Up 「不明者の捜索」: 要旨 作成: 2016-04-29
更新: 2016-04-29


    大災害では,死者が出る。
    この死者の回収に,多くの人員が投入される。
    特に,応急対応時には,「不明者の捜索」の表現を以て,最優先項目になる。

    状況・時間からいって「不明者」とは明らかに「死者」のことであっても,「死者」扱いはできない。
    二次災害の危険が指摘される中でも,「不明者の捜索」は延々と続けられる。


    実際,今日「不明者の捜索」は,<終わりがないもの>になっている。
    「不明者の捜索」は,「やめ」を言うべき者が「やめ」を言うことで,終わりになる。
    しかし,「やめ」を言うべき者は,いつまでも「やめ」を言わない。

    このとき,「やめ」を言うべき者は,「いつまでやっているんだ・いい加減にやめろ」の雰囲気が十分に醸成されるのを待っているわけである。
    そして,そろそろよいかとなって,遺憾の表情を示し,「苦渋の決断」のことばを用い,「やめ」を発する。

    この「様式」は,ますます度を越したものに進化していく。
    なぜなら,当事者は,《過去の例に劣ってはならない・より丁寧に行わねばならない》で行動する者だからである。


    「不明者の捜索」は,フェーズが「死体の回収」に変わるとき,無意味なものになっている。
    死体回収に対する執着心は,心理の機制がつくり出しているものである。
    「執着心の希薄」と他から受け取られそうな言動を自己抑制し,この抑制が無意識になっている。

    この抑制は,死体回収作業の現場が死体回収不可能の場面であるとき,解放される。
    たとえば,大海原の場合がそれで,このときは「花輪」を投じて決着となる。

    これに対し,「広く見積もってもこの 100 m四方の土砂の中に埋まっている」の場合だと,抑制の競い合いになる。
    即ち,執着心の表明を互いに競い合うふうになる。
    こうして,掘り起こし作業が延々と続けられることになる。