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小川隆吉 (2015), pp.68,69
そのころだ。
アイヌを北海道観光の材料に使うのがはやっていた。
仲間が見せ物にされているのががまんできない気持ちでいた。
早苗は、観光は仕事にしている人もいるんだから、あんた構うんでないと言っていた。
羊ケ丘の展望台に登別の業者が売店を出していて、その地下の六畳くらいの部屋にアイヌの婆ちゃんが一人ぼっち座らせられていた。
まわりにアイヌの着物がいっぱい下がっていて、観光客にそれを着せて一緒に写真を撮っていた。
写真屋が一枚なんぼと売る。
その婆ちゃんは口に入れ墨が入っていて、一階の売店に出てくるときはマスクをして出てくるんだ。
俺はがまんできなくて、写真屋に向かって「これ以上続けるなら文書をもって抗議に来る」と言ったんだ。
写真屋は土下座して謝った。
婆ちゃんは仕事をなくした。
全く早まったことをした。
札幌支部長やって、企業組合も立ち上げて、のぼせてたんだ。
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引用文献
- 小川隆吉 (2015) : 瀧澤正[構成]『おれのウチャシクマ──あるアイヌの戦後史』, 寿郎社, 2015.
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