Up 「抗体検査」 作成: 2020-06-17
更新: 2020-06-26


      読売新聞, 2020-06-17
    コロナ抗体 1000人に1人
    東京,大阪
    識者「第2波備え必要」
     新型コロナウイルスの感染歴を示す抗体を持つ人が、感染の広がった東京や大阪で1000人に1〜2人程度にとどまり、大半の人が抗体を持っていないことがわかった。 厚生労働省が16日、東京、大阪、宮城の3都府県で行った抗体検査の結果を公表した。 海外と比較しても低水準で、流行の第2波が来れば再び多くの人が感染する可能性がある。
     抗体検査は、ウイルスに感染した際、体を守るためにできる免疫物質の抗体が血液中にあるかどうかで、過去の感染の有無がわかる。 厚労省は感染状況の実態把握のため、感染者の多い東京と大阪、少ない宮城で、計7950人の一般住民を対象に検査した。
     その結果、抗体を持っていた人は、東京が1971人のうち2人 (0.1%)、大阪が2970人のうち5人(0.17%)、宮城が3009人のうち1人 (0.03%) だった。 より正確な判定のため、2種類の検査試薬でいずれも陽性の場合に「抗体あり」とした。
     一方、抗体があっても、体内でどのくらい持続するかや、再度の感染を防ぐ効果があるかは分かっていない。 今後、国立感染症研究所などで詳細を調べる。
     抗体検査は、欧米を中心に導入が進み、米ニューヨーク州は5月、住民約1万5000人のうち12.3%から抗体を検出したと発表した。 水谷哲也・東京農工大教授 (ウイルス学) は「海外の都市と比べて非常に少ない値で、国や個人の感染予防策がうまくいったのではないか。ただ、大半の人が今後も感染する可能性があることも意味しており、第2波に備えた対策は必要だ」と指摘している。


    ひとはこの記事を読んで,「識者」の言う「第2波への備えが必要」を受け取る。
    そして,「自粛をまだまだ続けていかねば」となる。
    「識者」とは,「自粛」を終わらせないようにする者のことである。


    抗体検査で陰性 (「抗体無し」) となることは,「まだ感染していない」ではない

    抗体検査は,血液検査である。
    採取した血液で抗体濃度が或る値以上のとき,「抗体有り」になる。
    逆に,抗体があってもその濃度値以下であれば,「抗体無し」になる。
    したがって,過去に感染していても抗体が減れば,抗体検査で「抗体無し」になる。

    抗体検査キットの宣伝文句で「新型コロナウイルスのPCR陽性者・陰性者との結果一致率が99%・98%」のようなのを見かけるが,紛らわしいフレーズである。
    言っていることは,
      「PCR検査で陽性ならば,抗体検査でも陽性
      (抗体検査で陰性ならば,PCR検査でも陰性)」
    であり,
      「PCR検査で陰性ならば,抗体検査でも陰性
      (抗体検査で陽性ならば,PCR検査でも陽性)」
    ではない。
    ましてや,つぎを導くものではない:
      「抗体検査で陰性ならば,まだ感染していない」


    ひとは「必要条件・十分条件」の考えが弱いので,たいてい混乱してしまう。
    抗体検査の利用目的は,つぎの二つの命題のいずれかの適用である:
    1. 「抗体検査で陰性ならば,PCR検査でも陰性」
    2. 「抗体検査で陽性ならば,いまあるいは過去に感染している」
    前者は,PCR検査で陰性であることを願う者が,PCR検査は敷居が高くなるので抗体検査で代用する場合である。 ──このときは,抗体検査で陰性が出てくれないと意味がない。
    後者は,感染を既に済ましていることを願う者が,利用する場合である。 ──このときは,抗体検査で陽性が出てくれないと意味がない。


    「識者」は,つぎの違いに対し「国や個人の感染予防策がうまくいった」と説明している:
     「 米ニューヨーク州は5月、住民約1万5000人のうち12.3%から抗体を検出」
     「 東京が1971人のうち2人 (0.1%)、大阪が2970人のうち5人(0.17%)、宮城が3009人のうち1人 (0.03%)」

    そうではない。
    日本に見る抗体検出率の低さは,新型コロナの感染は,抗体がつくられにくい (自然免疫レベルでほどんど片がつく) か,あるいはつくられた抗体が治癒後すみやかに減少することを,示している。
    そして日本とアメリカの抗体検出率の違いは,体質あるいはウィルスの地域性を示している。