- 踏舞
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知里真志保 (1955)
p.31
アイヌの歌謡は古くさかのぼれば踏舞と一体のものであり、その調子も唸りや叫びに近づく。
その唸りは魔を追うためのものであり、叫びは神の関心を呼ぶためのものであった。
しかしそういう叫びや唸りが踏舞のかけ声と共に後には歌謡のはやしとなり、神謡の折返しともなるのである。
英雄詞曲さえも祈詞や会見の辞とほぼ同じ調子でうなられるのであるが、それはまったく上記誦呪の調子を受けついでいると見られるのである。
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- 鶴の舞
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菅江真澄 (1789), pp.585,586
夕暮つかた、わかき女あたま浜辺に群れて、鶴の舞てふことして鶴のかろからと鳴まねをしたるが、まことの鶴のむれ渡りたるにひとしく、せばきアツシの袖をひるがへして、丹頂鶴の翅をひらきたる姿をしつつ、トレエチカフ トレエチカフと、こゝらのメノコ声をそろへて返し返しこれを唄ひ、又羽をふためかすやうに袖をあげ戯れあそぶが、雲間もれ出る月光に浜辺まで見やられて、よくしるし。
ほどなうくもりてやがて雨ふれど、つゆもいとふけぢめも見えず、いよゝうたひ舞にや、くらき海べにトレエチカプの声、雨の声、波の声とともにうちもをやまず、ふして尚聞えたり。
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引用文献
- 菅江真澄 (1791) :『蝦夷迺天布利』
- 『菅江真澄集 第4』(秋田叢書), 秋田叢書刊行会, 1932, pp.493-586.
- 知里真志保 (1955) :『アイヌ文学』(民族教養新書), 元々社, 1955. (復刻版 2011)
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