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森竹竹市「ウタリーへの一考察」『北海道社会事業』, 第28号, 1934.
小川正人・山田伸一(編)『アイヌ民族 近代の記録』, pp.400-402
「衣食住足って礼節を知る」と云ひますが 着る事と食ふ事だけは、どうにか現代人と同じになっても 肝腎の生活の本拠が原始時代其侭の草萱小屋に住んで居る様では 何時迄過ぎても其の心が進化しないばかりでなく世聞からも侮蔑の対象物とされます。
殊に保健上から観る時、採光設備少ない為家内は常に湿気を帯ぴ 炉火の煙にさらでだに薄暗き室内は蒙々として 全く非衛生極まりないものであります。
ウタリーの中にトラホーム患者と結核患者の多いのはこゝに原因して居るものと思ひます。
静内土人病院に於ける昨年のウタリー死亡者が十人、其の中八人迄が結核患者である事を聞かされた時 私は慄然たらざるを得ないのであります。
斯くの如き事実を知るとき病菌の培養所とも目される不良住宅の改善を等閑に附し徒に多額の救療費を支出する事は 本末顛倒も甚しいものではなからうか、と言はざるを得ないのであります。
悪因の存する所必ず悪果在りで 消極的な保護施設より、積極的に擢病者を出さざる様抜本塞源の策を樹てる事が、より人道的であり社会的であると考へさせられます。
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つぎの文中の「ショボショボ目」は,上文中の「トラホーム」と対応している:
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公立姉茶尋常小学校『学校要覧 昭和九年』, 1934.
『コタンの痕跡』, p.4
‥‥‥
私は和人校在職中一割の土人の子供を教えた事のあるのみで本校へ赴任して参りました。
しかも本校には一人の和人の子供もなく純然たるアイヌの子のみの学校、それは予期した以上の色彩の濃いものでした。丁度一枚の硝子は白いが数枚重ねた硝石は青い色彩を持つごとく自分のアイヌ人に対する認識の不足を今更に感じ、壇上に立った時、私は子供をどう導いたらよいのかしら? ‥‥‥。
栄養不足な顔、ショボショボ目の子、がんベの子、ひぜんに患む子、それに動作の不活発‥‥‥。
総べて悪い所ばかりすぐり寄せた感じの淋しげな私の教え子。
私は言葉もなくじっと一人ずつ見廻す中に一人でに目頭があつくなりました。
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