- 哺乳類と鳥類の脳比較
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渡辺茂 (2010), pp.31-35
脊椎動物の脳は前のほうから前脳、中脳、後脳に分かれる。
これはどの脊椎動物も同じである。
前脳はさらに大脳と間脳に分かれる。‥‥
大脳は外側に外套 (文字どおりマントで大脳の表面を覆っている細胞の層) があり、内側に基底核という細胞のかたまりがある。
鳥(左) とヒト (右)
哺乳類だと外套は細胞が積み重なった層構造をもち、皮質といわれる。
一方、基底核は細胞のかたまりからなる核構造だ。
鳥大脳は外套も基底核も核構造をしている。
哺乳類の皮質では、層によって細胞の機能が違う。
外套の外から入力を受ける層、その入力を外套の別の場所に送る層、外套の外に出力を送る層が、それぞれ分かれている。
ところが鳥外套の核構造でも、細胞のかたまりによって役割の違いがある。
外套への入力を受ける核、外套内のほかの核に連絡する線維を送る核、外套からの出力を送る核がある。
つまり、核のあいだの役割分担は哺乳類の層構造とたいへん似ているのである。
哺乳類脳はそれを層構造で実現し、鳥脳は核構造で実現しているという違いなのである。
外套の一番外側にあるのが高外套といわれるものである。
これは後ろのほうでは海馬につながる。
海馬はヒト脳では側頭葉の深いところにあるが、鳥では大脳の表面にむき出しになっている。
高外套の下は中外套があり、その下は巣外套になる。
巣外套は大きな構造だが、脳の前のほうではその中に内外套という構造が入り込んでいる。
これは鳥の視覚中枢だ。
鳥の大脳で一番底になるのが基底核で哺乳類の基底核に相当する。
‥‥
さて、大脳の後には間脳があるが、間脳にはさまざまな感覚入力の中継を行う視床とその下にある視床下部がある。
哺乳類脳でも鳥脳でも大脳が覆っていて間脳を上から見ることはできない。
鳥脳では大脳が間脳─中脳の上に乗っているが、ヒト脳では間脳が基底核の内側に入り込むという複雑な構造になっている。
鳥 (左) と哺乳類 (右)
間脳の後は中脳だ。
ここで鳥脳と哺乳類脳の大きな違いを見ることができる。
鳥脳の中脳は大きい。
ハトなどは大きく張り出していて大脳よりはみ出しているくらいだ。
とくに大きいのが視蓋といわれる部分で網膜から直接入力を受ける。
一方、哺乳類脳の中脳は小さい。
ヒトの視蓋 (上丘) は大脳を取り除かないと見ることはできない。
脊椎動物の脳は前脳、中脳、後脳に分かれるという話をしたが、感覚に関していうと、前脳は嗅覚、中脳は視覚、後脳は聴覚とい うのが役割分担の祖型である。
鳥脳の大きな中脳はかれらが視覚動物であることを示している。
逆に哺乳類の小さな中脳は、中脳がやるべき視覚情報処理を大脳にやらせていることを示唆する。
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伊澤栄一 (2008), p.249
鳥類の大脳には、哺乳類の大脳皮質の特徴である「層」構造が存在しない ‥‥ 鳥類の大脳は、細胞が充填した構造になっ
ており、哺乳類の大脳基底核の線条体のように見える。‥‥‥
鳥類大脳は、哺乳類のそれと同様、線条体と淡蒼球からなる大脳基底核と、それを覆う背側部の "大脳皮質" から構成されている‥‥‥
「皮質(cortex)」は "層" という構造を意味し、層構造のない鳥の大脳背側部の名称として不適切であるため、その発生学的由来にちなみ「外套(pallium)」と命名された。
その意味では、哺乳類の大脳皮質も外套と呼ぶことができる。
‥‥‥
独立した進化を経た鳥類と哺乳類の大脳は、
巨視的には、大きな外套(大脳皮質)を持つという共通性がみられ、
微視的には、充填構造か層構造かという細胞構築学的な相違性が見られる。」
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鈴木郁夫・平田たつみ (2012):
- 参考Webサイト
- 参考文献
- 渡辺茂 (2010) :『鳥脳力──小さな頭に秘められた驚異の能力』, 化学同人, 2010.
- 阿形清和・竹田啓行 (2007) :「脳の始まりと複雑化を考察する:細胞からみた脳の進化」
阿形清和・小泉修[共訳]『神経系の多様性──その起源と進化』(シリーズ 21世紀の動物科学 7), 培風館, 2007. pp.42-60.
- DrewI, Liam (2018) : I, Mammal : The Story of What Makes Us Mammals.
- Bloomsbury Sigma, 2018.
- 梅田智世[訳]『わたしは哺乳類です──母乳から知能まで、進化の鍵はなにか』, インターシフト, 2019
- 水波誠 (2009) : 微小脳と巨大脳
- 伊澤栄一 (2008) :「鳥類における大型脳について」, 認知神経科学 Vol.10, No.3・4, 2008. pp.248-254.
- 鈴木郁夫・平田たつみ (2012) : 大脳新皮質における神経新生プログラムの哺乳類と鳥類との進化的な保存性.
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