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久保寺逸彦 (1956), pp.121-123
神謡はいかなるものでも、必ず sakehe (原義「節のところ」) と称する「折り返しの 囃詞」を入れて歌う‥‥‥
Sakehe は、普通、一篇の神謡には、一個つくのが普通であるが、中には、一篇の神謡に二個以上つくものもあるが、それは極めて稀だといっていい。
金田一博士の『ユーカラの研究』第一冊、一四九頁の「雀の酒宴」という神謡のごときは、自叙する主体の神が変わって、雀・鶴・啄木鳥・烏・鷸が登場するが、それに伴なって sakehe も
hanchikiki (雀)、
hantokri wa korōro (鶴)、
esokisokiya (啄木鳥)、
hanchipiya (鷸)
というように変化して面白い。
私の採集したものの中でも例えば、雷神 Kanna-kamui の自叙の神謡 (後述) は、
rittunna, humpakpak
という二つの sakehe を持っているし、
kikaoreu (鳥名、未詳) の自叙になる神謡は、
matateyatenna と horenren
という二つの sakehe を持っている。
Sakehe が変わる場合には、
(1) 途中から主人公が変わるに伴ない変わる場合と、
(2) 同一の主人公でも叙述の内容が変わるのに従って変わる場合
とがある。‥‥‥
知里真志保博士は、sakehe を、
(1) |
その神謡の主人公たる神本来の歌声が折り返しとなっているもの。‥‥‥
この種の神謡にあっては、その折り返しが直ちにその神謡の主人公の何神であるかを推測せしめる。‥‥‥
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(2) |
その神謡の主人公たる神を、一般的に観察した場合、その特徴となるような動作または性質を捕えて、その主人公を象徴的に示すもの。
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(3) |
その説話における主人公の臨時的にとる動作、あるいはその説話の中の状景あるいは事件そのものを象徴的に表わすもの。
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(4) |
叫び・はやし・掛け声の類。
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等と分類を試みられて、例証されている。
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引用文献
- 久保寺逸彦 (1956) :「アイヌ文学序説」, 東京学芸大学研究報告, 第7集別冊, 1956
- 『アイヌの文学』(岩波新書), 岩波書店, 1977
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