Up | アイヌの収入:基本給+歩合給 | 作成: 2019-02-14 更新: 2019-02-14 |
運上屋でのアイヌの仕事は,漁撈である。 運上屋は,アイヌに漁撈環境を用意する。 アイヌは漁をし,獲ったもの (生もの) を製品 (保存食形態) へ加工する。 そしてこれを運上屋に持っていく。 このときの買入のレートが,上に引用した中の「出産物買入 漁は海が比較的穏やかなときでないと出られない。 「出産物買入直段」の表の中にある漁撈産物以外の品は,漁が無いときの稼ぎとなるものである。 |
漁は気象に左右されるばかりでなく,不漁・凶漁もある。 そして,体調不良で仕事ができないこともある。 そこで,基本給というものが必要になる。 「最低これで過ごせ」という給与である。 これが,上に引用した中の「土人給料」である。 このように,運上屋でのアイヌの収入は,基本給と歩合給でなっている。 運上屋はまた,アイヌの常時交易所でもある。 アイヌは狩猟でとったものを製品加工して,運上屋に売ることができる。 このときの買入のレートが,上に引用した中の「御軽物買入直段」である。 アイヌAから運上屋が買い取った額は,帳簿に記載される。 これがAの「財布」である。 Aは,「財布」に入っている額のなかで,運上屋店舗で売っているアイヌ用生活物品を買うことができる。 このときの値段が,上に引用した中の「土人江諸品売渡直段」である。 "アイヌ" イデオロギーは,運上屋をアイヌ虐待・酷使・搾取の場として物語る。 イデオロギーは,「目的達成のためにはどんな手段も許される」を立場にするものであるから,いろいろ卑怯なトリックを使ってくる。 この度のトリックは,《基本給を全収入に見せかける》である。 そしてこの額──「土人給料」──を「土人江諸品売渡直段」を比べさせるわけである。 残る「出産物買入直段」「御軽物買入直段」の方は,「搾取」に使う。 「安く買いたたかれている」と見せかけるのである。 前のトリックを小学生レベルとすると,このトリックは中学生レベルといったところで,少し高度である。 価値は,交換で発生する。 引用した表はサル領のものだが,煎海鼠一ツの価値はサル領では一文である。 これを本州にもっていくと何倍もの価値になる。 付加価値を実現しているものは,蝦夷地と本州を行き来する帆船航海の困難・危険と必要経費全体である。 アイヌが煎海鼠一ツ一文の交換に不満を持たないのは,これが労働の対価であることを承知しているからである。 「煎海鼠の値段」などというものは考えない。 実際,値段を言い出せば,海鼠はもともとタダである。 "アイヌ" イデオロギーは,蝦夷相場の労働対価を,本州相場の煎海鼠の値段にすり替える。 そして「安く買いたたかれている」と言うわけである。 もっとも,「中学生レベル」とは言ったが,このロジックがわかるためには,やはり経済学──商品論──の素養が一定程度要る。 「アイヌ学者」が "アイヌ" イデオロギーに簡単にだまされてしまうのは,この素養を欠いていることが直接の理由ということになる。
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