Up 運上屋の商い勘定──例 : 海鼠漁 作成: 2019-02-07
更新: 2019-02-07


      串原正峯 (1793), p.491,492
    此度宗谷にて二、三里又は五、六里隔たるノツサブ、クツサブ、バツカイベ、ルヱラニ、シルシ等都合六ケ所にて
    船数三百艘餘、
    海鼠引にかゝりたる夷メノコシとも四百人餘なり。
    壹艘平均一日海鼠四百宛引時は、三百艘にて一日に海鼠数十二萬なり。
      [400 × 300 = 120000]
    煎海鼠俵物にして壹本を凡壹萬貳千
      [1本 = 煎海鼠12000]
    として、一日に十本揚るなり。
      [120000 ÷ 12000 = 10]
    五月中旬より引かゝり、尤人數の揃たるは六月初旬なり。
    引仕廻は七月中旬頃に成。
    然る所、當年は風荒吹、雨天續き、漁事果敢((はか))行さりしなり。
    日和((泙))合十日續けば、十日に百本荷物出来る。
      [10 × 10 = 100]
    三十日續て三百本なり。
      [10 × 30 = 300]
    壹本目方皆掛貳拾三貫目つゝに仕立、
      [1本 〜 23貫]
    是を斤に直して百貳拾五斤なり。
      [100斤=16貫 ⇒ 23貫 = (100/16 × 23)斤 =143.75斤 → 125斤]
    いりこは松前へ廻し、松前へ長崎俵物懸りのもの詰合居て、煎海鼠残りなく買上るなり。
    壹斤に付代銭貳百五十文づつ定((値))段なり。
      [1斤 〜 250文]
    右三百本の代銭九千三百七拾五貫文なり。
      [1本 〜 23貫 = 125斤
       ⇒ 三百本 〜 (125 × 300)斤 = 37500斤
        〜 (250 × 37500)文 = 9375000 文 = 9375貫文]
    銭相場兩替六貫文にして、金に直せは千五百六拾貳兩貳分、但長銭遣なり。
      [300本 〜 (9375 ÷ 6)両 = 1562.7両 → 1562両2分]
    蝦夷地交易は米八升入壹俵に煎海鼠五百つゝなり。
      [煎海鼠500 〜 米1俵 = 米8升
       ⇒ 煎海鼠100 〜 米(8 ÷ 5)升 = 米1.6升]

      同上, p.492
    是 [煎海鼠100 〜 米1.6升] も前文に云 [運上屋] いりこ百に付米五盃
      [煎海鼠100 〜 米5盃 = 米1.25升]
    とは餘程直段高下あり。
    小買はいりこ数五百以下の事にて、百に付米五盃づつなり。
    五百のいりこなれば代米八升入壹俵なり。
    尤いりこ、高に應じ夏中より交易の品を追々貸付置、秋になりて差引勘定をする事なり。
    又貸付の外に、現金交易とて産物を持来り直に價の品を引替渡すもあり。
    百に付五盃の割合は、いりこ壹本にては價米八升入拾八俵と六升、此米高壹石五斗なり。
      [煎海鼠100 〜 米5盃 = 米1.25升
       ⇒ 1本 = 煎海鼠12000 〜 米 (1.25 × (12000 ÷ 100)) 升
           = 米150升 = 米1石5斗]
    八升入壹俵に付いりこ五百つゝの割合は、いりこ壹本の價八升入貳拾四俵、此米高壹石九斗貳升なり。
      [煎海鼠500 〜 米1俵 = 米8升
       ⇒ 1本 = 煎海鼠12000 〜 米 ((8 ÷ 500) × 12000) 升
           = 米192升 = 米1石9斗2升]
    煎海鼠百本の高にて米四拾貳石違ふ。
      [100本での差 〜 米(1.92 × 100)石 - 米(1.5 × 100)石 = 米42石]
    三百本の高にては米百貳拾六石遺ふ。
      [300本での差 〜 米(42 × (300÷100))石 = 米126石]
    甚不等なる割合なり。
    前々より此振合にて交易なす事なり。
    小買は夷人の損、運上屋の徳なり。
    いりこ五百となれは運上屋の損、夷の徳なり。
    いりこ四百五十と五百と、いりこ五十の遣にて直段大に違ふ。
    夫に不心付交易をいたすも、中には心附たる夷も有なり。
    いりこ交易現金賣の節もはしたに持来らず、五百につばめて交易をなす夷も有なり。

      同上, p.492
    右のことく八升入壹俵にいりこ五百の割合にて、いりこ三百本の交易代米五百七拾六石、
      [煎海鼠500 〜 米1俵 = 米8升
       ⇒ 1本 〜 米1.92石
       ⇒ 300本 〜 米(1.92 × 300)石 = 米576石]
    米相場兩に石替にして則代金五百七拾六兩。
      [米1石 〜 1両
       ⇒ 300本 〜 米576石 〜 576両]
    扨、舟賃の事は宗谷より松前まで運賃は舟積百石目に付金十六兩貳分づつにて、
      [100石目 〜 16両2分]
    煎海鼠三百本は船積石高百七拾貳石五斗目なり。
      [300本 〜 172.5石目]
    是は目方四十貫を壹石とする算法なり。
    三百本の運賃金貳拾八兩永四百六拾貳文五分、
      [300本 〜 172.5石目
       〜 (16/100 × 172.5)両 (2/100 × 172.5)分
          = 27.6両 3.45分 → 28両永462文5分]
    いりこ交易金高 [300本 〜 576両] と合て金六百四兩永四百六拾貳文五分、
      [576両 + 28両永462文5分 = 604両永462文5分]
    いりこ賣拂代金千七百貳拾五兩
    の内右交易金高を引残て金千百貳拾兩永五百三拾七文五分
      [1725両 - 604両永462文5分 = 1120両永537文5分]
    全益なれとも、右交易元金の外に雇人給分、飯米、夷介抱米、米、麹等相懸る事なり。


    引用文献
    • 串原正峯 (1793) :『夷諺俗話』
      • 高倉新一郎編『日本庶民生活史料集成 第4巻 探検・紀行・地誌 北辺篇』, 三一書房, 1969. pp.485-520.