「ハシボソガラス」「ハシブトガラス」は,文字通り嘴の形状の違いからつけられた名前である。
この「嘴の形状が異なる」については,進化論的意味を考えることになる。
それは,つぎのようになる:
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更科功 (2018), pp.110-112
ガラパゴス諸島には 10 種以上のフィンチが住んでいるが、その中にはクチバシの大きい種も小さい種もいる。
クチバシの大きい種は、大きくて硬い種子を割って食べることができる。
クチバシの小さい種は、小さくて柔らかい種子しか食べることができない。
したがって、クチバシの大きい種は大きくて硬い種子を、クチバシの小さい種は小さくて柔らかい種子を食べているのだろうと思われていた。
ところが実際は、そうではなかったのだ。
イギリスの生物学者であるピーター・グラント (1936〜) とローズマリー・グラント(1936〜) の注意深く粘り強い研究によって、フィンチが何を食べているかが明らかになった。
クチバシの大きいフィンチも小さいフィンチも、小さくて柔らかい種子を食べていたのだ。
それでは、どうして形の違うクチバシが進化したのだろうか。
それは、島が干ばつに襲われたときのことだった。
多くの植物が枯れて、小さくて柔らかい種子が減ると、大きなクチバシのフィンチは、大きくて硬い種子を食べ始めたのだ。
クチバシの小さいフィンチは、それでも小さくて柔らかい種子を何とか探して食べていた。
干ばつのときは食物が減るので、普段より苦労するのは仕方がない。
だから、大きなクチバシのフィンチは、割るのに手間がかかるけれど、大きな硬い種子を食べた。
一方、クチバシの小さなフィンチは、探すのに手間がかかるけれど、小さくて柔らかい種子を食べ続けた。
しかし普段は、そんな苦労をする必要はない。
だって、小さくて柔らかい種子が、そこら中にたくさんあるのだから。
それならクチバシが大きくても小さくても、探すのにも割るのにも手間がかからない、小さくて柔らかい種子を食べるのが当然だろう。
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人の居住地は,ハシボソ・ハシブトにとって「柔らかい種子」である。
「嘴の形状が異なる」の意味は,ここでは現れにくい。
実際両者は,ひとが「カラス」として一括りし区別しないところになる。
「柔らかい種子」二題
- 動物が山から人里に降りてくるようになるのは,山が餌の不足するところとなったからではない。
人里が,餌を取りやすくそしてよい餌のあるところであり,そして人が恐れるものでなくなったからである。
- ハブを駆除しようとしてマングースを放したら,マングースはハブなど襲わず,家禽や作物を獵る害獣になった。
マングースがハブと闘うのは,好きでやっているわけではない。
害虫・害獣駆除に「天敵」を発想する者は,皆ここのところで勘違いしているわけである。
引用文献
- 更科功 (2018) :『絶滅の人類史──なぜ「私たち」が生きのびたのか』(NHK出版新書541), NHK出版, 2018
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