Up 門別川を溯り,貫気別に入る 作成: 2018-12-18
更新: 2019-01-27


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      松浦武四郎 (1858), p.611
    モンへツはサル会所(より)弐丁に有る河にして、幅廿五間、深さはしらず。
    此処川巾狭くして遅流なるが故に深さは凡三尋位も有りと。
    其橋より海に達する哉三丁也。
    板橋を架てわたす。
    モンへツは訳して遅流の事也。
    此川口遅流なる故に号る也。


      松浦武四郎 (1870), pp.130-132
    △六月廿八日 (安政三〔五〕戊午)。
    會所案内土人五名 (ホロサル村リキナシコロ、シユムンコツ村トレアン、ロレタリ、イナヲラン、アムキリ) を雇て出立し、
    モンベツ〔門別〕川筋を上るに、
    山根(かけひ)(かけ)て會所の水を曳たり。
    此處新畑多し。
    山に入リ
    イメンシユイ(土人小屋七八軒)、
    向にヲヒシヨマコツ(モシベツ西岸)、
    ライキヲマナイ(右小川)
    平山南向暖地也。
    ブンカルシコツ(右山)、トサツナイ(右川)、向にサラハヲマ(左川)、
    トイチウシナイ(同)
    (ここ)に穴居跡多し。
    考に往古は餘程土人の住せしと思はる也。
    惣て川筋屈曲する故本川を見る事なく、山の半腹を行くこと也。
    ホンユクチセナイ(従イトシナイ山越也) 山合に畑有、粟・稗よく出来たり(人家二軒)。
    クヲナイ(同人家一軒)。
    山に上るや、山椒(さんしょ)の大木一面に有、實に奇と言ベし。
    向はシイチカフンナイ(左川)、ルウエンを上る事しばし(凡廿丁)、峠に至り下る(十餘丁)。
    モベツ(川東、人家十二一軒) 村中にワツカクナイ(右川)、向にヲサツナイ(左川)、モヘシユイ(右川)、テホマナイ(同)、アシカリベツ(右川)、此源はハイ山より来ると。
    又マウニウシ(左)、フツホウシ(左)、イヨシルイカ( 右川)、此源にヲニウシと云高山有て、ハイと向背する由。
    ラウネナイ (右川)
    此處山の平に大岩有,年々小石を孕み出すと,是子持石なる哉。
    サヌシベ(左)、ヲタツコムシベ(右)、チベシナイ(左川)、
    キラウシナイ(右川)
    鹿角多く落て有 義也。
    故は此處に獨活(うど)多く有、鹿好て是を喰ふ故也と。
    必ず是を喰と角忽に落る由也。
    ナエー(右川)、ヲフチフミフ(左川)、チヤシ(右城跡)、
    クツタラ(左川)
    名義、虎杖(いたどり)益母草(ははぐりそう)鍬形草(くわがたそう)の類多き故也 (人家六軒)。
    爰をニナツミ村と言り。
    此村サルブツ〔佐瑠太〕のニナツミより獵の便利故、移り来りし故に如(なづく)と也。
    漸々晡タ(ゆうがた)首長シユクフクリの家に着す。
    此邊未だ谷々雪深し。
    今日の里数凡八里といへり。
    山陰の 雪間の千種(ちぐさ) 咲そめて 此里人も 夏をしるらむ
    扨本川は雑木愈陰森、兩山高(そび)へ、
    少にてアトナイ(左川)、ヒンネ(同)、バンケコロ(右川)、
    ベンケコロ(同)、
    此邊大石簇々(ぞくぞく)、種々の奇石を出と。
    兩岸絶壁也。
    左ホリカモベツ、右シノマンモベツ、其源ヌツケベツ〔貫氣別川〕とアツベツ〔厚別川〕の間に入り、山皆青木也。
    廿八〔九〕日。
    霧雨杳靄とし鬚髪を濕し、恰も白毛の如し。
    山中蝮蛇(マムシ)を見る事度々、然に蛇(へび)を見ず。
    寒地には長虫は無と思ふに、北地の白主(しらぬし)又蝮蛇多し。
    其性蛇と(マムシ)と異るの甚敷を覺ふ。
    乙名シユクフクリを先導とし出立。
    マカウシ(左小川)、ホロケウ(左小川) 過て二股、此處右モクツタラ、左り本川。
    是を上り(一里)、マサラマゝ(左川)より木根に取附、辛うじて晝頃峠に到り、左を顧ればヌツケベツ〔貫氣別〕村眼下に蜿轉(えんてん)としたり。


    引用文献
    • 松浦武四郎 (1858) :『戊午東西蝦夷山川地理取調日誌』「戊午第三十八巻 東部 茂無辺都誌 全」
      • 高倉新一郎[校訂], 秋葉実[解読]『戊午東西蝦夷山川地理取調日誌 中巻』, 北海道出版企画センター, 1985, pp.609-634.
    • 松浦武四郎 (1859) :『東西蝦夷山川地理取調図』
    • 松浦武四郎 (1870) :『東蝦夷日誌』「沙流領」
      • 吉田常吉[編]『蝦夷日誌 上 東蝦夷日誌』, 時事通信社, 1984, pp.127-141.
    • 扇谷昌康, 島田健一 (1988) :『沙流郡のアイヌ語地名I』,北海道出版企画センター, 1988