Up 特定人物の同定 作成: 2021-01-12
更新: 2021-01-12


    親が顔に面をつけて,幼い子どもに見せる。
    子どもは,これを怖がる。
    面を外しても,直ちに「なぁーんだ」とはならない。
    しばらく不安な感情にとらわれる。
    この不安な感情を無くさせるものは,「面」の学習経験である。

    ハシボソガラスは,特定人物を同定していくためには,この種の学習を積まねばならない。


    これまで,ハシボソガラス01 に対してつぎの餌やりを実験してきている:
      わたしが左の台に坐り,右の台の上に餌をおく (台の高さ 28cm):

    いまは,つぎのところまで来た:
    • ♂は (警戒は解かないが) すぐに餌を取るようになった。
    • ♀も (かなり恐る恐るの(てい)で,そしてかなりぐずぐずしした後であるが) 餌を取るようになってきた。──ただし,餌を台の右端に置き,♀を見ないようにしてやらねばならない。

    ここでわたしが,ボソ01の見慣れぬ帽子 (冬帽) をかぶって現れる。
    すると,♂♀とも近づいて来なくなる。
    帽子をはずしても,「なぁーんだ」とはならない。
    そして次からは,はじめから帽子無しで現れても,警戒するようになる。

    この場合,♀の方がすぐに慣れる。
    帽子姿に拘わらず,(かなりぐずぐずした後ではあるが) 餌を取るようになる。
    但しこの「大胆」は,「鈍い」ということになるのだろう。
    鏡像の実験のときもそうであったが,新しい現象に対しては♂は強く警戒し慎重になる。
    《明確なことに対しては大胆に,不明なことに対しては慎重過ぎるほど慎重に》が生き物の生きる術であり,前線に立っている♂はこれをしっかり身につけ,♂の後についている♀はさほどでない──ということなのだろう。


    「特定人物の同定」に話を戻そう。
    他の生き物の場合と比べて,人間の<特定個の同定>は特異なものになる。
    人間は,外装 (衣服・装身具等) で外観を変える生き物である。
    (なま)の体で外に曝しているのは,顔だけである。
    よって,ひとは人物の同定を,顔で行う。
    その他の外観は,体形も含め,無視する──それらは同定を間違わせるものだから。

    <特定人物の同定>のこの方法は,学習して獲得されるものである。
    特定人物と係わりをもつ生き物は,この学習を積んでいかねばならない。