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菅江真澄 (1791)
pp.560,561
ひきものゝ音のやうに近う聞えたるは、なにの音にやとかたぶき聞けど、さらにそれとわいだめなう。
こは、いかなる音なひかといへば、あるじ、シャモは口琵琶といひ、アヰノは是をムクンリといひて、五六寸ばかり網鍼のごとく、竹にて作りたるものなり。
其竹の中を透したる中竹のはしに糸を付て、女ども口にふくみて、左の手に端を持て、右の手してその糸を曳く。
口の内には何事かいふといへり。
外に出てこれを見れば、女子ども磯に立むれ、月にうかれて、こゝかしこに吹すさむ声の、おもしろさいはんかたなし。
この声のうちに、をのがいはまほしき事をいへば、こと人は、そのいらへをも吹つ。
又人しらずひめかくす事などを、この含箑に互に吹通はすとなん。
更るほど、いと多く浪の声とともにしらべあひて、どよみ聞えたり。
‥‥
ふしぬれどムクンリの音、をやみなう聞えぬ。
p.565
p.566
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串原正峯 (1793), p.504
ヘカチ 子ともの事をいふ 又はメノコ 女の事をいふ の戯れにムツクンを鳴らす。
ムツクンの圖、後に出す
此ムツクンを吹鳴すにはモンケンウンといふ糸を左りの手の小指にかけ、下のト゚シといふ糸を右の手の人差指と親指の間に挟、糸を引張て〇印の所を口の邊りに寄、息を吹かけ、糸を左右へ引張たりゆるめたりしてならすに、面白き音色出るなり。
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引用文献
- 菅江真澄 (1791) :『蝦夷迺天布利』
- 『菅江真澄集 第4』(秋田叢書), 秋田叢書刊行会, 1932, pp.493-586.
- 串原正峯 (1793) :『夷諺俗話』
- 高倉新一郎編『日本庶民生活史料集成 第4巻 探検・紀行・地誌 北辺篇』, 三一書房, 1969. pp.485-520.
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