Up 祭りの歌 Upopo 作成: 2019-01-12
更新: 2019-01-12


      久保寺逸彦 (1956), pp.41-43
    日高の沙流川筋の諸部落では、祭り (例えば「熊送り iyomante」・「祖霊供養 shinnurappa」のごとき) の折りなど、部屋の一隅で、婦人たちが集まり、中には子供なども交じえて、円座を作り、座の中央に据えた行器(ほかい) shintoko の蓋などを右掌で叩いて拍子をとりながら、賑やかに歌うものである。
    初めは坐って歌っていても、だんだん仲間に加わる者の数を増し、歌声が盛んになり、興に乗って来ると、やがて起ち上がって、これに合わせて舞踊するものも出て来る。 また、戸外においては、円陣をつくり、手拍子をとりながら、ぐるぐる左回り( アイヌの舞踊は左回りが多い) しながら歌うことも多い。
    胆振地方では、踊りおよび踊りに合わせて歌うものを Rimse と呼び、坐って歌う Upopo と区別し、
    日高・沙流では、坐って歌っても、起って踊りに合わせて歌っても、歌の方を Upopo と呼び、踊りの方は Rimse と呼んで区別している。
    しかるに、北海道の中・東・北部一帯になると、坐って行器の蓋を叩きながら歌う坐歌も、立って踊りに合わせて歌う踊歌も、いずれも Upopo と呼んで区別していない。 強いて区別をする場合には、坐歌を Rok-upopo (坐る歌)とか Kamup-ka-o-rep-upopo (蓋の上で拍子をとるウポポ) と呼び、踊歌を Roshki -upopo (立つウポポ)といって区別する。
    樺太では、坐歌でも、踊歌でも、どちらも Hechiri と称し、特に踊りから独立させて歌のみをいう場合には、Hechir-yukar (踊りの歌)と呼んでいる。
    Upopo には、種々のものが含まれる。
    「酒造り歌 sake-kar-upopo」(釧路地方) ・「杵搗き歌 iyuta-upopo」・「熊祭り歌 iyomante-upopo」・「鯨祭り歌」・「葦刈り歌 moshkar-upopo」・「菱とり歌 i-uk-upopo」・「子守歌 ihumke upopo」等々がある。

      同上, p.45
    Upopo の歌い方には、
    (1) 一群の女たちの中の老練な一人が音頭を取り、他が一斉にこれに応じて歌うもの、
      i-ekai-upopo (それによって曲がる、音頭をとる Upopo)、
    (2) 斉唱するもの、
      uwopuk-upopo (みな一緒に起こる Upopo)、
    (3) 一句ずつ、「尻取り」に輪唱するもの、
      ukouk-upopo (互いに取り合う Upopo)
    の三通りがあるようである。
    ことに、輪唱の場合は、これに加わる人数が多いほど、歌詞も、彼一句これ一句と目まぐるしく変化し、しかも、違った歌詞が、違った曲調で、次から次へと、歌い続けられていくので、行器(ほかい)などを掌で打つトントンという拍子の響きに応じ、人々のどよめきに和して、さながら一大コーラス ‥‥‥

      同上, p.46
    [歌詞のある Upopo]
    (1)
    Chupka wa kamui ran,
    iwa tui-sam,
    o-ran; iwa tui-sam,
    kani-mai ne chi-nu.
    「東の空から神様が天降った、
     丘の傍へ天降った、
     丘の傍に美しい響き (神様の佩刀の金具の音など) が聞こえた。」
    (2)
    Shupki tom kamui tom,
    makun tusa ka o-ran,
    makun tusa ka etone mau a-nu.
    「葦原が光る、美しく光る、
     後の丘へ神様が降りた。
     後の丘で美しい風の音が聞こえた。」
    (3)
    Kani kokka so-rarpa,
    kani kokka so-rari.
    「人々は威儀を正して居ながれている。
     人々は威儀を正して居流れている。」
    (4)
    Kani pon kut-o-shintoko,
    ita-so kashi e-tunun-tunun,
    e-tunun raye.
    「金蒔絵の小さな笹付きの行器を、
     板の間の上にチリンチリシチリンと置いた。」
    (5)
    Kamui oman na,
    okotonki echiu, hoi,
    okotonki echiu.
    「神様がお帰りになった、
     美しい音を立てて、
     美しい音を立てて。」


    引用文献
    • 久保寺逸彦 (1956) :「アイヌ文学序説」, 東京学芸大学研究報告, 第7集別冊, 1956
      • 『アイヌの文学』(岩波新書), 岩波書店, 1977