(1) 賠償 (「ツクノイ」)
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村上島之允 (1809), p.631
ツクノイといへるは、とりもなをさず償ふの義にて、前に記せるが如く、罪を犯したる事あれば其あやまりの證として寶器を出さしめ、其罪を償はするなり。
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(2) 棍棒の打ち合いで白黒をつける (「ウカル」)
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村上島之允 (1800), p.45
扨、宝を出さすして、ウカリせんと云時ハ、双方親族あつまり、先罪を犯したる者を槌にて三度打、次に相手の者も打、たかひに打れて安全なれハ、ツクノヒに及ハす。
其強弱によりて只一打にて轉死する者あり。
又、半死の病者となるもあり。
浮身練達の者ハ幾度打るゝとも安然たり。
此故に平生稽古怠慢なく勤る也。
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村上島之允 (1809), 「八 (ウカルの部)」
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(3) 弁舌で白黒をつける (「チャランケ」)
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久保寺逸彦 (1956), pp.7,8
「談判 (Charanke) の詞」なども、おのおの部落 kotan を代表する雄弁をもって鳴る者が、相対して、落ち着き払って、さながら謡曲を謡い、浪曲でも語るように、太く重々しい声調で吟詠して、一句一句、婉曲に、相手の非を責めていくものである。
しかも驚くべきことには、徹頭徹尾、神話や故事の知識を背景として、美辞と麗句の応酬が幾時間も、あるいは夜を徹しても、時としては数日にわたっても続けられていくことである。
かくして、ついに理屈につまるか、あるいは気力の上で相手から圧倒されてしまうか、体力的に疲労しつくした方が敗けとなり、勝った相手の要求するだけの賠償 ashimpe を取られて鳧がつくので、いわば、一種の歌の掛け合いとも見られるものである。 ‥‥‥
[狩猟域 iwor のことで談判する中の一節]
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Shine metot
e-we-turashp
a-usamomare
a-kor pet ne yakun
shine hapo
uren toto
e-shukup utar
korachi anpe
a-ne wa shir-an.
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同じき水源の山へ
川伝ひに溯り行き
相並び合ふ
我等が川なれば
同じ慈母の
両つの乳房
もて育ちたふ
さながらの
我等にあらずや。
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(4) 刑罰
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村上島之允 (1809), p.631
イトラスケといふは、イトは鼻をいひ、ラスケは截るをいひて、鼻を截るといふ事也。
是は不義に女を犯したる者を刑する也。
凡夷人の境、風俗純朴なるによりて、盗賊とふの事もすくなく、まして人を殺害する事などは稀成ゆへ、刑の用ひかたも多からず。是にいふ鼻を截るが如きは至極の重罪となす也。
サイモンといへるは此語の解未だ詳ならず、其用ひかたは、たとへば罪を犯したる者ありて、鞠訊を盡すといへどもあへて其罪に伏せざる時、熱湯をまうけ、それに手を入させて其虚實を糺す也。
古史に見へたる武内宿禰の行ひし探湯の法などいはんが如し。
此刑を行ふ事、多くは女子の上に有事なり。
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引用文献
- 村上島之允 (1800) :『蝦夷島奇観』
- 佐々木利和, 谷沢尚一 [注記,解説]『蝦夷島奇観』, 雄峰社, 1982
- 村上島之允 (1809) :『蝦夷生計図説』
- 久保寺逸彦 (1956) :「アイヌ文学序説」, 東京学芸大学研究報告, 第7集別冊, 1956
- 『アイヌの文学』(岩波新書), 岩波書店, 1977
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