Up 串原(くしはら)正峯(まさみね) (『夷諺(いげん)俗話』,1793) のアイヌライフスタイル評 作成: 2019-02-06
更新: 2019-02-06


      串原正峯 (1793), pp.488,489
    斯日本に従伏なして二千年に近きといへとも、未た道ひらけす、
    髪を被り、衣を、單衣にしてアツシといふ木の皮にて織たるを着し、左(えり)になして笠履を用ひす、みな躶跣なり。
    耳には環を穿て飾となし、
    身躰最も毛多く、眉毛一條に連り、惣身熊のことく毛生いたるもあり。 故に上古毛人國ともいひたるよし。
    ((性))質正直なるもあれとも、交易に馴れたる蝦夷は偽謀の事あり。
    一躰其((性))勇奸にして直ならず。
    女は皆唇と肘に入墨して文をなす。
    (さて)又文字の暦なき故、甲子紀年を知る事なく、
    寒暖を以春秋分ち、月の盈缺(みちかけ)を見て朔望を知り、
    金銀の通用なし。
    古器刀剣を以寶とし、
    山野海河を獵し、群畜諸魚を獲て食とし、
    屋室は唯四壁のみにて、夫も熊笹を累ね、或は葭茅等を以是を圍ふ。
    これをもって屋根とし、家内を見れは土間へアフスケ 是は葭簀の事なり 是をしき、其上にキナ 是は菅苫の類なり といふものを敷き、
    圍爐裡と鍋(ばかり)にて食用を足し、
    いろりの廻り甚むさくろしく、
    物を喰てもその跡を洗ふといふとともなく、鍋の内も指にてなて廻しては口へ入れ、如斯して其儘にて差置、又何そ物を煮る時は、やはり洗ひもせす直にその鍋にて煮て食し、
    食物にも多く魚油をさす事にて、夫ゆへ家内もびた/\と滑り、臭き事たとへん様なし。
    湯浴は勿論、朝起出ても手水遣ふといふ事もなく、手拭も不持ゆへ、海より上りても其濡たる儘にていろりの火に當り干すなり。
    大小便をなしても手も洗わす、草村の中、濱邊の岩の間にひり散し、
    夜臥にも襖もなく、アツシ壹枚着たる儘にて寝るなり。


    引用文献
    • 串原正峯 (1793) :『夷諺俗話』
      • 高倉新一郎編『日本庶民生活史料集成 第4巻 探検・紀行・地誌 北辺篇』, 三一書房, 1969. pp.485-520.