Up 「原始経典」とは 作成: 2018-03-13
更新: 2021-10-14


      中村元 (2011), pp.31-35.
    原始経典は、わが国では「阿含経(あごんきょう)」とまとめてよぶことがしばしばあります。
     「阿含」‥‥‥ もとのことばでいうと「アーガマ」(āgama) です。
    これは伝承、伝えという意味
    で、それが転じて聖典をいうようになりました。
    原始仏教聖典、ことに経典を「アーガマ」と読んできたものですから、それを中国の漢字で写すときに「アゴン」と写したわけです。‥‥‥
     原始仏教の聖典として現在残っているものは、パーリ語の聖典と、これに相当する漢訳諸経典 (阿含経など) および少数のサンスクリット聖典の断片です。‥‥‥
    パーリ語聖典はパーリ語という古代インドの一種の俗語で書かれていますが、スリランカ、ピルマ、タイ、ラオス、カンボジアで現在権威ある聖典として遵奉されているものであり、日本では全訳したものが「南伝大蔵経」(七十巻)として出版されています。
     また北方インドで栄えた仏教の諸派も、それぞれ聖典を編纂して伝えていたのですが、それらの原典はたいてい散佚してしまいました。
    サンスクリット原典の断片が中央アジアの遺跡から発見され、近年主としてドイツ、フランス、インドの学者によって整理刊行さ れています。

     こうした諸派の聖典集成は一般に三つの部類に区分されており、それを「三蔵」といいます。
    パーリ語聖典の三蔵は次の三つから成ります。
    (1) 律蔵 出家した修行者のための戒律の規定、およびそれに関連する説明を述べています。
    (2) 経蔵 釈尊および直弟子の教えを記したもので、次の五つの集成書から成ります。(下は相当する漢訳の経典)
      
    長部 (ディーガ・ニカーヤ) (じょう)阿含経』
    中部 (マッジマ・ニカーヤ) 『中阿合経』
    相応部  (サンユッタ・ニカーヤ) (ぞう)阿含経』
    増支部 (アングッタラ・ニカーヤ)  増壱(ぞういち)阿合経』
    小部 (クッダカ・ニカーヤ)
    最後の小部は十五の部分から成りますが、そのうちには「スッタニパータ』(非常に古い教えを含む)、『ダンマパダ」(法句(ほっく)経)、『ジャータカ』(釈尊の過去世物語)などを含みます。
    (3) 論蔵 教義に関する論書の集成であり、経蔵や律蔵の中に現れる諸観念や諸術語を論議している諸々の解説・注釈・研究です。
     さらにこの三蔵以外 (蔵外という) にもパーリ誇で多数の書物が著されましたが、そのうちでとくに有名なのは、「ミリンダ王の問い」です。
     パーリ語で書かれたこれらの聖典のうちには古い層もあれば新しい層もあり、幾世紀にもわたって逐次成立し拡大され、付加されたものです。


  • http://todaibussei.or.jp/asahi_buddhism/02.html から引用:
    現在、形式的に完備している原始仏典としては、パーリ語(「聖典の言語」を意味し、言語学的にはインド中部以西の言語と考えられている)で書かれた南方上座部のものがある。
    ブッダ自身は、故郷である北インド東部マガダ地方の言葉で教えを説いたと考えられており、布教や結集等を経て、パーリ語に移されたものと思われる。
    パーリ語仏典は、経の文章の長短に基づいて、以下の五つのグループに分類されている(括弧内は邦訳名、対応する漢訳経典の順)。
      1.『ディーガ・ニカーヤ』(『長部』、『長阿含経』)
      2.『マッジマ・ニカーヤ』(『中部』、『中阿含経』)
      3.『サンユッタ・ニカーヤ』(『相応部』、『雑阿含経』)
      4.『アングッタラ・ニカーヤ』(『増支部』、『増壱阿含経』)
      5.『クッダカ・ニカーヤ』(『小部』、漢訳なし)
    これらは昭和初期に『南伝大蔵経』として翻訳され、その後も続々と新しい日本語訳が出版されている。
    比較的有名な
      『スッタニパータ』
      『ダンマパダ』(『法句経』)
      『ジャータカ』
    などは、すべて5に含まれている。


  • 引用文献
    • 中村元 (2011) :『原始仏典』, 筑摩書房 (ちくま学芸文庫), 2011.