集団は,出自・系統が雑多な者で構成される。
集団の言語の契機はいろいろだが,<員の出自・系統が雑多>もその一つである。
よって,他の言語に<似た語彙>を捜せば,様々な言語が挙がることになる。
また,進化生物学で謂う「収斂進化」も,考慮点になる。
《言語が機能的であるためには,形式は自ずと限られてくる》を考えることになるわけである。
実際,他の言語に<似た構文法>を捜せば,様々な言語が挙がることになる。
かくして,方角も真逆な複数地域の言語が,それぞれ「アイヌ語の系統」として挙げられることになる:
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村山七郎 (1992
p.38
1968 年8月, 金田一京助先生をご自宅に訪れたことがある。その
時,次のように述べられた。
「私はアイヌがシベリアのずっと西の方から東進して黒龍江下流に到り, 今の河口近くでカラフトに渡り, 次いで南下して北海道に達したと思う。」
この見解は, 先生の『アイヌ語研究.1 (三省堂1960年,p.267 以下) にも出ているが, そこから部分的に引用して見る。
「‥‥‥ 数詞から観たアイヌ民族は‥‥‥近隣の他の民族とは類似点を見出さない。」
アイヌ語の20進法 (vigesimal system) は南洋のメラネシアのなかに類似者を見出す。しかし, メラネシアでは十以下の数には5進法 (quinar y system) をとるが, アイヌはそうではないから, メラネシア語とは異なると先生は見る。
しかし, ‥‥‥
pp.40,41
金田一京助につづいて知里真志保もアイヌ語を北方系と考えていた。‥‥‥
前述のように, 金田ーはアイヌの祖先が黒龍江河口からカラフトに渡来し, 更に北海道に南下したと見ていたのに対し, 知里真志保はカムチャツカ半島の方から千島列島を南下して北海道に渡来したのであろうと見た。‥‥‥
いま, アイヌがカムチャツカ方面から千島を通って南下したという説について検討して見たい。
‥‥‥
pp.43,44
アイヌ語の比較研究にとっても重要な資料を多く含むADDの編者・服部四郎氏はアイヌ語とアルタイ系言語との語彙関係について,ADD p.27, p.28に,簡単に次のように述べている。
「‥‥‥ 永い間隣り合っていたアイヌ語と日本語との間には,借用関係の蓋然性も十分考慮に入れなければならないけれども,実在する形式 (派生形式) が互いに異なり語根が一致している点を見ると, 親族関係に起因する類似である蓋然性も十分考慮に入れておかなければならない。‥‥‥ 」
p.45
私は三氏とは反対に, アイヌ語とAN [オーストロネシア語] 系言語との深い結び付きに注意を向けた。
私は Gjerdman 及び Sternberg のアイヌ語系統説が大体において正しいと見る。
アイヌ語は, AN系の中で, メラネシア諸語及びニューギニア島の北海岸, 東部及びそれに接する島々に行われる Capell (1969年) の言うAN1 と関係が深いように思われる。
台湾及ぴフィリピンの諸言語とアイヌ語との関係も深いようであり,今後究明されるべきであると考える。
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引用文献
- 村山七郎 (1992) :『アイヌ語の起源』, 三一書房, 1992.
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