたが
何を殺したか
この有様は,
鎧武者の群は
互いに重なり合う
このことは
虫の群のかたまりの
如きさまをなす,
われ近く斬るものは
わが両腕の間に
斬り殺し,
遠く斬るものは
両腕をさしのベて
斬り倒し,
左側に
左手の動くさまが
シューシューと鳴り,
叩きそこなったものは
魚のはねまわる
さまをなし
よく叩きつけたものは
死魚の落ちる
さまをなし,
よく踏みつけたものは
死魚の落ちるように
踏みそこなったものは
魚のはねまわる
さまをなす。
6637
そのために
戦場の上は
絶え間なく
二神の死ぬ音
互いに音を
ひき伸ばす。
即死する神は
日の入る真西へ
音を低く
おさまり消える,
半死する神は
東の方へ
音を高く
ひびかせる。
槍を持つ群は
高い林の如く
弓を持つ群は
低い林の如く,
背後の群は
遊びの手踊りを
互いに肩を揃えて
向いて来る,
前の群は
荒々しい踊りして
互いに手をかざして
伸ばしている。
弱い者は
槍を横に
6665
弓を横に
持っていて
群になってへだたり
輪になっている,
弱い者,
臆病者,
子と手をつなぐ者
妻と手をつなぐ者
逃げる者は
逃げ腰になっている,
弓を持つ群は
弓束の上に
ピュンピュンと射り,
近く飛ぴ来る矢は
大粒のあられの如く
わが方へすばやく
落ちて来る,
遠く飛ぴ来る失は
大雪の如く
わが方へ静かに
落ちて来る。
勇気のあるものは
細く群の如く
わが前に
出てきて
われの胸元へ
突いてくる,
わが方に刺してくると
6693
われに当らぬものは
味方同志で
互いに槍を眉間にうけ
互いに矢を眉間にうけ
仲間同志のけんかで
騒いでいる。
その時に
わが守り神
荒狂う風
大神風が
降って来る音が
鳴りわたる,
地上にあるもの
森林は
神風の先に
振りまわされ,
上の枝は
打ちくだけ
根の元は
根こそぎ転び,
青草は
草の根元を
神風に飛ばされて,
悪い土ほこり
枝の折れ屑が
神風の先へ
小鳥の群の如く
戦場の上に
6721
飛ばされ,
また逆戻りして
戦場の上に
手槍のように
降り落ちる音のさまが
シューシューと鳴る。
その為に
木で (打たれて) 死ぬ者
別にあり,
わが守り神は
多数の部落
部落の上に
二回も
三回も
落雷して,
部落の上に
悪い火災の戦を
ひき起す。

もはや
日数を数えて
みると
夜の戦は
六日
昼の戦は
六夜
われした戦は
今は, はや
多数の者共
6749
少数になり
ひとかたまりに
なっている。
われ遠く追いかけ
近く追いかけ
斬り倒し,
もはや
犬や虫けらも
うわさするもの
残らず斬りすてる。
戦のあとは
空も打ち晴れ
部落の中は
畑地の荒れた如く
石原の荒れた如くになり,
戦のかすみは
四方の雲の裾に
雨雲になり
雲の足が
立って
良いなぎが
うちひらける。
それから
わが国土の
6773
そば近く
上陸し
帰り着く。