知里真志保 : 平凡社『世界大百科事典』第二版, 1955,「アイヌ」の項
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【総説】
東アジアの古種族の一つ.
アイヌとはく人〉の意で, なまってくアイノ〉ともいわれた.
古くは日本の内地にも住み,日本歴史の上ではくえぞ〉くえみし〉(蝦夷,夷, 狄)とも呼ばれた.
樺太(サハリン)のアイヌ語に雅語でく人〉を意味するくエンチウ〉という語があり, くえぞ〉くえみし〉はそれから出たといわれる.
アイヌはもと千島(クリル列島), 樺太, 北海道に住み, それぞれ, 千島アイヌ, 樺太アイヌ, 北海道アイヌと呼ばれた.
このうち, 千島アイヌ(97人)は, 1884年(明治17)に根室の小島シコタン(色丹)に移されて, 色丹アイヌとも呼ばれたが, 年々減少して数人を残すのみになり, 今は日本人の中に姿を没してしまった.
樺太アイヌは, 南樺太の東西両海岸各所に集落をつくって, 主として漁民の生活を送っていたが, これも第2次世界大戦後はほとんど北海道に移住してしまった.
今は樺太アイヌも北海道アイヌも等しく北海道に住んでいるわけである.
人口は, 北海道アイヌ約1万5000,樺太アイヌ約1300といわれているが, 正確な数は不明である.
今これらの人々は一口にアイヌの名で呼ばれているが,その大部分は日本人との混血によって本来の人種的特質を希薄にし, さらに明治以来の同化政策の効果もあって,急速に同化の一途をたどり, 今やその固有の文化を失って, 物心ともに一般の日本人と少しも変わるところがない生活を営むまでにいたっている.
したがって, 民族としてのアイヌはすでに滅びたといってよく,厳密にいうならば, 彼らは, もはやアイヌではなく, せいぜいアイヌ系日本人とでも称すべきものである.
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