Up アイヌ料理は,保存食材が使われる 作成: 2019-01-28
更新: 2019-02-07


      串原正峯 (1793), p.496
    右獲たる所の魚を海水を以て煮て食す。
    貯置には干魚となして圍ひ置なり
    秋より冬は海上荒て漁獵なりがたき故、夏中飯糧になす草を取て貯置なり
    取たる時直にも食す。
    これも汐水にて煮て食するなり。
    右草飯糧に貯ゆるには、能干て臼にて搗はたきて、糟をはかためて餅となし、粉をば水干して葛のことく製し貯置なり
    食するには是を丸め、魚油にて煮て食す。
    又は湯煮にしても喰ふ事なり。

      松浦武四郎 (1858), p.628
    余はクツタラより山越なしてヌツケへツえ出たり。
    此川惣て魚類少し。
    (あめ)・チライ・桃花魚(うぐい)雑喉(ざこ)は有。
    鮭は甚まれなり。
    依て老婆、女の子等は畑作を以て生活す。
    粟・稗・大根・蕪・呱吧芋・隠元・てなし小豆・大豆また芥子を作りしを見たり。
    南瓜・胡瓜は頗るよく出来ぬと語りたり。
    また山草原にして蕎麦葉貝母(うばゆり)わけで多し。
    此地の(なかば)喰料にも(あて)るよし也。

      高倉新一郎 (1974 ), p.42
    アイヌは漁猟を主とし、
    南部の比較的暖かい地方、石狩から日高地方にかけては、きわめて粗放な農業を営んでいて、
    手に入るものを食べていた。
    それでも、主なものは
      春に産卵のために大群をなして海岸に寄せてくるにしん、
      夏に川をさかのぼってくるます類、
      秋に産卵のために川をさかのぼる鮭、
      冬の猟の対象である鹿
    などであり、それに
      とど・あぎらしなどの海獣
    が加えられていた。

      高倉新一郎 (1974 ), p.47
    アイヌは、冬季または携帯用に、魚肉・獣肉を細くさいて大量にたくわえた。
    干しにしん・身欠きにしんなどと同じである。
    アイヌは乾燥以外には、たとえば塩蔵法などは知らなかった。
    山菜も乾燥させてたくわえたが、
    うばゆり・くろゆりなどの根の澱粉をとってたくわえた。


    狩猟採集は,収獲/収穫に波がある。
    収獲/収穫したものは,保存される。
    一度に食べられないということもあるが,主は収獲/収穫の無いときの食べ物にするためである 。

    また,山野の植物は,「野菜」とは違う。
    食害する動物に対する防衛から,毒をもっている。
    食べるためには,毒抜き (「アク抜き」) の処理をしなければならない。

    かくして,アイヌ料理は,基本的に保存食材の料理である。
    狩猟採集生活に対し「新鮮な食材」を想うのは勘違いである。
    実際, 「新鮮な食材」は,むしろ現代人の特権である。──スーパーには生産者から届いて間もない食材が並んでいる。


    引用文献
    • 串原正峯 (1793) :『夷諺俗話』
      • 高倉新一郎編『日本庶民生活史料集成 第4巻 探検・紀行・地誌 北辺篇』, 三一書房, 1969. pp.485-520.
    • 松浦武四郎 (1858) :『戊午東西蝦夷山川地理取調日誌』「戊午第三十八巻 東部 茂無辺都誌 全」
      • 高倉新一郎[校訂], 秋葉実[解読]『戊午東西蝦夷山川地理取調日誌 中巻』, 北海道出版企画センター, 1985, pp.609-634.
    • 高倉新一郎 (1974 ) : 『日本の民俗 1北海道』, 第一法規出版社, 1974