Up 新型コロナウイルスの生態 : 要旨 作成: 2022-02-16
更新: 2022-02-16


    新型コロナウイルスの生態は,調べられていない。
    「調べられていない」には,2つの意味がある。
    1つは,ウイルスは小さ過ぎて,調べようが無いということ。
    もう1つは,この理由と関わるが,調べようとする者がなかなか出て来ないということ。
    今日,研究者は業績の速成が求められるようになっているので,業績を速成できそうもないようなことには手を出さない/出せないのである。

      数値データを取ってコンピュータの解析・統計ツールにかければ,何であれ結果が出てくる。
      モデルをつくってコンピュータシミュレーションすれば,何であれ結果が出てくる。
      業績速成が求められる時代は,これが研究の主流になる。

    そこで新型コロナウイルスの生態は,いまはこれまで調べられてきているインフルエンザウイルスから,類推するしかない。
    ただし,インフルエンザウイルスの生態調べも,《点を線でつなぐ》を推理でやっているというのが実態である。
    繰り返すが,ウイルスは小さ過ぎて,その生態は調べようが無いのである。


    ウイルス学は,《ウイルス=病原体》をウイルスの異常な現れと考える。
    ウイルスにとって,宿主を害することにメリットはないからである。
    即ち,つぎのように考える:
    • どのウイルスにも,本来の宿主──共生関係を築いている生物──がいる。
    • 《ウイルス=病原体》は,ウイルスが勝手の違う生物に取り込まれてしまった状態である。


    インフルエンザウイルスは,A, B, C の型に分類されている。
    このうち Aウイルスだけが,生態が調べられている。

    Aウイルスは,野性のカモないしガンがこれの宿主と目されている
    これらにおいては,《ウイルス=病原体》ではないからである。

    カモでは,Aウイルスは腸管上皮細胞で増殖する。
    ひとの上皮は,皮膚(外皮) と呼吸器官と消化器官である。
    カモの Aウイルスは,このうちの消化器官を使うというわけである。

      ヒトでは,Aウイルスは呼吸器官と消化器官を増殖に使えることになる。
      前者であれば咳が症状になり,後者であれば腹痛が症状になる。
      もっとも,皮膚(外皮) も増殖の場になっていて,ひとがそれに気づいていないだけなのかも知れない。


    カモウイルスは,そのままではヒトウイルスにはならない (とAウイルス学は見る)。

    ヒト感染は,「細胞のレセプターがウイルスと結合し,ウイルスを己の内に取り込む」のメカニズムで理解されている。
    抗原とはウイルスがレセプターと結合する部位をとらえたものであるが,ウイルスはヘマグルチニン(HA) とノイラミニダーゼ(NA)糖蛋白質の抗原特異性によって,それぞれ H1〜H14,N1〜N9 の亜型に分けられる。
    レセプターは特定の亜型にのみ感受する。
    そして,ヒト細胞のレセプターはカモウイルスの亜型とは結合しないというわけである。

    そこで,ヒト感染のAウイルスは,カモウイルスの進化形と見ることになる。
    さて,どこでどんなふうに進化するのか?

    Aウイルス学は,つぎのウィスル感染経路を考える:
      野性カモ → 家禽アヒル/ニワトリ → 家畜ブタ ←→ ヒト

    → は,感染する亜型がそれぞれ存在する。
    そこで,ブタのところでトリウイルスがヒトウイルスに変異する,と推理する。
    つぎがそのシナリオの1つである:
      1つの細胞が,トリウイルスとヒトウイルスの両方を取り込む。
      細胞内で両ウイルスの遺伝子の再集合となるが,このとき両ウイルスの遺伝子が混じる。
      そしてたまたま,<ヒト細胞が感受する亜型へと変わったトリウイルス>ができる。


    新型コロナ感染は,ウイルスが人を侵略しているのではない。
    人が勝手に,ウイルスを呼び込んでいるのである。
    そして,勝手に吸い込んでいるのである。
    ここは,「呼び込まれそして吸い込まれたウイルスこそ,いい迷惑」と見るところである。

    ひとは,ずいぶん自分勝手なものの考え方をする。
    自分でいろいろ生き物を呼び込んでおいて,つぎに人間を害するもの/存在すべきでないものと定め,それらの駆除・撲滅にかかる。
    成したあかつきには,「人類の勝利」を高らかに謳う。

    生き物を殺すことに是非はないが,リスペクトできるほどには相手のことを学ぶべし。


    参考文献
    • 喜田宏 (1993) : 新型インフルエンザウイルスの出現機構
        化学と生物, vol.31(3), 1993. pp.154-162.