Up 鮭漁 作成: 2019-02-28
更新: 2019-02-28


      平秩東作 (1783), p.427
    鮭は八月の頃、川々へ登るを捕て大船へ直に鹽漬にす。
    鹽引、鹽辛、楚割、荒巻、筋子、子籠などさまざま品あり。
    わけてイシカリ川といふ川、此地第一の大川にて、千石船二、三里が間は滞りなく馳せ込といへり。
    蝦夷人共、網をおろし、捕たる鮭を代物にかへ、直に船へ積込諸国へ廻すを秋味といふ。はかゆくを専らとする故、肉もろく、臭みなど出るものあり。風味大におとりたり。
    蝦夷地にても松前にでも、食料につくりたる鹽引、越後、奥州より出たる鹽引より風味すぐれ、わけて筋子などは、蝦夷地より出たるもの味至て美なり。
    毎年秋になれば、川ある所はことごとく鮭のぼる。
    枝川などありても傳ひのぼりて、のちは水なき所までのぼりて子をなす。
     ‥‥‥
    小川なども打鉤 [アイヌ語 : マレック] にかけて引上るに、三、四百づゝ捕るといふ。
    大川におろす網はいやがうへにおろせども、魚かゝらずといふ事なし。
     ‥‥‥
    鮭、二十頭を一束として、例年二百萬束 [=4千万匹] ほど捕るといへり。
    價やすき時は、松前、江差邊にて、一頭にて鳥目 [(ぜに)] 二、三十文にひさく事あり。
    先年至てやすき事あり。 草鞋(わらじ)一足に魚一つを替しといふ。
    蝦夷地にて交易するは、此定にあらず。
    定たる直段もなし。
    蝦夷人、船に積来りて、取かへくれよとせがむ。
    船あまたなれば、しばらく待べきよしをいへども、聞入ず、我先にとりかへん事をのぞむゆへ、此方のもの煩らはしがりて、此鮭はあしきといへば、たゞちに其船をうちかへし、鮭を川へすてゝまた(ほか)のさけを積来る。
    價のやすき事、是にておしはかるべし
    すてたる鮭を後にとり上て木の枝へかけほしたるもの、乾鮭なり。


    引用文献
    • 平秩東作 (1783) :『東遊記』
      • 高倉新一郎編『日本庶民生活史料集成 第4巻』(探検・紀行・地誌. 北辺篇), 三一書房, 1969. pp.415-437.