Up 「対策ゼロなら40万人死亡」 作成: 2020-04-15
更新: 2020-06-29


      日本経済新聞, 2020-04-15
    https://www.nikkei.com/article/DGXMZO58067590V10C20A4CE0000/
    「対策ゼロなら40万人死亡」
    厚労省クラスター対策班
    新型コロナウイルスの感染拡大で、人と人との接触を減らすなどの対策を全く取らない場合、国内では重篤患者が約85万人に上り、半数が亡くなる恐れがあるとの試算を厚生労働省のクラスター(感染者の集団)対策班が15日、公表した。
    公表した対策班の西浦博・北海道大教授(理論疫学)は人工呼吸器などによる呼吸管理や集中治療室(ICU)での治療が必要となる人を重篤患者として推計した。
    試算は海外の流行を基に、1人が平均して感染させる人数(実効再生産数)を2.5人と仮定した。外出自粛要請などの対策を全く取らなかった場合、重篤患者数は15〜64歳が約20万1300人、65歳以上の高齢者が約65万2000人で計85万3300人となった。
    試算では対策をしなかった場合、重篤患者の49%が死亡すると予測。西浦教授は死者数を出していないが、単純計算で約41万8000人が亡くなることになる。
    試算した西浦教授は「新型コロナウイルスに対して何も対策をしない丸腰だった場合の数字。このウイルスは接触を大幅に制限すれば流行を止めることができる」と指摘。人と人との接触を8割減らせば、約1カ月で流行を抑え込めるとの見方を改めて強調した。


    単純モデルを立てる者に,よくあるパターンである。
    単純モデルを立てる者は,「こんな数値だったらすごいな」の数値を予め想っていて,モデル計算でこの数値ないしさらにすごい数値が出るとすっかり興奮してしまい,その数値を信じてしまう。


    「対策ゼロ──いつも通りに」の国として,2例が挙がる。
    スウェーデンとブラジルである。
    この二つは,「いつも通りに」の理由も異にしている。
    スウェーデンは,「いつも通りでかまわないだろう」である。
    ブラジルは,「いつも通りでいくしかない」である。
    「ブラジル:新型コロナ死者2万人」の読み方)

    で,二つの国は,いまどうなっているか。
    6月27日現在の死亡数が,つぎのようになっている:
         死亡数 
        スウェーデン 5280
        ブラジル 55961

    スウェーデン,ブラジルの総人口をそれぞれ 1004万人,21105万人として,100万人あたりの死亡数をこの表にくわえると:
         死亡数  総人口 /100万人
        スウェーデン 5280 1004万 526
        ブラジル 55961 21105万 265

    ここで,つぎの事実も加味せねばならない:
       アジアの国とヨーロッパの国の間で「100万人あたりの死亡数」を比べると,
    アジアの国がヨーロッパの国より桁違いに少ない

    上の表に,インドを加えてみよう:
         死亡数  総人口 /100万人
        スウェーデン 5280 1004万 526
        ブラジル 55961 21105万 265
        インド 15685 136642万 11

    さらに,日本の「対策ゼロ」の場合として,インフルエンザの死亡数をこの表に加えるとしよう (日本(イ))。
    2017年まで遡って,12月〜6月で死亡数がいちばん多いところをさがすと,2017年12月〜2018年6月の 3339人 になる──ちなみに,2018年12月〜2019年6月は 3304人。
    日本の総人口を12686万人として:
         死亡数  総人口 /100万人
        スウェーデン 5280 1004万 526
        ブラジル 55961 21105万 265
        インド 15685 136642万 11
        日本(イ) 3339 12686万 26

    仕上げに,「対策ゼロなら40万人死亡」を100万人あたりの死亡数にしたものを表に加える (日本(コ)):
         死亡数  総人口 /100万人
        スウェーデン 5280 1004万 526
        ブラジル 55961 21105万 265
        インド 15685 136642万 11
        日本(イ) 3339 12686万 26
        日本(コ) 400000 12686万 3153


    「対策ゼロなら40万人死亡」がいかに途方もないことを言っているかは,見ての通りである。
    しかも,これを発表した4月15日の時点では,新型コロナがせいぜいインフルエンザ並みのものであることが,はっきりしていたのである。