Up 『アイヌの系統』: おわりに 作成: 2020-08-23
更新: 2020-08-23


    「アイヌ」の名で一括りにできるような集団は,存在しない。
    集団は,無常である。
    その「無常」を構成しているものは,個のランダムな移動と交配である。

    「アイヌ」の定義は,「アイヌ文化を生きた者」となるのみである。
    アイヌは,アイヌ文化があった時期の前と後には存在しない。


    ここに,アイヌを「北海道先住民」とし,アイヌの末裔もアイヌであるとして,これに北海道先住民の権利を持たせようとするイデオロギーが存在する。
    このイデオロギーは,「アイヌ」を集団の名にしようとする。

    人間集団を画定しようとする者が用いてきたものに,「人種」がある。
    実際,ひとは,人の集団に「人種」を考えたがる。
    そしてそのとき,「人種」を生物の種のように想っている。
    ホモサピエンスの亜種 (品種) というわけだ。

    件のイデオロギーも,「人種」を用いる。
    しかし「人種」は,誤想である。
    「人種」は,生物学/科学の概念ではない。

    件のイデオロギーは,「人種」とあわせて「民族」を用いる。
    「民族」のことばを持ち出して,アイヌはいまに続いている──アイヌの末裔もアイヌだ──とする。
    「いまに続いているアイヌ民族」は,「系統」が論理になる。
    そして「系統」が論理になるのは,「人種」も同じである。
    件のイデオロギーは,「アイヌの系統」の想念が核心であり,これで()っている。


    本論考の趣意は,この核心を挫くことであった。
    「アイヌの系統」がどんな内容になるかを,「系統」の論理から起こして,これを導いたわけである。
    即ち,「アイヌの系統」は,機械的に定義できる。
    しかしそれは,「アイヌ文化」を含意せず,且つ「アイヌ文化」の含意にもならない,といったものになる。