Up 黄土高原の「水土流失」 作成: 2024-05-08
更新: 2024-05-10


    中国の黄土高地は,猛スピードでサバク化が進行しているところである。

    この地の気候は,日本と同じ「中緯度圏の気候」と位置づけられるものである:
      春 (冬から夏への移行期) と秋 (夏から冬への移行期) に雨が多く,
      相対的に夏と冬が乾季
    しかし黄土の露地の場合,雨は表土を流失させる方に働く (とりわけ夏の集中豪雨)。
    ──中国の言い回しで,「水土流失」。

GEN (2013), p.4 から引用
黄土高原の範囲



Google Map から,上と同じ範囲を引用


      Wikipedia「黄土高原」(2024年時点)
    長年にわたり現在の中国北西部の砂漠地帯から風に巻き上げられた砂塵がこの地に降り積もり堆積した結果、分厚い黄土の層ができた。
    黄土高原の堆積年代は、二百数十万年前 (新第三紀末) から現在まで長期にわたり、黄土が堆積してできた地層の各層厚にはばらつきが多い。
    黄土は非常に固いが、水には簡単に浸食されるほか、一旦崩れると粉状になって飛び散りやすい土壌である。
    平らな台地の縁側では、崖状の急斜面を成す地形が形成され、降水時期にはがけ崩れが頻発する。
    このため、大小さまざまな崩壊跡が随所でみられ、中には斜面の安定性が損なわれた大規模な地すべりをも誘発している。
    これらの黄土は濁流として黄河に流され、乾季には風に巻き上げられやすい状態にある。
    また、黄土高原では風成堆積物に特有の陥没が頻繁に発生している。

桜井 (1987), p.53 から引用
黄土中流域における年間の泥土流出量の分布

      同上
    図によれば,楡林から北の沙漠化地域では,年聞に 10 ~20 kg/m² に達する表土の浸食・流亡が起っていることがわかる。
    実測によれば黄土のみかけの比重は平均1.6なので,上記の浸食量は,地表から平均して毎年厚さ1cm 前後の土壌が失なわれることを意味している。

探秘志「黄河源头在哪?几口流淌上亿年的泉眼 (发源于巴颜喀拉)」から引用


NHK「中国黄河源流ヘの旅」(2015) から引用


      Wikipedia「黄土高原」(2024年時点)
    黄土高原は,中国でも土壌流失が最も激しい一帯である。
    人間の活動で森林や草原が失われた結果、雨で腐葉土など養分豊かな表土はほとんど流れ去ってしまい、ますます植生の再生が困難になっている。
    黄土高原の土壌はアルカリ性でしかも黄土が固く、植物が育ちにくい。
    一旦木を切ると森林が再生しにくい場所だといえる。
    この数千年間に起こった戦乱、森林伐採、過剰な開墾・放牧などにより、黄土高原の植生は破壊され、土壌の流失が加速し、一帯の地形は無数の水流が削ったために溝だらけのような状態(「千溝万壑(せんこうばんがく)」)になっている。
    現在森林がまばらな黄土地帯も、古代中国の時代には広く森林に覆われていた。
    殷王朝の時代には、山西省と陝西省は大部分が森林地帯で、アジアゾウなどの大型動物も生息していた。
    森林の後退は、気候の変化によるもののほか、
      不断に続いてきた戦争による混乱、
      都市・要塞・長城の建設に使う木材の伐採、
      煉瓦製造用・金属精錬用・生活用の燃料にする樹木の乱伐、
      人口増加から来る過剰な農耕や放牧
    など不合理な土地利用により進行した。
    新中国発足後、1950年代以降の極端な農地開発もこれに拍車をかけた。
    高原の植生はもはやわずかとなり、古代には50%を超えていたと見られる森林率は5%程度となっている。
    高原の東南部はまだ良いといえる状態だが、西北部の草原地帯は乾燥化や砂漠化が進んでいる。

      桜井 (1987), p.53
    例えば,黄河中流の大湾曲部に囲まれた陝西省北部と内蒙古自治区南部の一帯は,現在は広大なホブチ沙漠とムウス沙地となっているが,この地域は前述のように年降水量が 300~ 400mm あり,気候も温暖なため,約1000年,あるいは近々200 年位前までは,草原あるいは森林であったこ とを証明する史料が沢山残っている。
    また現在はホブチ沙漠の東縁部lに当る陝西省北端の清水河流域には,12世紀末まで原生林が存在したという。

      高見 (2014)
    黄土は粒径が0.004〜0.06mmのシルトで、乾いているときはスコップの刃がたたないくらい固い。 ところが、砕かれると微小な粉になって風に舞い、わずかでも水が加わるとグリスのように溶けて流れだす。‥‥‥
    黄土高原で森林がなくなった一番大きな原因は過剰な耕作である。
    山や丘陵の急斜面まで畑が耕されてきた。
    ヒツジ、ヤギなどの放牧もある。
    被害が深刻なのは春先で、青いものがどこにもないため、前足で草の根本をかき出して食べている。
    ヤギは急な岩場も登っていく。
    林業関係者は「100人が植えた木を100頭のヤギが台無しにする」と話すが、実際はそれ以上かもしれない。
    政府は懸命に規制しており、農家が放牧で得る収入も多くはないが、貧しい村ほどそこからの収入を無視できず、完全になくすことができない。
    生活燃料を得るための伐採もある。
    大同は中国有数の石炭産地であり、農村でも石炭を使うことが多かった。ところが原油の値上がりに引きずられて石炭価格も上昇し、2000年に1t60元だったものが、2008年末には850元になり、いまでは1000元を超えている。
    そうなると農家は手を出せない。
    トウモロコシやヒマワリの茎や芯、アワ、キビの藁などを燃やしているが、足りない分を山に求める人が一時期より増えた。

NHK「空旅中国 黄河を飛ぶ」(2023) から引用


GEN (2013) の口絵から,キャプション込みで引用
南郊区七峰山からの風景。耕して天に至る過剰な開墾は砂漠化の主要原因
渾源県三嶺村。黄土高原の典型的風景。迂回道路ができたために現在はこの道を通らない
[ 引用註 : 左に,洞穴式集合住宅「窰洞(ヤオトン)」が見える ]
渾源県呉城村。黄土高原を刻む侵食谷
放牧のヒツジやヤギは草だけでなく、山に登り背のとどく範囲の木の葉まで食いつくす。
最近放牧の規制が厳しくなり、無秩序な放牧はなくなった