Up 「アイヌの血」 作成: 2019-10-30
更新: 2019-10-30


    ひとは,「血筋」のことばに,「血のバトンリレー」のイメージをもつ。
    そこで,つぎの二つを同義に思う:
      「先祖にアイヌがいる」
      「アイヌの血が流れている」
    しかし,そうはならない。


    「血筋」の「血」は,いまの科学のことばで言えば,遺伝子 (DNA) である。
    子への遺伝子リレーは,染色体リレー。
    ヒトの染色体は 23 対,46本。
    親から子には,父の23本と母の23本が継がれる。

    さて,アイヌAの「血筋」はどんなふうになるか。
    Aの子どもBは,Aの染色体 23本を継ぐ。
    Bの子どもCは,Bの染色体 23本を継ぐ。
    この23本のうちAの染色体であるものは,確率的に半分,即ち 11本か12本。
    同様に,Cの子どもDは,Aの染色体が5本か6本。
    Dの子どもEは,Aの染色体が2本か3本。
    Eの子どもFは,Aの染色体が1本か2本。
    Fの子どもGは,Aの染色体が0本か1本。
    こうして,6代より下になると,Aの遺伝子をまったく継がない者がほとんどになる。

    したがってアイヌ終焉後では,アイヌの血は,アイヌの血がまだ濃い者同士による子づくりによってかろうじて保たれるというものになる。
    しかしこんなことはあり得ない。

    「先祖にアイヌがいる」と「アイヌの血が流れている」は同義ではない。
    現在「アイヌの血」と言えるほどのものを保持しているアイヌ系統者は,ごく少数ということになる。
    そしてそのような者も,じき無くなる。