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中村元 (2011), pp.52,53
釈尊は、最初はやはり当時の修行者の習慣に従って苦行を行いました。
「六年苦行」といいますが、六年間山にこもって、当時の行者がやっていたような苦行を自分でも実際に行ってみたのです。
ところが、どうしてもさとりが開けない。
そこで、こういう苦行は無意味だと思って、パッとやめ、里に下りてきてネーランジャラー河、尼連禅河と漢訳仏典ではいいますが、その河で体を清めて、そして近くの村のスジャーターという名の乙女の捧げる乳糜、乳粥ですが、それを取っていただいて元気を回復し、それからブッダガヤーへ赴いて、菩提樹の下で静かに瞑想にふけり、ついにさとりを開かれたと、このように多くの仏伝は伝えています。
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「多くの仏伝」と言っているが,何とか辿り着いたのが,つぎの一節:
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『五分律』巻第十五
起到 欝鞞羅 [ウルヴェーラー] 斯那 [セーナーニ] 聚落。
入村,乞食。
次到 斯那 婆羅門 [バラモン] 舎。
於門外 黙然立彼女 須闍陀 [スジャーター]。
見 佛威相 殊妙。
前取 佛鉢,盛満 美食,以奉 世尊。
‥‥‥
食已,復還 菩提樹下。
結跏趺坐,三昧。
七日 受 解脱樂。
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「三昧 samādhi」が,「瞑想」と訳されているわけである。
この「瞑想」だが,現代人にとってこのことばの意味は,「心を静める」「無心になる」である。
実際『岩波仏教辞典』に,この意味の由来が述べられている:
瞑想
〈冥想〉とも書く。
〈冥想〉は漢語としては、目を閉じて深く思索するという意味。
東晋の支遁(あるいは支道林、314-366)の「詠懐詩」に「道会冥想を貴び、罔象 玄珠を掇る」とあり、大道に合一するために冥想が貴ばれいる。
深い精神集中のなかで根源的な真理と一体化することを「冥」の字を用いて表すことは、『荘子』およびその郭象の注にしばしば見られる。
「冥冥に視、無声に聴く。冥冥の中、独り暁を見、無声の中、独り和を聞く」〔『荘子』天地〕、「冥然として造化と一と為る」〔『荘子』養生主、郭象注〕など。
「瞑想」もそうした『荘子』の思想を背景として出てきたものと考えられる。
しかし、伝統的な仏教ではこの語はほとんど用いられてない。
近代になって、仏教がヨーロッパで研究・実践されるようになると、禅やチベット仏教の実修がヨーガなどとともに、meditation、contemplationとして理解されるようになった。
それが邦訳されて〈瞑想〉と呼ばれるようになった。
ヨーロッパにおいても、カトリックやキリスト教神秘主義の伝統では瞑想を重視する。
ここから、仏教の瞑想もこれらのヨーロッパの伝統と比較され、また、心理学や精神医学の領域に取り入れられたりして、広く普及するようになった。
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さて,ブッダの「瞑想」だが,これは「深い精神集中のなかで根源的な真理と一体化する」でも「心を静める」「無心になる」でもない。
ブッダの「瞑想」は,「あれやこれやと考える」である。
現代人の「あれやこれやと考える」はパソコンに向かってキーを叩くだが,ブッダの「瞑想」はこれと対応するのである。
ブッダの頃は,筆記というものが無い。
理論の構築・保守・更新を,すべてアタマの中だけでやる。
これが,ブッダの「瞑想」である。
アタマとは本来このくらいのことをするものなのだが,人間は文字と筆記媒体をもつようになって,この能力を退化させてきた。
古代インドの筆記媒体は,ブッダの頃から数百年後に現れた。
それは,「貝多羅葉(ばいたらよう)」である。
「貝多羅」は,サンスクリット語 pattra の音写で,意味は「葉」。
ヤシ科のオウギヤシの葉の裏に先の尖ったもので文字を書くと,跡が黒く残る。
原始仏典はこの方法で書かれた。
そしてこれが中国に運ばれ,翻訳されて紙に写経される,となるわけである。
なお,つぎは苦行の「瞑想」の場合であって,考える「瞑想」ではない:
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『スッタニパータ Sutta Nipāta』, 3.2 Padhana Sutta
Taṁ maṁ padhāna,pahitattaṁ
nadiṁ nerañjaraṁ pati
viparakkamma jhāyantaṁ
yoga-k, khemassa pattiyā
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Nerañjarā 河の畔にあって,
安穏を得るために,
つとめはげみ専心し,
努力して瞑想していたわたくしに,
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Namucī karuṇaṁ vācaṁ
bhāsamāno upāgami
kiso tvam asi dubbaṇṇo
santike maraṇaṁ tava
‥‥‥
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ナムチはいたわりのことばを発しつつ
近づいてきて,言った,
「あなたは瘠せていて,顔色も悪い。
あなたの死が近づいた。
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- 引用文献・Webサイト
- 「貝多羅葉」の参考Webサイト
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