知里真志保は,『平凡社 世界大百科事典』(1955年初版) の「アイヌ」の項目で,「アイヌはすでに滅びた」を書いた。
民族派"アイヌ" は,平凡社に抗議し,記述の変更を迫る。
平凡社は,2007年改訂新版で,この抗議に応える。
平凡社は,自社HPの「平凡社 改訂新版 世界大百科事典 平凡の友」で,この事情を佐藤優に語らせている:
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佐藤優「『改訂新版 世界大百科事典』について」(『月刊 百科』No.543, 2008)
平凡社HP「平凡社 改訂新版 世界大百科事典 平凡の友」
http://www.heibonnotomo.jp/goods+index.id+2.htm
また、アイヌに関する記述が全面的に改訂されている。
先住民族の地位が国際的に強化されていることを踏まえ、知里真志保氏の
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民族としてのアイヌはすでに滅びたといってよく、厳密にいうならば、彼らは、もはやアイヌではなく、せいぜいアイヌ系日本人とでも称すべきものである」
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という記述を抜本的に改めている。
児島恭子氏執筆のアイヌに関する冒頭は次のようになっている。
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日本の先住民族。アイヌとは、アイヌ語で神に対する人間・男を意味し、男性への敬称にもなる言葉である。一六世紀末に来日したポルトガル人宣教師の記録をはじめ、その後の日本人による文献にも、自らをアイノと呼び、居住地をアイノモショリ(アイヌモシリ)といっていたことが書かれているが、民族名称となったといえるのは近代以降のことである。〉
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日本政府は未だにアイヌを先住民族と認めていないが、『改訂新版 世界大百科事典』に、現下の学術の進捗と、先住民族に関する国際社会の標準的認識が記されたことによって、この記述が常識として定着していくことになろう。日本政府が正しい方向に政策を変更するために重要な役割を果たすと思う。
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また,斎藤文夫 (平凡社取締役・平凡社事典制作センター社長) のつぎの言がある:
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斎藤文雄「世界大百科事典を改訂するまで」
東京都図書館協会報, No.89, 2009. pp.1-5.
pp.1,2
「アイヌ問題」の記述に関して、問題も起こりました。
2004 年にクレームを受けたのです。
差別を助長するような記述をほっておくのか、というような趣旨でした。
1984 年版のアイヌに関する記述は、ご自身アイヌ出身で、大学の先生をしていた知里先生に記述していただいた部分なので、決して差別意識があったわけではないのですが、2007 年に国連で「先住民の権利宣言」が採択されたのを受け、今月、国会でもアイヌ民族を先住民族と認める決議が衆参両院で採択されました。
このように、アイヌ民族に対する社会の位置づけや、評価が転換し、そのままでは、偏見や差別を助長するような事態になったというわけです。
この時代の価値観の変化にどのように対処すべきかということが、早急に迫られた、というわけです。
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趣旨は,「時勢に従った」である。
更科源蔵の『アイヌ民族誌』(第一法規出版),河野本道の『アイヌ史資料集』(北海道出版企画センター) もそうであったように,民族派"アイヌ" は出版元や雇用主に攻撃をかける。
企業は,勢いに従うのみだからである。──企業は,商いである。
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