Up 「シャクシャイン像事件」 作成: 2017-03-04
更新: 2017-03-04


      新谷行「シャクシャイン像台座文字破壊の意味」
    『増補 アイヌ民族抵抗史』, 三一書房, 1977. pp.298-308.
    pp.298,299
     学会糾弾を行なった同じ年の一九七二年九月二十日、新谷・太田・結城は他の若干名の者とともに静内真歌の丘にあるシャクシャイン像の台座に刻ざまれていた「知事町村金五書」の文字を削りとった。
    pp.299,300
     先づ、私はなぜこの文字を削りとらねばならなかったかから記して行きたい。
    ‥‥‥引き返えして今度は釧路へ出て、ここではじめて結城庄司と会った。
    このときに、結城庄司はクナシリ蜂起についてはあまり関心を示さなかったが、シャクシャイン像については多くを語った。旭川のA氏 (とくに名をかくす) もそうだったが、二人はシャクシャイン像に刻ざまれた「知事町村金五書」の文字が不当であることと、碑文のでたらめさについて同じ意見であった。
     ‥‥‥
     その後、私は静内をまわり、平取や二風谷をまわっているうちに、多くのアイヌがこの文字と碑文に反感を持っていることを知った。
    pp.304-306
     ところで、この事件に当って、私に関しての裁判所の出した勾留却下に対する検事の準抗告の趣旨書が手もとにあるのでその全文をここに引用しておこう。
    一、被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由は一件記録により明らかである。
    二、被疑者には罪証を隠滅すると疑うに足る相当な理由がある。
    本件は昭和四七年夏ころから、北海道内において、アイヌ民族の解放と独立を口実としながら実は一部のアイヌ系住民を利用しつつ過激派の新たな行動目標として破壊活動を推進しようとする超過激派グループによる犯行が相次いで発生したなかで、その最初の事犯ともいうべき事件である。
     即ちこのグループは、同年八月二五日札幌医科大学において開催された人類学会シンポジュウム会場乱入事件をはじめ、本件を惹起したが、その後本件と同様な記念碑等に対する損壊・汚損事件、札幌・旭川両市内において同時に発生した爆弾事件、あるいはまた白老町長に対する殺人未遂事件等、この約二年間に二○数件のアイヌ解放、アイヌ共和国独立を標榜するグループによる事件が多発している。しかも、昨年十一月以降は、北海道内のみにとどまらず、京都、大阪、青森、東京などにまで同種事件が発生するに至っている。
     しかも、その犯行の手口、態様をみると、逐次兇悪化しつつあり、最近では兇器を使用したテロ行為にまで至っている。しかも、このことは、右グループの主導的地位を占めているものとみられる太田竜こと栗原登一が、広く発売されている雑誌北方ジャーナル、情況、話の特集、映画批評などの誌上で、北海道大学教授、北海道知事等らを名指しで死刑執行されなければならないなどと公然と攻撃目標を指示していることなどと符合しているのである。
     本件行為についても、右栗原が「北海道知事町村金五」という文字は抹消されなければならないとの論文を発表し、本件犯行を誇示しているのである。
     これらのことから、右一連の行為は右栗原を中心としたグループによる犯行であることは推測に難くないところである。
     しかも、これら一連の犯行に対しては、北海道民のみならず、国民全体が、そして良識をもった大多数のアイヌ系住民が挙ってこれを非難攻撃しているところであり、これら事犯の犯人検挙が急務とされているところである。
     本件は、右の如き状況下における犯行であって、単純な器物損壊行為にとどまるとして軽視さるべき事犯ではないと思慮する。しかも、集団的、計画的、かつ密行型の犯行であるから、罪証隠滅の行われ易い事犯である。
     現に犯行に使用されたノミなどは川に捨てたとの供述もあり、これが事実であれば、既に一部について罪証隠滅が本件において顕在化しているのである〈これをもって、既に隠滅すべき証拠はないと即断するのは誤りである)。共犯者も多数に及んでいるため、それらの者との通謀、証拠物の隠匿など未だ多くの罪証隠滅の余地がある現状にあり、現段階において、被疑者を釈放されることは、罪証隠滅のおそれ極めて大である。
     被疑者は本件について一応の事実を認めてはいるが、犯行前夜及び犯行当夜謀議に参加した者らに関してすらなおあいまいであるのみならず、共犯者間の供述にもくいちがいがある。
     これらの点から原裁判官が却下理由中において「その立証もほぼ十分である」としているのは、大きな誤解にもとづくものと思料し、承服し難いところである。
     三、被疑者が逃亡すると疑うに足りる相当な理由がある。
     被疑者の健康状態については、診断書のとおりであるが、勾留に耐えられない状況とは認められない。これをもって誇大に主張しようとしているところに、罪証隠滅のおそれとともに、逃亡すると疑うに足る相当の理由がある」
       (昭和四九年 (む) 第七○七号)