Up 誤想「アイヌの血」 作成: 2019-10-30
更新: 2020-08-31


    ひとは,「血筋」のことばに,「血のバトンリレー」のイメージをもつ。
    そこで,「先祖にアイヌがいる」と「アイヌの血が流れている」を同義に思う。
    しかし,そうはならない。


    「血筋」の「血」は,いまの科学のことばで言えば,遺伝子 (DNA) である。
    子への遺伝子リレーのメカニズムは,染色体リレー。
    ヒトの染色体は 23 対,46本。
    親から子には,父の23本と母の23本が継がれる。

    さて,アイヌAの「血筋」はどんなふうになるか。
    Aの子どもBは,遺伝子のうちAの遺伝子であるものが──「性細胞の減数分裂」のロジックにより,確率的に──半分 (1/2) になる。
    Bの子どもCでは,遺伝子のうちAの遺伝子であるものは 1/4。
    Cの子どもDでは 1/8。
    Dの子どもEでは 1/16。
    Eの子どもFでは 1/32。
    Fの子どもGでは 1/64。
    こうして,6代も降れば,AのDNAを受け継いでいるとはとても言えなくなる。

    したがってアイヌ終焉後では,アイヌの血──この意味は, 「アイヌ文化を生きた者の DNA」──は,アイヌの血がまだ濃い者同士による子づくりによってかろうじて保たれるというものになる。
    しかしこんなことはあり得ない。

    「先祖にアイヌがいる」と「アイヌの血が流れている」は同義ではない。
    「アイヌの血を保持している」と言えるほどのアイヌ系統者は,いまはもう極めて少数ということになる。
    そして,じきにいなくなる。