Batchelor, John, "The Ainu and Their Folk-Lore" (1901)
安田一郎訳, 『アイヌの伝承と民俗』, 青土社, 1995.
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pp.214-217
この世に生まれた子供にとって解決すべきつぎの大きな問題は、その固有名詞を見つけることである。
しかしこの固有名詞を選ぶのはきわめてむずかしいことが多い。
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(1) |
どんな人も死んだ人の名前をつけてはならない。‥‥‥
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(2) |
名前自体が、人によっては幸運か、不運だと考えられるし、場合によっては人に幸運か、不運をもたらすと考えられている。‥‥‥
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(3) |
‥‥‥彼は生きている隣人の名前をつけてはならない。‥‥‥
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(4) |
また名前はよい響きとよい意味をもたなければならない。
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しかし私が命名について言ったことから、アイヌはみなその子供たちを命名するにあたって慎重だと考えてはならない。‥‥‥
ピラトリのベンリ村長は、この点について偉大な違反者である。
彼はアイヌにとってさえも、例外的に卑猥な老人である。
もちろん彼は、他人についている名前か、つけられた名前をすべて避けている。
しかし彼は、「壷」「釜」「箸」「煤のような」「汚れた」などのような名前や、その他に私がここで挙げることができない多くの名前をつけるのが非常に好きだ。
‥‥‥
アイヌの子供は、二、三歳になるまで命名が行われない。
両親は性格のある特徴があらわれるか、あるいはその子がある特別の行為をするまで待つ。
pp.219-221
‥‥‥配偶者の名前を言うことは、女にとっては非常に不幸で、また最大に失礼なことと見られている‥‥‥
名前を言うことは、家族に不幸をもたらすと考えられている。
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夫が自分の妻を名前で呼ぶ声や、夫が他人に自分の妻のことを名前で言う声が、たえず聞かれるかもしれないが、そうすることは無作法だと考えられている。
‥‥‥
男が自分の妻のことを、妻が自分の夫のことを、どちらかの死後に言う必要がときどきある。
しかしどんな場合にも、死んだ人の名前を発音してはならない。
pp.221,222
一人のアイヌがその問題を扱ったつぎの民間伝承を私に話してくれた。
彼は言う。
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神々を礼拝することが、男たちの特別の職務です。
他方、女たちは祈ることを引き受けてはなりません。
人が病気のとき、その病人が年を取っているか、若いか、男か、女かは問題ではなく、男たちは祈りのことばで神々に間違いなく近づかねばなりません。
夫は家の長です。
聖なるものの助けが必要なときには、それに近づくのは夫です。
だから、妻は夫を大いに尊敬して扱わねばなりませんし、高い名誉のなかに彼をずっとおかなければなりません。
妻は夫の名前を不注意に言ってはなりません。
というのは、夫は実際に妻の支配者であり、上司だからです。
さらにまた、妻は夫の名前を公言してはなりません。
というのは、それを大声で言うだけでも、夫を殺すのと同じだからです。
というのは、それは確実に夫の生命を奪い去るからです。
だから、女たちはこの問題では非常に慎重にすべきです。
この教えは、神聖なアイオイナから伝わりました。
だから厳格に守るべきです。
それゆえ、もし妻が、夫の名前を口にして夫の名誉を傷つけているなら、それは夫に失礼であるだけでなく、神々にとって失礼であり、不敬であることをその女に知らせましょう。
この命令をすべての人に守らせましょう」。
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ここでは,名前は,「コンピュータのファイルのエイリアス」「コンピュータプログラムでの定数のエイリアス」と言うときの「エイリアス」である。
名前であるが,かつ本体である。
よって,本体への対し方,本体の遇し方が,名前の用い方に転移する。
例えば上司の名前を直接用いるのは憚られることであるが,こうなるのは,「上司・部下」の系が<名前が本体のエイリアスになる系>だからである。
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