Up "アイヌ" には,ホンモノもニセモノもない 作成: 2020-02-11
更新: 2020-02-11


    ひとは,アイヌ観光に登場してくる「アイヌ」を,ホンモノのアイヌであると思う。
    事実は,その「アイヌ」は "アイヌ" (「アイヌ」を自称する者) であって,アイヌ (アイヌ文化を生きる者──これは終焉した) ではない。

    さらに,"アイヌ" には,ホンモノもニセモノもない。
    どういうことか?

    "アイヌ" の「アイヌ」自称は,「自分はアイヌの子孫」と言っていることになる。
    自分はアイヌの子孫」の意味は,「自分の先祖のうちに,アイヌが少なくとも一人いる」である。 ──先祖のなかにアイヌが何人いるかは,"アイヌ" の間で競うものにはならないからである。

    ところで,「自分の先祖のうちに,アイヌが少なくとも一人いる」は,だれにも可能性のあることである。
    どういうことか?

    自分の先祖を溯行してみる。
    自分の父母,その父母それぞれの父母,その父母それぞれの父母,‥‥。
    n代溯ったときの先祖の総数は: \[ \ \ \ \ \sum_{i=1}^n 2 \ (2^{i - 1}) = \frac{2 \ (2^{n} - 1)}{2 - 1} = 2 \ (2^{n} - 1) \] これがどんな数かというと:
      10代溯ったときは, 2 (1024 - 1 ) = 2046
      20代溯ったときは,2 (1048576 - 1) = 2157150

    もちろん,実際にはこんな感じで先祖の数が増えるわけではない。
    この計算には,<一人が重複して数えられている>が含まれている。
    しかし重複カウントがあることを踏まえても,先祖の拡散がすさまじいものになりそうだということはわかる。

    この「先祖拡散」に,アイヌの移動・「混血」を重ねて考えてみる。
    例えば,「東北アイヌ」を考えてみる。( 東北アイヌ)
    これの子孫 (即ち,自分の先祖のうちに少なくとも一人東北アイヌがいる者) は,地勢上,全国に拡散していることになる。
    そして,東北アイヌの始まりが古いほど,子孫の全国拡散は大きなものになる。

    著しくは,東北アイヌが『続日本紀』に出てくる「蝦夷(エミシ)」( 『続日本紀』) のようなのと一部重なるかも,という場合である。
    このタイムスケールだと,自分の先祖溯行の計算は,
      30代溯ったときは,2 (1073741824 - 1 ) = 2147483646 - (重複カウント)
      40代溯ったときは,2 (1099511627776 - 1) = 2199023255550 - (重複カウント)
    にまで及ぼすことになる。

    こんな計算になるわけであるから,「自分の先祖のうちに,アイヌが少なくとも一人いる」はだれにも可能性のあることになる。
    よって,「自分の先祖のうちに,アイヌが少なくとも一人いる」は,言ってもしようがないものになる。
    だれが "アイヌ" を振る舞っても,ホンモノもニセモノもないわけである。