Up 「酷使」の構造 作成: 2019-02-18
更新: 2019-02-18


    「アイヌの酷使」のことばを使う者は,運上屋でのアイヌの労働を,囚人労働・タコ部屋労働の類の,強制労働のように思っている。
    また,ひとがこのことばを聴けば,やはり強制労働を想うことになる。
    「アイヌ学者」も,この類である。


    商品経済は,「酷使」を生む。

    企業は,分業体制の拡大という形で,大きくなる。
    分業化は,収益を増やそうとする部門と作業する部門が別になるところから始まる。
    収益を増やそうとする部門は,作業する部門をより多く働かせようとする。
    単純には,<労働時間を増やす>。
    しかしこれには限度というものがある。
    そこで,<労働の密度を高める>がこれに続く。
    <労働時間を増やす>と<労働の密度を高める>,これが「酷使」の内容である。

    商品経済の「酷使」は,「鎖」とか「鞭・棍棒」を使わない。
    労働者に<労働時間を増やす><労働の密度を高める>を受け容れるよう仕向ける。
    その方法は,つぎの二つである:
    1. 歩合制
    2. 歩合を下げる
    歩合制では,ひとはより多く報酬を得ようとして,より多く働くようになる。
    歩合を下げると,ひとはこれまでと同じ報酬を得るために,より多く働くようになる。


    「アイヌの酷使」の内容も,これである。
    運上屋の番人がアイヌに対し鎖や鞭・棍棒を使うわけではない。
    実際,数人足らずの番人が大人数のアイヌに対し鎖や鞭・棍棒を使えるわけがない。 ──もし自分の立場を勘違いして鎖や鞭・棍棒を使えば,「クナシリ・メナシ」(1789) のような(ざま)になる。
    運上屋がアイヌに対して使うものは,「出産物買入((値))段表」であり,これに尽きる。
島田元旦 (1799)


    翻って,運上屋とはアイヌに対し,それほど強い立場にはない。
    アイヌの反応を見ながら「出産物買入直段表」を調整する。
    運上屋には「土人江諸品」がいろいろ並べているが,これも,アイヌに<より多く働く>を動機づけるためのものである。

    念のために──というのも「アイヌ学者」もわかっていなさそうなので──付言しておくが,<交換レートを下げる>は,与えるものをけちっているのではない。
    アイヌの<これまでと同じ報酬を得るためにより多く働く>を期しているわけである。
    少し下げることが多く得ることになる。
    「出産物買入直段表」は,増幅器の機能ももっているわけである。