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串原正峯 (1793), pp.488,489
斯日本に従伏なして二千年に近きといへとも、未た道ひらけす、
髪を被り、衣を、單衣にしてアツシといふ木の皮にて織たるを着し、左衽になして笠履を用ひす、みな躶跣なり。
耳には環を穿て飾となし、
身躰最も毛多く、眉毛一條に連り、惣身熊のことく毛生いたるもあり。
故に上古毛人國ともいひたるよし。
其姓質正直なるもあれとも、交易に馴れたる蝦夷は偽謀の事あり。
一躰其姓勇奸にして直ならず。
女は皆唇と肘に入墨して文をなす。
偖又文字の暦なき故、甲子紀年を知る事なく、
寒暖を以春秋分ち、月の盈缺を見て朔望を知り、
金銀の通用なし。
古器刀剣を以寶とし、
山野海河を獵し、群畜諸魚を獲て食とし、
屋室は唯四壁のみにて、夫も熊笹を累ね、或は葭茅等を以是を圍ふ。
これをもって屋根とし、家内を見れは土間へアフスケ 是は葭簀の事なり 是をしき、其上にキナ 是は菅苫の類なり といふものを敷き、
圍爐裡と鍋斗にて食用を足し、
いろりの廻り甚むさくろしく、
物を喰てもその跡を洗ふといふとともなく、鍋の内も指にてなて廻しては口へ入れ、如レ斯して其儘にて差置、又何そ物を煮る時は、やはり洗ひもせす直にその鍋にて煮て食し、
食物にも多く魚油をさす事にて、夫ゆへ家内もびた/\と滑り、臭き事たとへん様なし。
湯浴は勿論、朝起出ても手水遣ふといふ事もなく、手拭も不レ持ゆへ、海より上りても其濡たる儘にていろりの火に當り干すなり。
大小便をなしても手も洗わす、草村の中、濱邊の岩の間にひり散し、
夜臥にも襖もなく、アツシ壹枚着たる儘にて寝るなり。
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東□元稹 (1806), p.37
扨夷人の風俗は、第一文華なきが故に、暦數も辨へず、已に年何十歳と云事もしらず。
元来山海獵より外に産業なく、又欲情も深からず。
偃鼠 [もぐら] の如く腹に満て飽のみ。
されば性魯鈍にて、小兒のごとし。
其中に富るといふも二□の器物有と、妻妾の多きのみ。
しかれども、かゝる夷人に随身すれば、獵獲もおのづから多きが故に事足る。
事あれば相随ふ。
メノコ 女夷 ウタレも多き事なり。
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引用文献
- 串原正峯 (1793) :『夷諺俗話』
- 高倉新一郎編『日本庶民生活史料集成 第4巻 探検・紀行・地誌 北辺篇』, 三一書房, 1969. pp.485-520.
- 東□元稹 (1806) :『東海參譚』
- 高倉新一郎編『日本庶民生活史料集成 第4巻』(探検・紀行・地誌. 北辺篇), 三一書房, 1969. pp.23-44.
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