Up 歴史教科書攻撃 作成: 2017-01-31
更新: 2017-01-31


      2015-04-07 北海道新聞
     文部科学省が6日公表した中学校の 教科書検定では、政府見解による新しい基準に基づき、従来は認めていた表現についても修正を求めた。歴史教科書の中には、「北海道旧土人保護法」の記述を修正した結果、狩猟、採集などの場を奪われたアイヌ民族の歴史が中学生に正しく伝わりにくい事例も出ており、専門家からは疑問の声が上がっている。
      <狩猟採集中心のアイヌの人々の土地を取り上げて、
           農業を営むようにすすめました>
     日本文教出版(東京、大阪)の歴史教科書は従来、1899年(明治32年)施行の同法についてこう表記していたが、次のように修正された。 
      <狩猟や漁労中心のアイヌの人々に土地をあたえて、
           農業中心の生活に変えようとしました>
     表現上、逆の意味となったことについて、文科省は「アイヌ民族を保護するという法律の趣旨に照らすと生徒が誤解する恐れがある」と説明する。
     歴史をさかのぼれば、国は明治初頭、土地所有制度を北海道に導入。集団的に土地を利用していたアイヌ民族には個人的な土地所有の概念がなかったため、土地を所有しようとする人はほとんどいなかった。その結果、アイヌ民族は次第に狩猟や漁労、採集などの場を失い困窮。そこで北海道旧土人保護法は、アイヌ民族に土地を「下付」(下げ渡し)するとした。
     今回の検定意見は、アイヌ民族の困窮対策として施行された同法の内容を法的に解釈し、土地を「あたえた」と表現するよう求めた形だ。日本文教出版の編集者は「法の狙いは土地を取り上げる趣旨ではない。納得するとか反論するではなく指摘があったことは直していく」と話す。
     だが、政府の有識者懇談会が 2009年にまとめた報告書は「すでに和人に対する払い下げが進んだ後で、アイヌの人々の土地は農地に適さないものが少なくなかった」と明記。同法は和人への同化を迫ったとの批判も強い。だが、この教科書は同法が施行されるまでの経緯についてほとんど触れられていない。
     北海道アイヌ協会の阿部一司副理事長は「歴史の全体像を抜きにして、該当部分だけ修正して記述するのであれば、間違った歴史認識を子どもたちに教えることになる。承服できない」と批判する。
     北大アイヌ・先住民研究センターの落合研一准教授も「該当部分だけを見れば、修正は妥当と言えるが、北海道旧土人保護法に至ったプロセスが書かれていなければ、アイヌ民族が事実上、土地を失った歴史が分からない。教科書のページ数の制約があるとはいえ、言葉が足りない」と指摘する。


    <狩猟採集中心のアイヌの人々の土地を取り上げて、農業を営むようにすすめました>に該当する事実関係は,つぎのようになる:
    1. アイヌの生活圏に和人がどんどん入って来る。
    2. アイヌは,これまでの生活をやっていかれなくなる。
    3. アイヌは,生活に困窮する。
    4. 生活困窮アイヌ対策として,「アイヌの農民化」を考える。
    5. 「アイヌの農民化」を進めるための法として,『旧土人保護法』を制定する。
      この法の内容は,「アイヌに土地を与える」である。
      「アイヌに土地を与える」の表現になるのは,北海道の土地が「官有地」であったからである。
      北海道の土地が「官有地」であったのは,明治政府が幕府の「蝦夷地直轄」を受け継いだためである。

    ここで問題になっている文教出版の教科書の記述は,つぎのものである:
     「 政府は、1899年に北海道旧土人保護法(「保護法」)を制定し、狩猟採集中心のアイヌの人々の土地を取り上げて、農業を営むようにすすめました。」
    この文言は,つぎのように読むことになる:
      「『旧土人保護法』を以て,土地を取り上げた」
    これは,事実とは違う。
    「取り上げた」「与えた」をいえば,
      「『旧土人保護法』を以て,土地を与えた」
    になるわけである。


    これは,シャモヘイト派のしくじりである。

    シャモヘイト派は,「義憤」を喚起するレトリックの使用を,常套とする。
    これは彼らの,政治手法である。
    このレトリックのうちに,つぎの二つがある:
      「アイヌの土地を取り上げた」
      「"土人" のことばを使って,アイヌを差別した」
    シャモヘイト派は,図に乗って,この二つをつなげてしまう:
      「『旧土人保護法』を制定し,アイヌの土地を取り上げた」

    『旧土人保護法』制定までの出来事の時系列と『旧土人保護法』の文言は,どうしたってつぎの内容になる:
      「『旧土人保護法』を制定し,アイヌに土地を与える」
    しかし,シャモヘイト派はこれまでさんざん「『旧土人保護法』を制定しアイヌの土地を取り上げた」を言ってきたので,もう引っ込みがつかない

    実際この度も,《『旧土人保護法』を制定しアイヌの土地を取り上げた」が正しい──これでがんばれ》のエールが,マスコミから起こる。
    そしてこれに同調するスピーチが,つぎつぎと湧いて出てくるわけである。

      2015-04-16 東京新聞・こちら特報部
    歴史修正主義の教科書検定
    政権の意向 侵食
    アイヌ差別の旧土人保護法 土地「取り上げ」→「あたえ」
    広がる自主規制


     同様にアイヌ民族の歴史についても、当時の政府による差別政策を正当化するような表現が出てきた。
     一八九九年に制定され、一九九七年に廃止されたアイヌ民族を対象にした北海道旧土人保護法について、日本文教出版(東京、大阪)の教科書は当初、「狩猟採集中心のアイヌの人々の土地を取り上げ、農業を営むようにすすめました」と記していた。
     だが、検定意見を受けて「狩猟や漁労中心のアイヌの人々に土地をあたえて、農業中心の生活に変えようとしました」と肯定的な書きぶりに変更した。
     北海道大アイヌ・先住民研究センターの丹菊逸治准教授は「極めておかしな記述だ。アイヌには狩猟・採集で『イオル』(猟場)を中心とする伝統的な土地の利用方法があった。政府はそれを無視して土地を取り上げ、まずは和人に分配して、残った農耕に不適な土地をアイヌに分配した。これまで研究されてきた旧土人保護法の評価を間違えている」と指摘する。
     「アイヌの中学生は、先祖代々語り継がれてきた歴史を知っている。かたや東京の中学生は教科書が唯一の情報源。正しい事実が共有されていなければ、両者が出合ったとき、民族問題が生じかねない。教科書は歴史認識の土台だ。記述はファンタジーではない事実に基づかねばならない」

    それにしても,「悪あがき」とはいえ,ほとほと困ったものだとしなければならないのが,「学者」の劣化である:
    「これまで研究されてきた旧土人保護法の評価を間違えている」──いったい,だれの・どんな「研究」と「評価」なんだ,というはなしである。
    しかも,「先祖代々語り継がれてきた歴史」とくる。
    ひとが「歴史」として知るものは,「先祖代々語り継がれてきた歴史」ではない。
    「伝承」と「歴史」の区別がつかないほどに,「学者」の劣化は進行している。


    朝日新聞からのエールも,引いておこう:

      2015-08-21 朝日新聞 DIGITAL こちら人権情報局
    (http://www.asahi.com/special/kotoba/jinken/SDI201508120064.html)
    教科書のアイヌ記述、検定で "歴史歪曲"
     門田 耕作 
     2016 年度から中学校で使われる教科書の検定結果が4月、文部科学省から公表されました。それによると、「東京裁判」や「慰安婦」などの社会科の記述について、政府見解に基づくよう意見が付けられ、修正が施されたことがわかりました。また、検定前に一部改定された「学習指導要領解説」に明記され、政府の立場を教えるように求められた「竹島」と「尖閣」については、全ての社会科教科書に記述が登場することになったことも、同時に大きく報じられました(4月7日付朝日新聞など各紙)。一方、明治政府がアイヌ民族の同化を進めた「北海道旧土人保護法」(1997年アイヌ文化振興法制定で廃止)に関する記述にも検定意見が付き、修正されたことはあまり大きく取り上げられませんでした。いま、この修正にアイヌの人たちが怒っています。
    ■「正反対」の意味に修正
     問題の修正は、日本文教出版の歴史教科書でありました。現行本と、今回の検定で修正された記述を読み比べてください。
      現行本
       政府は、1899 年に北海道旧土人保護法(「保護法」)を制定し、
    狩猟採集中心のアイヌの人々の土地を取り上げて、農業を営むようにすすめました。
      修正後
       政府は、1899 年に北海道旧土人保護法(「保護法」)を制定し、 狩猟や漁労中心のアイヌの人々に土地をあたえて、農業中心の生活に変えようとしました。
     前回の検定に合格した現行本の「土地を取り上げて」が、まったく正反対の「土地をあたえて」に修正されています。
     検定意見書には「(旧土人保護法の趣旨を)生徒が誤解するおそれのある表現である」と短く指摘事由が書かれていますが、5月18日付北海道新聞によると、「同法はアイヌ民族に土地を『下付(下げ渡し)』するとしており、文科省はこれに沿って検定意見を付けた」、4月7日付朝日新聞によると「法の目的は土地を取り上げるのでなく分与することにある」との意見が付いたといいます。
     これに対して出版社側は、「法の狙いは土地を取り上げる趣旨ではない。納得するとか反論するではなく指摘があったことは直していく」(4月7日付北海道新聞)、「斜めから見た部分を強調していた反省もある」(同朝日新聞)と、修正に応じました。
     地元の北海道新聞はこの修正について、「アイヌ民族への支配や同化の歴史をねじ曲げ、薄めようとしているようにしかみえない」と同日の社説ですぐに論評、東京新聞は「極めておかしな記述だ。アイヌには狩猟・採集で『イオル』(猟場)を中心とする伝統的な土地の利用方法があった。政府はそれを無視して土地を取り上げ、まずは和人に分配して、残った農耕に不適な土地をアイヌに分配した。これまで研究されてきた旧土人保護法の評価を間違えている」という北海道大アイヌ・先住民研究センターの丹菊逸治准教授のコメントを、4月16日付「こちら特報部」で掲載しました。


    つぎは,"アイヌ" 団体族議員の役割を担うことになった議員の,本件に対するアクションである。
    もっとも,論難のしようがないので,"アイヌ" 団体に向けた「言うことは言ってます」の形づくりの観がある。

     
    http://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_shitsumon.nsf/html/shitsumon/a189235.htm

    平成二十七年五月二十日提出
    質問第二三五号

    アイヌ民族に係る歴史教科書の記述等に関する質問主意書
    提出者  鈴木貴子

    アイヌ民族に係る歴史教科書の記述等に関する質問主意書

     本年五月十八日付北海道新聞記事に、「旧土人保護法 教科書検定で修正 『適切記述求める』」との見出し記事が掲載されている。右によると、十七日に札幌市内でひらかれた北海道アイヌ協会の本年度総会にて、加藤忠理事長の挨拶で、二〇一六年度から学校で使われる一部の歴史教科書で、「北海道旧土人保護法」に関する記述が文科省の検定意見によって修正されたことについて、「明治以来の北海道開拓とアイヌ民族の同化政策に十分な言及がなされておらず、歴史的経緯を正しく理解するには十分な説明ではない」と述べた。また、文科省が四月に公表した教科書検定結果では、一社(以下、「日本文教出版」とする。)の歴史教科書において、「北海道旧土人保護法」の説明でもともとは「アイヌの人々の土地を取り上げて」とされていた記述が、「アイヌの人々に土地をあたえて」などと修正された。同法はアイヌ民族に土地を「下付(下げ渡し)」するとしており、文科省はこれに沿って検定意見をつけたとのことである。
    一 政府として、右記事の内容は承知しているか。
    二 「北海道旧土人保護法」に関して説明されたい。
    三 明治以来の北海道開拓とアイヌ民族の同化政策に対する政府の認識如何。
    四 今回、日本文教出版が編集した北海道旧土人保護法の記述について、文科省の誰がチェックをして、日本文教出版の担当者に指摘したか明らかにされたい。また、指摘した内容を具体的に示されたい。
    五 今回、文科省の検定意見書によって修正された、日本文教出版の歴史教科書に記述されている「北海道旧土人保護法」の説明は、歴史的経緯を正しく理解するために十分な説明がなされていると政府は考えるか。政府の見解如何。

     右質問する。


    http://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_shitsumon.nsf/html/shitsumon/b189235.htm

    平成二十七年五月二十九日受領
    答弁第二三五号

      内閣衆質一八九第二三五号
      平成二十七年五月二十九日
    内閣総理大臣 安倍晋三

           衆議院議長 大島理森 殿

    衆議院議員鈴木貴子君提出アイヌ民族に係る歴史教科書の記述等に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。

    衆議院議員鈴木貴子君提出アイヌ民族に係る歴史教科書の記述等に関する質問に対する答弁書

    一について
     御指摘の報道については承知している。

    二について
     アイヌ文化の振興並びにアイヌの伝統等に関する知識の普及及び啓発に関する法律(平成九年法律第五十二号)附則第二条の規定により廃止された北海道旧土人保護法(明治三十二年法律第二十七号。以下「旧土人保護法」という。)は、困窮に瀕していたアイヌの人々に対し、土地を無償で下付し、農耕を奨励するなどアイヌの人々の生活の安定を図ることを目的として制定されたものである。

    三について
     政府としては、「アイヌ政策のあり方に関する有識者懇談会」の報告書(平成二十一年七月)において「近代国家形成過程の中で、土地政策や同化政策などにより、先住民族であるアイヌの文化は深刻な打撃を受けたといえる。」と指摘されているものと承知している。

    四について
     御指摘の申請図書の記述については、教科用図書検定調査審議会において調査審議が行われた結果、旧土人保護法には、アイヌの人々の土地を取り上げるという趣旨の規定は存在しないことから、記述の欠陥として「生徒が誤解するおそれのある表現である。(旧土人保護法の趣旨)」との検定意見を付すことが適当であるとされた。これを受け、文部科学省は、当該検定意見を申請者である日本文教出版株式会社に対して通知した。

    五について
     御指摘の申請図書の記述に関し、申請者である日本文教出版株式会社から提出された修正後の記述について、教科用図書検定調査審議会において調査審議が行われた結果、必要な修正がなされたと判断されたことから、「生徒が誤解するおそれのある表現である。(旧土人保護法の趣旨)」という記述の欠陥は解消されたものと考えている。


    http://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_shitsumon.nsf/html/shitsumon/a190053.htm

    平成二十八年一月十八日提出
    質問第五三号

    アイヌ民族に係る歴史教科書の記述等に関する質問主意書
    提出者  鈴木貴子

    アイヌ民族に係る歴史教科書の記述等に関する質問主意書

     昨年五月十八日付北海道新聞記事に、「旧土人保護法 教科書検定で修正 『適切記述求める』」との見出し記事が掲載されている。右によると、十七日に札幌市内でひらかれた北海道アイヌ協会の本年度総会にて、加藤忠理事長の挨拶で、二〇一六年度から学校で使われる一部の歴史教科書で、「北海道旧土人保護法」に関する記述が文科省の検定意見によって修正されたことについて、「明治以来の北海道開拓とアイヌ民族の同化政策に十分な言及がなされておらず、歴史的経緯を正しく理解するには十分な説明ではない」と述べた。また、文科省が四月に公表した教科書検定結果では、一社(以下、「日本文教出版」とする。)の歴史教科書において、「北海道旧土人保護法」の説明でもともとは「アイヌの人々の土地を取り上げて」とされていた記述が、「アイヌの人々に土地をあたえて」などと修正された。同法はアイヌ民族に土地を「下付(下げ渡し)」するとしており、文科省はこれに沿って検定意見をつけたとのことである。
     右と「政府答弁書」(内閣衆質一八九第二三五号)を踏まえ、質問する。
    一 過去に政府に対し提出した質問主意書で、「北海道旧土人保護法」に関し説明を求めたところ、「政府答弁書」(内閣衆質一八九第二三五号)では、「旧土人保護法」は、「困窮に瀕していたアイヌの人々に対し、土地を無償で下付し、農耕を奨励するなどアイヌの人々の生活の安定を図ることを目的として制定されたものである。」と答弁されている。(「旧土人保護法」にかかわって)実質、和人のみに与えられた、「北海道土地売貸規則」、「地所規則」、「北海道地券発行条例」、「北海道土地払下規則」、「北海道国有未開地処分法」及び、「旧土人保護法」の違い、またこれらの規則・法の実施後に開墾したことによる問題、和人の学校及びアイヌの学校の違いについて政府はどのような認識を有しているか答えられたい。
    二 過去に政府に対し提出した質問主意書で、明治以来の北海道開拓とアイヌ民族の同化政策に対する政府の認識を問うたところ、『政府としては、「アイヌ政策のあり方に関する有識者懇談会」の報告書(平成二十一年七月)において「近代国家形成過程の中で、土地政策や同化政策などにより、先住民族であるアイヌの文化は深刻な打撃を受けたといえる。」と指摘されているものと承知している。』との答弁がなされている。右答弁は、有識者懇談会で出された報告書の文章を引用しているだけで、それを踏まえた政府の見解が答えられていない。答弁で記された有識者懇談会の文章を踏まえ、政府の見解如何。
    三 「旧土人保護法」に先立つ、「北海道土地売貸規則」、「地所規則」、「北海道地券発行条例」、「北海道土地払下規則」、「北海道国有未開地処分法」によって、アイヌの土地・資源・生業がどうなったと考えるか。政府の見解如何。
    四 「旧土人保護法」に先立つ、アイヌのサケ漁・シカ猟禁止によって、アイヌの生業や生命はどうなったと考えるか。政府の見解如何。
    五 質問一、二、三、四を踏まえるならば、日本文教出版の旧土人保護法に至る説明、同法の影響記述は、説明不足と考えるが、政府の認識如何。
    六 過去に政府に対し提出した質問主意書で、日本文教出版が編集した北海道旧土人保護法の記述について、文科省の誰がチェックをして、日本文教出版の担当者に指摘したか明らかにするよう求めたが、政府は質問に対し答えていない。改めて、文科省の誰がチェックをし、日本文教出版の担当者に指摘したか明らかにされたい。
    七 過去に政府に対し提出した質問主意書で、文科省の検定意見書によって修正された、日本文教出版の歴史教科書に記述されている「北海道旧土人保護法」の説明は、歴史的経緯を正しく理解するために十分な説明がなされているかと問うたところ、「政府答弁書」(内閣衆質一八九第二三五号)において、「…「生徒が誤解するおそれのある表現である。(旧土人保護法の趣旨)」という記述の欠陥は解消されたものと考えている。」との答弁をされている。質問一、二、三、四を踏まえるならば、文科省の検定意見によっても、「旧土人保護法」の記述の欠陥は解消されていないと考えるが、政府の見解如何。

     右質問する。


    http://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_shitsumon.nsf/html/shitsumon/b190053.htm

    平成二十八年一月二十六日受領
    答弁第五三号

      内閣衆質一九〇第五三号
      平成二十八年一月二十六日
    内閣総理大臣 安倍晋三

           衆議院議長 大島理森 殿

    衆議院議員鈴木貴子君提出アイヌ民族に係る歴史教科書の記述等に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。

    衆議院議員鈴木貴子君提出アイヌ民族に係る歴史教科書の記述等に関する質問に対する答弁書

    一、三及び四について
     御指摘の「北海道土地売貸規則」、「地所規則」、「北海道地券発行条例」、「北海道土地払下規則」及び「北海道国有未開地処分法」並びに「アイヌのサケ漁・シカ猟禁止」については、「アイヌ政策のあり方に関する有識者懇談会」の報告書(平成二十一年七月。以下「有識者懇談会報告書」という。)において、「近代的な土地所有制度の導入により、アイヌの人々は狩猟、漁撈、採集などの場を狭められ、さらに狩猟、漁撈の禁止も加わり貧窮を余儀なくされた」ことが指摘されている。
     また、北海道旧土人保護法(明治三十二年法律第二十七号。以下「旧土人保護法」という。)については、先の答弁書(平成二十七年五月二十九日内閣衆質一八九第二三五号。以下「前回答弁書」という。)二についてでお答えしたとおりであるが、有識者懇談会報告書において、「アイヌの人々に下付された土地には農地に適さないものも少なくなかった」こと及び「アイヌの子弟の日本語の習得を優先する教育が行われたが、理科や地理などは教えられず、就学年限を四年間(和人は六年間)とした時期もあるなど、和人の子弟との間には格差が見られた」ことが指摘されている。
     このような事実関係については、政府としても同様に考えている。

    二について
     お尋ねについては、前回答弁書三についてでお答えしたとおりであり、このような事実関係については、政府としても同様に考えている。

    五から七までについて
     教科書において、学習指導要領を踏まえどのように記述するかについては、欠陥のない範囲において、申請図書の発行者等の判断に委ねられているが、御指摘の申請図書における旧土人保護法に関する「アイヌの人々の土地を取り上げて、農業を営むようにすすめました。」という記述については、教科用図書検定調査審議会において調査審議が行われた結果、旧土人保護法の趣旨をアイヌの人々の土地を取り上げるものと生徒が誤解するおそれのある表現であることから、記述の欠陥として「生徒が誤解するおそれのある表現である。(旧土人保護法の趣旨)」との検定意見を付すことが適当であるとされた。これを受け、文部科学省は、当該検定意見を申請者である日本文教出版株式会社に対して通知し、当該記述の修正を求めた。
     当該検定意見を踏まえ申請者である日本文教出版株式会社から提出された修正後の「アイヌの人々に土地をあたえて、農業中心の生活に変えようとしました。」という記述について、教科用図書検定調査審議会において調査審議が行われた結果、必要な修正がなされたと判断されたことから、政府としては、「生徒が誤解するおそれのある表現である。(旧土人保護法の趣旨)」という記述の欠陥は解消されたものと考えている。