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鳩沢佐美夫 (1970). pp.185,186.
とくに数年前に八十余歳で亡くなった鍋沢元蔵翁は、それこそ独学でね、いろはからてにをはまで学んでね──。
このお爺ちゃんの偉大さはいかような難事にもくじけなかった、ということ。
一度など、膨大な資料を火災で丸ごと焼いちまった。
それでも晩年、『アイヌ祈禱集』という稀有の教典ともいうべき著述を物にした。
当然にこれにはね、一中学校教諭の無報酬の協力や、地元教育委員会の励ましという援護もあるにはあった。
けれども、あのユーカラ集や祈禱集に満ちあふれる元蔵翁の執念ともいうべき魂は、現代、物の言えないアイヌ!哀れなアイヌ!──と言われているアイヌたちに、お手本として差し出したいような気がするんだ‥‥‥
そのユーカラの一節にね、
| ‥‥‥ ukampeska | | ウカムベシカに |
pus-kosanpa | 轟然として |
kamuy ekhun | 神の来る音 |
orneanpe | のさまが |
ko-toriminse | ひびきわたり |
rorunpe enka | 戦場の上へ |
konis - sineikur | 雲の一むらが |
otte kan | やってくる |
‥‥‥‥‥‥ | ‥‥‥‥‥‥ |
<kutu-ne sirka> |
『イーリヤス』(ホメロス) を彷彿とさせる箇所がある。
つまり "クトネシリカ" とはね、守護神を彫り込んだ名刀なんだな。
それを携えた英雄がさ、ラッコなどという怪物と戦ったりする。
そして窮地に陥るだろう。
すると、鍔や柄、鞘などね、そこに彫り込んである雷神や狼の神々が顕われて助勢‥‥‥。
ちょうど、ほら、ヘラクレスがメドゥーサ退治に奮戦するね、なんかあの感じがそっくりそのままなんだ──。
ところが、このユーカラも、大正二年にすでに○○○博士によって採録されたものだという。
でも鍋沢元蔵翁はね、自らの手で、自らの民族に、第七段からなる七千節近い貴重な文化を遺してくれたんだ。
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- 著書
- 引用文献
- 鳩沢佐美夫 (1970) :「対談・アイヌ」,『日高文芸』, 第6号, 1970.
『沙流川─鳩沢佐美夫遺稿』, 草風館, 1995. pp.153-215
- 参考文献
- 遠藤志保 (2010) : 「鍋沢元蔵筆録のアイヌ英雄叙事詩における虚辞ならびに韻律調整方法」
千葉大学人文社会科学研究 /千葉大学大学院人文社会科学研究科 編, 2017, pp.122-139
- 遠藤志保 (2016) : 「鍋沢元蔵によるアイヌ語のカナ表記体系 : 国立民族学博物館所蔵筆録ノートから」
国立民族学博物館調査報告, 2016, pp.41-66
- 小川正人・遠藤志保・大坂拓 (2017) : 「鍋沢元蔵書誌」
北海道博物館アイヌ民族文化研究センター研究紀要, vol.2, 2017, pp.67-98
- 参考Webサイト
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