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日本民族学会理事会文書21-1号
平成21年12月13日
内閣官房長官
平野 博文 殿
アイヌ政策のあり方に関する有識者懇談会報告書についての見解
日本文化人類学会会長
山本真鳥
本年7月、アイヌ政策のあり方に関する有識者懇談会による報告書が内閣官房長官に提出されました。この報告書について、日本文化人類学会理事会の議を経て、以下の見解を表明します。
日本におけるアイヌ政策の推進に向けて、特定の立場に偏ることなく、公平かつ客観的な形でこのような報告書が出されたことを、世界の民族と文化を研究する者として、私たちは高く評価する。
アイヌ民族について、1989年に日本民族学会(2004年に日本文化人類学会に学会名改称)が「アイヌ研究に関する日本民族学会研究倫理委員会の見解」を表明し、1996年には当時の内閣官房長官宛に日本民族学会の理事会の名において「ウタリ対策のあり方に関する有識者懇談会報告書についての見解」を表明した。また、2008年には、「政府はアイヌの人々を独自性を有する先住民族として認めること」などを求める国会決議に向けて、日本文化人類学会会長名でアイヌ民族の権利確立を考える議員の会宛に「日本文化人類学会がこれら二つの文書で表明した立場をそのまま引き継ぎ、堅持していること」を表明した。今回の報告書の中で強調されているアイヌの人々が先住民族であるとの基本的認識の中に、私たちがこれまで表明してきた見解が十分に生かされていると考える。
アイヌ政策の展開に当たっての基本的理念として、(ア)アイヌのアイデンティティの尊重、(イ)多様な文化と民族の共生の尊重、(ウ)国が主体となった政策の全国的実施、の3つの柱が立てられているが、世界各地の先住民族についての知見を蓄積してきた私たちは、これらの理念が世界の様々な先住民族政策の理念と比較してもきわめて妥当なものであり、積極的に支持すべきものであると考える。また、これらの理念に沿った形で一刻も早く具体的な政策が推進されることを私たちは希望する。
具体的な政策の中で、私たちの活動と最も強い結び付きを持つ「教育」と「研究」が取り上げられている。国民の理解の促進のため「教育」活動に関しては、報告書において提言されているように、初等・中等教育においてアイヌの人々も含めた先住民族に関する理解の促進を図るべきである。私たちは、世界各地の先住民族の過去と現在について研究を進めて来た「文化人類学」を公民免許状取得上履修を要する専門科目に追加することを要望してきた。また、先住民族に関する知見が凝集された「民族誌」を地理歴史免許状取得上履修を要する専門科目に追加することを要望してきた。教育の場でアイヌの歴史や文化についての正しい理解を身につけさせるためには、まず第一に、このような方策等によって、教育を担当する教員自身がアイヌの人々が先住民族であるという基本的認識の持つ意味を十分に理解する必要があると考える。「研究」に関しては、アイヌに関する総合的かつ実践的な研究の推進・充実を図るために、アイヌ研究者養成のために積極的な策を講じることが必要である。そうした研究者には必ずアイヌの人々が含まれなくてはならない。特に、アイヌ文化の展示を行うと同時に、研究者養成機関としての性格もあわせ持つ教育研究拠点を設置し、この拠点を中心に、アイヌ研究に取り組む既存の研究機関を取り込んだ形で研究ネットワークを構築して、研究体制の拡充・強化を図ることが緊急の課題である。また、研究を推進する上では、報告書において提言されているように、アイヌの人々との協働が必要不可欠であると考える。
この報告書で取り上げられたさまざまな問題について、私たちも今後もさらに検討を加え、議論を深めていきたいと考える。