Up 囚人労働・タコ部屋労働との違い 作成: 2019-02-10
更新: 2019-02-17


    囚人労働で,道をつくる。
    このときは,たくさん働かせるほど,道を伸ばせる。
    タコ部屋労働で,石炭を掘る。
    このときは,たくさん働かせるほど,石炭を多く取れる。
    こうして,囚人労働・タコ部屋労働は,収量を増やす方法として<酷使>を使えるところとなる。

    小作人雇用で,米をつくる。
    このときは,小作人を酷使するほど収量が多くなる,とはならない。
    田の面積は限られており,一定面積あたりの収量には限度がある。
    そして米の成長には一定パターンがあり,これは変えられない。
    小作人雇用において収益を増やす方法は,<酷使>ではなく,<小作人から取り立てる量を多くする>である。


    運上屋のアイヌ雇用も,<酷使>は用いるところがない。

    運上屋に出向いてアイヌがする仕事は,漁撈である。
    漁撈の収穫物は,生ものである。
    生ものは,直ちに加工しなければならない。

    運上屋は,漁と加工の分業は用いない。
    漁をした者が加工する者であり,製品にまでする。
    そしてこの製品を,運上屋で交易する。
    アイヌは貨幣を用いないから,これは加工製品と日用品の物々交換になる。


    そして,アイヌの労働は,一斉・一律労働とはならない。
    個人の能力差が出てくる。
    そして,個人により,そのときの交易の必要度が違ってくる。
    運上屋が収益を増やす方法は,好成績者にはボーナスを与えるなどの<動機づけ>である。

      玉蟲左太夫 (1857) の「サル領出産物買入直段調」に,つぎのようにある:
       
      一 煎海鼠一ツ代銭一文
      但一日数二百以上取候者へは酒二合二勺ヅヽ手当遣候


    運上屋でのアイヌ労働を「使役」と称するむきがあるが,そのなかみは,アイヌが個々に己の裁量で仕事するというものである。
    実際,生ものからの製品加工は,自分に都合のよいところでやればよい。
    家が近くにある者なら,持ち帰ってそこでやってもよい。
    遠くから来た者だと,運上屋のそばに小屋を設けてそこに滞在し,加工作業をその横でやるというふうになる。
島田元旦 (1799)


    特に,多く獲ればよいというものではない。
    自分が製品加工できる数を超えた分は,ただ腐らせるしかないわけである。

      「蟹工船」が<酷使>の舞台になるのは,蟹の捕獲と加工が分業になっているからである。 即ち,加工部門が処理できる以上の蟹を漁部門が獲ると,加工部門は酷使状態になる。
      一般に,作業部門が処理できる以上の仕事を営業部門が取ってくると,作業部門は酷使状態になる。 酷使発生のメカニズムは,部門別──分業──である。


    そして,漁撈は天候任せである。
    海が荒れると,日和待合になる。
    酒盛りして踊りに興じるのも,こんなときである。


    要点:<酷使>は,これが成り立つための条件というものがある。
       運上屋のアイヌには,<酷使>の形が立たない。


    引用文献