Up 教育 作成: 2016-12-02
更新: 2017-01-29


      Bird, Isabella (1880), p.108
    子供には、ひたすら従順で、従順であることを喜びとするよう幼い時から求められる。
    またごく小さな頃から物をとってきたり運んだり、使い走りをさせられる。
    私は二歳にもなっていないような子供たちが(たきぎ)を取りにやらされるのを見てきた。
    こんな歳でもう礼儀作法を守るよう実にきちんとしつけられているので、やっと歩けるようになった赤ん坊でさえ、家からよちよちと出ていく際に、家の中にいる母親以外のすべての大人にきちんと挨拶していくし、家に入ってくる時にも同様にきちんと挨拶する。


      武隈徳三郎 (1918), pp.366,367
     アイヌは、其の児童を教訓(教育)するは、
      神を敬ふこと、
      両親に従順なること、
      目上の者を尊重すること、
      老人を敬畏すること、
      人の問はざるに自ら語り出でざること、
      目上の者その談話に容喙(ようかい)すべからざること
      等
    を以てす。
    而して男子には殊に
      漁猟する法、
      弓矢及び罠を造る法、
      獣類の往来に伏矢する事より、
      山川の名称、方向、通路の順
      等
    を教へ、然る後に、
      矢に用ふる毒の調製法、
      諸器物の製作法、
      彫刻の法
      等
    を教へ、最終に
      信仰する諸の神の名、
      祈祷に用ゆるイナヲ(幣)の作り方、
      祈祷文、
      儀式に於ける挨拶及び其の順序、
      古代よりの伝説
      等
    を会得せしむ。
    女子には
      木皮を採りアツシを織る法、
      刺繍の法、
      料理の法より、
      子を育つる法、
      文身の技術、
      種々の舞踏、
      死人の為めの泣突の仕方、
      男子に対する礼儀
    に至るまで之れを教へ、殊に其の最も重要なるは、男子を尊敬し、待遇することゝす。
    即ち
      用事ありても、男子の発言せざる中は決して発言せざること、
      男子に行逢ふ時は道を譲ること、
      夫は勿論、すべて男子 (下男即ちウツシユは例外) の名を呼ばず、
       之れに代ふるに適当なる語を見出して使用すること、
      他家を辞し出るときは必ず却歩(あとずさり)すること
      等
    なり。
     右に依れば、男子は絶対的権力を与へられしものゝ如しと難も、之れが為め、男子は婦女子を侮蔑するが知きこと無く、殊に老婦人を厚く尊敬することは誠にゆかしく思はるゝなり。
     アイヌは、他地方人との関係につき、子弟を教育するに、
      他地方の人を優遇すること、
      之れに会ひたるときは鄭重なる言語にて挨拶すべきこと、
      之れと共に酒宴を開き神に析を捧ぐる儀式の心得
      等
    を以てす。
    此の場合に於て先方の風習儀式を充分に知るは必要なりと雄も、自村の儀式に精通せずして、先方の注意を受くる様の事ありては、其の者自身の恥たるのみならず、実に其の部落の不名誉なるを以て先づ自村の風習を教へ、次に他村の事に及ぶなり。
     家庭教育は右の如くにして、決して悪しゝと言ふにあらざれども、惜むらくは狭きアイヌの区域に止りて、広く社会に亙らざるなり。
    且つ家庭には種々不良なる事ありて、不良なる感化を子弟に与ふるの憂あり。


    引用文献
    • Bird, Isabella (1880) : Unbeaten Tracks in Japan.
        金坂清則 訳注 『完訳 日本奥地紀行3 (北海道・アイヌの世界)』, 平凡社, 2012.
    • 武隈徳三郎 (1918) :『アイヌ物語』, 富貴堂書房, 1918.
        所収 :『アイヌ民族 近代の記録』, 草風館, 1998. pp.351-372.