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久保寺逸彦 (1956), pp.6,7
アイヌの日常口語は yayan-itak (常の言葉)と呼ぶほかに、rupa-itak (散語)ともいわれるのに対して、雅語の方は sa-kor itak (律語)とも表現されることは注意すべきことである。
rupa-itak というのは、原義 ru (融ける) pa (口) itak (語・言葉) と分解され、融けてばらばらな言葉、すなわち散語・散文の意となる。
sa-kor itak の方は、原義、sa (節調) kor (持つ) itak (語・言葉) で、律語・韻文の意となる。
‥‥‥
雅語をもってする場合の、
会釈の詞 Uwerankarap-itak、
神禱の詞 Kamui·nomi-itak, Inonno-itak、
誦呪の詞 Ukewehomshu-itak、
談判の詞 Charanke-itak、
詞曲の詞 Yukar-itak
などは、‥‥‥
「節付けの語 sa-kor itak」をもって表現されるから、‥‥‥
一種の歌謡とも見うるものなのである。
だから、‥‥‥ 五線譜の上に載せることも可能なのである。
葬式の際、司祭者となった長老が、野辺送り(出棺)するに先立って、死者に対して与える「告別の辞 Iyoitak-kote」などというものを聴くと、一句一句、首尾一貫して、立派な雅語の叙事詩形をとり、悠揚迫らざる節調をもって、朗々として述べられていくのには、驚嘆せざるを得ない。
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引用文献
- 久保寺逸彦 (1956) :「アイヌ文学序説」, 東京学芸大学研究報告, 第7集別冊, 1956
- 『アイヌの文学』(岩波新書), 岩波書店, 1977
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