金田一 京助『アイヌ叙事詩 ユーカラ』(岩波文庫, 1936)
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pp.9,10
文学の起原は、詩だ、散文だ、と喧しく論議せられることであるが、此もアイヌ生活に於て見る限りは、改まった調はすぐに律語に収まり、節附けになって宛然歌の形で表現される。
祝儀・不祝儀の辞令、酋長同志の曾見の挨拶など、そのほか、日々の祈禱の詞もさうであり、炉ばたの昔譚でさへもさう。
況んや神々の長い物語や、祖先の英雄の武勇伝などもみなさうである。
甚しきに至つては裁判事件のやうな騒ぎの論判でさへも雅語で述べられ、吟詠の姿を取るものである。
いはば、実用の談話以外の言語表現は、皆節附きだと云ってよい。
此の事は、意見でも、論議でもなく、ただありのままな目前の事実である。
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