「同化」を行為することは,喪失とペアである。
喪失感はいや増すばかり。
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森竹竹市『原始林 : 若きアイヌの詩集』, 白老ピリカ詩社, 1937
『北海道文学全集 第11巻』, 立風書房, 1980. pp.76-96.
序
文字の無かったアイヌ民族にも、昔から宗教があり芸術がありました。
火や水や木や熊等を至高の神とする外、宇宙の森羅万象を神として仰ぎ祈り敬う。
此の宗教観念から醸し出された熊祭の伝説や、川姫とアイヌ乙女の純情物語や、熊とアイヌメノコの悲恋物語等、本書の詩篇に取材された幾多の語り草は、平和な古代生活を潤す情操の泉でありました。
今日の同族は立派な教育を受け、宗教も次第に近代化し、新聞雑誌や凡ゆる文明機関に依って情操も豊になって参り、自然古来から口伝された宗教様式や伝説等は廃れ、現存する古老の去った後は、全く之を見聞する事が出来なくなりました。
此の過渡期に生れ合わせた自分が、同族の同化向上に喜びの心躍るを禁じ得ない反面、何か言い知れない寂寥の感に打たれるのをどうする事も出来ないのであります。
斯うした懐古の情が、私を馳って、折々古老を訪ねては伝説を聞き、風俗を質ね、各種の儀式には必ず参列して見聞し、之等を詩化すると共に、刺戟の多い近代社会生活に於けるアイヌ青年の真情を、赤裸々に告白したのが本書であります。
もとより貧しい文藻ではありますが、此の意味で私にとっては心の碑であり、やむにやまれない心の叫びであります。
同族皆が、合理的な近代文化の中に融合し終って、本書が遠い過去の記念碑として、取残される日の一日も早い事を切望して居ります。
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