Up 『北海道旧土人保護法』(1899) 作成: 2017-01-16
更新: 2017-01-16


    北海道旧土人保護法案理由書
    北海道舊土人ノ保護ニ關シテハ 一視同仁ノ叡旨ヲ奉シ 明治初年ヨリ之カ方法ヲ講シタリト雖 未タ十分ニ其目的ヲ達スルニ至ラス
    蓋シ 舊土人ノ皇化ニ浴スル日尚淺ク 其知識ノ啓發頗ル低度ナリトス
    是ヲ以テ 古來恃テ以テ其生命ヲ托セル自然ノ利澤ハ 漸次内地移民ノ爲ニ占領セラレ 日ニ月ニ其活路ヲ失ヒ 空シク凍餒(とうたい)ヲ待ツノ外爲ス所無キノ觀アリ
    是レ蓋シ 所謂優勝劣敗ノ理勢ニシテ 復タ之ヲ如何トモスル能ハサル歟
    然リト雖 彼亦均ク我皇ノ赤子ナリ
    而シテ 今ヤ斯ノ如キノ悲境ニ沈淪セルヲ目撃シテ之ヲ顧サルハ 亦忍フ可キニ非サルナリ
    則チ 之ガ救濟ノ方法ヲ設ケ 其災厄ヲ除キ 其窮乏ヲ(あわれ)ミ 以テ之ヲシテ適當ノ産業ニ依リ其ノ生ヲ保チ 其家ヲ成スヲ得セシムルハ (まこと)ニ國家ノ義務ニシテ 一視同仁ノ叡旨ニ副フ所以ナリト信ズ
    是レ本案ヲ提出スル所以ナリ



    朕帝國議會ノ協贊ヲ經タル北海道舊土人保護法ヲ裁可シ茲ニ之ヲ公布セシム

    御名御璽

    明治三十二年三月一日

    內閣總理大臣侯爵 山縣有朋

    內 務 大 臣 侯爵 西鄕從道

    法律第二十七號(官報 三月二日)

    北海道舊土人保護法

    第一條 北海道舊土人ニシテ農業ニ從事スル者又ハ從事セムト欲スル者ニハ一戶ニ付土地一萬五千坪以內ヲ限リ無償下付スルコトヲ得

    第二條 前條ニ依リ下付シタル土地ノ所有權ハ左ノ制限ニ從フヘキモノトス

    相續ニ依ルノ外讓渡スコトヲ得ス
    質權抵當地上權又ハ永小作權ヲ設定スルコトヲ得ス
    北海道廳長官ノ許可ヲ得ルニ非サレハ地役權ヲ設定スルコトヲ得ス
    留置權先取特權ノ目的トナルコトナシ

    前條ニ依リ下付シタル土地ハ下付ノ年ヨリ起算シテ三十箇年ノ後ニ非サレハ地租及地方稅ヲ課セス又登錄稅ヲ徵收セス

    舊土人ニ於テ從前ヨリ所有シタル土地ハ北海道廳長官ノ許可ヲ得ルニ非サレハ相續ニ因ルノ外之ヲ讓渡シ又ハ第一項第二及第三ニ揭ケタル物權ヲ設定スルコトヲ得ス

    第三條 第一條ニ依リ下付シタル土地ニシテ其ノ下付ノ年ヨリ起算シ十五箇年ヲ經ルモ尚開墾セサル部分ハ之ヲ沒收ス

    第四條 北海道舊土人ニシテ貧困ナル者ニハ農具及種子ヲ給スルコトヲ得

    第五條 北海道舊土人ニシテ疾病ニ罹リ自費治療スルコト能ハサル者ニハ藥價ヲ給スルコトヲ得

    第六條 北海道舊土人ニシテ疾病、不具、老衰又ハ幼少ノ爲自活スルコト能ハサル者ハ從來ノ成規ニ依リ救助スルノ外仍之ヲ救助シ救助中死亡シタルトキハ埋葬料ヲ給スルコトヲ得

    第七條 北海道舊土人ノ貧困ナル者ノ子弟ニシテ就學スル者ニハ授業料ヲ給スルコトヲ得

    第八條 第四條乃至第七條ニ要スル費用ハ北海道舊土人共有財產ノ收益ヲ以テ之ニ充ツ若シ不足アルトキハ國庫ヨリ之ヲ支出ス

    第九條 北海道舊土人ノ部落ヲ爲シタル場所ニハ國庫ノ費用ヲ以テ小學校ヲ設クルコトヲ得

    第十條 北海道廳長官ハ北海道舊土人共有財產ヲ管理スルコトヲ得

    北海道廳長官ハ內務大臣ノ認可ヲ經テ共有者ノ利益ノ爲ニ共有財產ノ處分ヲ爲シ又必要ト認ムルトキハ其ノ分割ヲ拒ムコトヲ得

    北海道廳長官ノ管理スル共有財產ハ北海道廳長官之ヲ指定ス

    第十一條 北海道廳長官ハ北海道舊土人保護ニ關シテ警察令ヲ發シ之ニ二圓以上二十五圓以下ノ罰金若ハ十一日以上二十五日以下ノ禁錮ノ罰則ヲ附スルコトヲ得

    附則

    第十二條 此ノ法律ハ明治三十二年四月一日ヨリ施行ス

    第十三條 此ノ法律ノ施行ニ關スル細則ハ內務大臣之ヲ定ム