Up 談判の詞 作成: 2019-01-11
更新: 2019-01-11


      久保寺逸彦 (1956), pp.7,8
    「談判 (Charanke) の詞」なども、おのおの部落 kotan を代表する雄弁をもって鳴る者が、相対して、落ち着き払って、さながら謡曲を謡い、浪曲でも語るように、太く重々しい声調で吟詠して、一句一句、婉曲に、相手の非を責めていくものである。
    しかも驚くべきことには、徹頭徹尾、神話や故事の知識を背景として、美辞と麗句の応酬が幾時間も、あるいは夜を徹しても、時としては数日にわたっても続けられていくことである。
    かくして、ついに理屈につまるか、あるいは気力の上で相手から圧倒されてしまうか、体力的に疲労しつくした方が敗けとなり、勝った相手の要求するだけの賠償 ashimpe を取られて(けり)がつくので、いわば、一種の歌の掛け合いとも見られるものである。 ‥‥‥

    [狩猟域 iwor のことで談判する中の一節]
      Shine metot
    e-we-turashp
    a-usamomare
    a-kor pet ne yakun
    shine hapo
    uren toto
    e-shukup utar
    korachi anpe
    a-ne wa shir-an.
      同じき水源の山へ
    川伝ひに溯り行き
    相並び合ふ
    我等が川なれば
    同じ慈母の
    両つの乳房
    もて育ちたふ
    さながらの
    我等にあらずや。


    引用文献
    • 久保寺逸彦 (1956) :「アイヌ文学序説」, 東京学芸大学研究報告, 第7集別冊, 1956
      • 『アイヌの文学』(岩波新書), 岩波書店, 1977