Up 律語 作成: 2019-01-11
更新: 2019-01-11


      久保寺逸彦 (1956), pp.6,7
    アイヌの日常口語は yayan-itak (常の言葉)と呼ぶほかに、rupa-itak (散語)ともいわれるのに対して、雅語の方は sa-kor itak (律語)とも表現されることは注意すべきことである。
    rupa-itak というのは、原義 ru (融ける) pa (口) itak (語・言葉) と分解され、融けてばらばらな言葉、すなわち散語・散文の意となる。
    sa-kor itak の方は、原義、sa (節調) kor (持つ) itak (語・言葉) で、律語・韻文の意となる。
     ‥‥‥
    雅語をもってする場合の、
      会釈の詞 Uwerankarap-itak、
      神禱の詞 Kamui·nomi-itak, Inonno-itak、
      誦呪の詞 Ukewehomshu-itak、
      談判の詞 Charanke-itak、
      詞曲の詞 Yukar-itak
    などは、‥‥‥
    「節付けの語 sa-kor itak」をもって表現されるから、‥‥‥
    一種の歌謡とも見うるものなのである。
    だから、‥‥‥ 五線譜の上に載せることも可能なのである。
    葬式の際、司祭者となった長老が、野辺送り(出棺)するに先立って、死者に対して与える「告別の辞 Iyoitak-kote」などというものを聴くと、一句一句、首尾一貫して、立派な雅語の叙事詩形をとり、悠揚迫らざる節調をもって、朗々として述べられていくのには、驚嘆せざるを得ない。


    引用文献
    • 久保寺逸彦 (1956) :「アイヌ文学序説」, 東京学芸大学研究報告, 第7集別冊, 1956
      • 『アイヌの文学』(岩波新書), 岩波書店, 1977